第23話 気付いたらヒロインから壁ドンと頭を撫でられていた。
「いいこいいこ」
そう言いながら俺の頭の上に手を置いた。その言動に驚いた俺は後ろを振り返るが、彼女は目線を合わせずにそのまま頭に手を置いたまま言葉を続けた。
「なんか頑張ってるなと思いまして」
「ちょっ、やめてよ。恥ずかしいじゃん」
「私と中谷匠の仲で恥ずかしがることないじゃないですか?」
「そこまで関係の距離近くないだろ」
顔を少し赤くしながら秋元さんの手を払う。彼女はその言動に少しムッとした顔をした後、再度俺の頭に手を伸ばし今度は両手でガシッと掴んだ。
「わっ、頭ぐしゃぐしゃになるからやめろって」
「なればいいじゃないですか、わしゃわしゃ」
頭を掴まれながら必死に抵抗して、ようやく息切れしながら秋元さんの手から逃れた。彼女は少しムッとした顔のまま、俺を見つめる。
「頑張ってるとは思います、思いますけどね」
「なんだよ?」
「さすがに高校生の男児として、この食事は駄目です」
指を目の前に突き出し、グイッと迫ってくる。突然の指摘とその勢いに思わず後退りとともに仰け反った。
「前から不健康な見た目だと思っていましたが、停学が決定した日よりさらに痩せましたね。もしや食事を疎かにしてるのでは?」
「ぎくり」
彼女の言葉に図星をつかれ、思わず声に出る。その反応を見て彼女はまたムッとした顔になり、さらに俺へ詰め寄った。俺はそれに合わせて後ろへ後退する。
しかし、俺の後ろはすぐ壁でこれ以上下がることはできないとわかった秋元さんはそのままの勢いでドンッと俺の顔の横の壁に手をつき顔を近づける。
「どうなんです?」
いわゆる壁ドンというやつだ。
これは女子がされたいシチュエーションランキング第1位と思われる壁ドンだが生憎こちらは男子なので全く嬉しくない。むしろこの状況だから逃げ場がなくて怖い。
「昨日の昼食以来なにも食べてません。停学してからまともなものは食べてません…」
「やっぱり」
そもそも1人暮らしを始めた当初は頑張って自炊していたものの、次第にめんどくさくなりコンビニ弁当やカップ麺に頼るようになった。今では週に一度自炊すれば良い方である。頭痛がするとでも言いたげに秋元さんは頭を抱え、そして携帯を取り出し何処かに電話をする。
「どこに電話してんだよ」
「私が手料理をここでパパッと作ってあげれればいいですけど、生憎料理はできないので」
「それで?」
「なので近くのファミレスに待機させていた伏兵を呼びます。あっ、もしもしー」
「ちょっと待てよ、どういうことだよ」
俺が話しかけても無視し、彼女はそのまま電話の相手と話を続ける。話が終わるのは意外と短く、1分と経たずに終わった。
「あと5分で着くとのことです」
嫌な汗が頬を伝ったのは言うまでもない。
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