ゆめのうきはし
『まァつまり言うとですね、人間誰だって努力すれば強くなれるんです。努力は報われるってやつですね、はい。嘘です。努力は報われません。報われようとする努力なんて報われるわけありません。なんですかその傲慢、あなたはただの人間です。神にでもなったつもりか。努力なんて重ねたってね、強くなるのは当たり前だけど“本物”にとっちゃ遠く及びません。世間を舐めるな。誰だ努力は報われるっていったやつ。怒らないから出てきなさい、今ならビンタで許してあげます。
『才能は平等に与えられると言いますがそれも嘘です。才能は持つ人は持って持たない人は持ちません。一切持ちません。もし持ってるなら今頃世間は弱者の人間なんて生まれておりません。才能持ってる人はとことん恵まれてるし、持たないやつは普通のつまらないなんとなくの人生を過ごしています。恵まれてないやつは一種の才能を持ってるのかな笑。自分はそんな人生絶対に送りたくないケドネ。才能を持ってる人は周囲の人間を惹きつけるし誰からも好かれたり覚えられたりするけど、持たないやつは誰の記憶にも残らないでしょう。知らんけど。好かれようとしても好かれるわけありません。好かれようとするな。希望を持つな。なんで自分から好こうとしない?そんなんだからモテないんだよ馬鹿。
『簡単に言うとですネ。人間、才能を持ってないやつは分をわきまえて行動すれば傷つかないってわけなんです。自分には才能がないと理解すればいいですね、そしたら行動はグンと変わります。もしかしたら好かれるかもね。低確率でだけど。自分には才能があると勘違いして行動するやつは見ていてとても痛ましいんです。あまりにも滑稽、愉快、無様。天才のフリをしたって結局凡人のままで終わりますからね、それに費やした労力・時間・金すべてドブにポイですよ。まァそんな人を見て笑うのがとっても楽しいんですが。黙れ。性格悪くたってね、人を惹きつけられればこっちの勝ちなんです。あと愛想とスタイルと顔の良さが揃えば大勝利。何をしても許されます。
『世間の例を見てみましょう。ええ、偉大なる
『才能にも度合いはあります。知らんけど。多分神様に愛されたんでしょうね、前世で徳を積んだのか地獄で来世ぶんの罪も引き受けたのか、はてさて。ちょっとしか才能がないやつは人よりも少し優位。それだけ。持ってたら嬉しいけど別に持ってなくても変わらない、まァようは駅前で配られるポケットティッシュなんですよ。あは。これポケットティッシュ過激派に殺されるかな。知らね。
『うだうだうじうじ悩んで悩んで妬いたって変わんねえんですよ、そもそも持ってる才能の差があるから。身の程を知れ、それか最後までピエロを演じきれ。ロンドロンド。ぐるぐるぐるぐる回って回って回って踊り疲れて、それで誰かが笑えばもう手前の勝ちだ、才能なくても人を笑わせられた。画面越しで誰かが笑っているぜ、称賛なのか侮蔑なのか知らねえけど。ちょっとしか才能のないやつ、才能のないやつ!そんなつまんねえ生き方で満足か?満足してんだろうなあ、事なかれ平穏に!平穏バンザイ、やめちまえよそんな人生。劣等感に苛まれて死んでしまえ。
『おっと、失礼。つい言葉が汚くなってしまいました。ウフフ、申し訳ありません。
『人間は生涯で何を求めるでしょうか、名声・権力・富その他諸々どす黒くてハッピーな野望。そんなものがないというのならお前はただの持たざるものだ、来世で持てることを期待して無駄に時間を過ごしてろ。たったひとつでもいい、それすら思いつけない、平穏が良いと思う人はもうだめです。才能なんてない。ただひとつも。マ見捨てるのが最良でしょうね、どうせ後でぬかるみのように才能を持つものを羨んで狂って死んでしまうんですから。その死体を処理するのは誰?それはもちろん、才能に群がるごみむしですよ。雑にゴミ袋に詰められてポイ。手間がかかるこって。お後なんてよろしくないに決まってる、よろしいのは何も知らないやつだけだ、のうのうと笑ってるやつだ、挫折しても復活するやつ。
『そう、天才だ。
『お前は天才か?誰かを踏み台にしてガラスの靴を履けるシンデレラか?ダンスホールで悠々と踊れる人間か?すべての祈りを背負えるか、祈らずとも願いを叶えるか?上等だプリンセス、自分でプリンスを見つけて捕まえてこい!
『……何、プリンスがいない?ははぁ、知らねーよそんなの、じゃあどっかからプリンセスを攫っていけ。そんなことも考えられないならお前は天才じゃない。悪でも生でも善でも邪でも、“人並み”からちっとでも外れりゃ天才だ。もう一つ条件加えるとしたら“他者を魅了する”やつだ、そうじゃないならお前はただの社会不適合者、ただの劣等種。“人並み”よりも下の、他者から覚えられない哀れなやつ!慈悲を与えられることに感謝しろ、踏み潰されたって本来誰も気に留めないんだ。誰だってグレゴール・ザムザにはなりたくないだろ?
『星々に囲まれて称賛されるのが願いでした。一等星になりたかったんです。結局自分は他の星の輝きに目を奪われて、見向きもされませんでした。自分は星ではありませんでした。ただの燃え尽きた塵でした。人々はありがたがっていたそれが、塵と分かった途端つばを吐きかけるように興味を失います。見つけてもらえません。どこにも届かず死んでしまいました。めでたしめでたし。
『あーあ。
『ありふれた話さ、シスター。いにしえから、ずっと昔から身に余る力を持つものはその力を持って身を滅ぼしてきただろ?力を持つやつはどこか狂ってる、狂い出す、誰かから殺される!ジャンヌ・ダルクは殺された、ナポレオン・ボナパルトは追放された!歴史から称えられてる人間だって、その末路は悲惨なものだった!!お前はローマのようになりたいのか、ジョンのようになりたいのか!?違うだろ!!お前は愚図で愚鈍でありきたりな平穏の中、羽毛のような幸せで死にたいんだろ!!誰からも恨まれない美しい願い!!新聞にのることもない普通の終わり!!ああいい願いさ、一生“特別”にはなれないがな!!
『夢追い人のまま死ねば馬鹿だと言われる。平凡に生きてたら誰にも覚えられない。道化になりきったって、骨の髄まで溶かしきれなきゃ唾を吐かれる。誰かに見てほしいと叫んで布団の中、ぬくぬくと生きさらばえているだけだ。恥と思うか幸福と思うか。そんなお前らの上を踏み潰していくのが天才だ。ネズミを戦車で殺すような暴力。蔓延している夢に突如として殴り込んできた鮮烈な恐怖。それを全部引っ提げたうえで殺しに来る。お前らが憧れる天才は人殺しだ、大罪人だ、地獄人だ。浄土になんて行かせない、閻魔様に告げ口してでも引きずり下ろしてやる。蜘蛛の糸なんて切ってやる、石を積んだら蹴飛ばしてやる!
『そんなことをしたいのか、本当に?どうしたいんだお前は。何がしたい、何をしたかった?どうして憧れた何に憧れたどんな理想を抱いていた?どんな泥舟に乗って沈んでいった?どんな光で窒息した?分からないはずがない、分かってるはず、分かってるつもり。お前は何に、誰に、どうして!何故、人殺しに憧れた?
『何をしたかった?
『夜に慰められるのが怖かった。
『朝が祝福してくるのが怖かった。
『何もかも壊してしまいたかった。
『全部殺してしまいたかった。
『私は天才になれませんでした。
『道化にもなれませんでした。
『死ね。死んでしまえ、お前なんか。
『まァ、つまりだシスター。
『これは全部、夢だ。
『自分の才に気付けないやつは死んじまえッて話だ』
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