第17話 孤独な者よ、君はストーカーの道を行く。

「えっと、大盛りポテトたらこマヨ一つ。チーズインハンバーグ一つ。マルゲリータ一つ。あとは……食後にチョコケーキミニを一つ。他に三人は食べたいものある?」


「特にないけど」


「まっ、じゃあそんな感じでお願いします」


 アイリーさんは店員に注文を伝えると、メニューを閉じた。

 すっかり氷が溶けたジュースを飲み、そして改めて目の前に座るアイリーさんに視線を移す。彼女はどこか落ち着かない様子で視線を泳がせているように見えるが気のせいだろうか。


 店内は仕事帰りのサラリーマンや学生でごった返しており、その騒々しさが俺たちの間に流れる沈黙をより際立たせる。


「いっぱい注文するんだね」


「やっぱりダメかな…いっぱい食べる女子ってよくないかな?やっぱり可愛くないよね?」


「いやそんなことはないと思うよ。かわいいよ」


「まあ、こんなこと言われたら誰でもそういうよね」


 流暢な日本語で自分を卑下するアイリーさんにそう声をかけるが、どこかよそよそしく距離があるように感じる。

 あまり飲みたいと思ってなかったがジュースを再び一口飲むと、炭酸特有の刺激微妙に残ったものが鼻の中を通り抜けていく。


 よし今話すしかない。


「とりあえず、アイリーさんは一条のスト」


「ごめんなさいっ!!」


 その瞬間、俺の言葉を遮るようにしてアイリーさんが机に顔をぶつける勢いで頭を下げた。というよりぶつけた。


「あいったぁ〜」


「大丈夫っ!?冬美ちゃん、怪我してない?」


「怪我してないといいなぁ。あいたー」


 おでこを摩りながら顔をあげたアイリーさんは隣に座る可愛川さんに向かって苦笑いを浮かべる。

 そして彼女は、その視線を俺に戻すと少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「あたしはハルキのストーカーをしています」


「重すぎる告白だろ…」


 ストーカーはなんとなく分かっていたが、本人の口から言われると改めてアイリーさんと一条の間にあった複雑で理解しがたい関係を感じてしまう。


「ストーカーって、まさか今日カラオケにいたのも尾行してたから?」


「はい…たまたま学校内でハルキのストーカーをしてたらカラオケに行くって話を聞いちゃって、しかもマナツさんやハル、モミジみたいな美少女をはべらせていくとか、カラオケ・女子・男子と言ったらもう合コンかヤリ」


「言わせないよっ!?」


 今とんでもないこと言おうとしてましたよね!?

俺の聞き間違いじゃないですよねっ?そんなあっさりとしたテンションで言えるような言葉じゃなかったんですが。

 すると、突然アイリーさんは席を立ち上がり俺の手を取ってきた。白く細い指だ。


「だって仕方ないじゃないですか!?もうそんなことになったら取り返しつかないし、それに可愛い子とカラオケ行って何も起きないわけないじゃないですか!?もうこうなったらストーカーしてカラオケまでついていくしかないと」


「俺の脳内のアイリーさんの像が崩れていく…」


 なんというかもっと、こうミステリアスで大人な雰囲気だったのに。こんな危ないキャラと思っていなかった。

 俺は手を払って席に座りなおした彼女と向かい合う。


「気になったのですが、先ほど坂本正木に連れてホテルとやらに帰りましたよね?どうやって一条ハルキを尾行したのですか?」


「あーさすがにアタシもそこは焦ったよ〜。だから本当は泊まってないホテルまでマサキにわざわざ送ってもらって、そのあとハルキにあげたキーホルダーに入ってるGPSでハルキの位置を把握した後に駅で待ち伏せしてたの」


「ちょっと待ってくれ、GPS?」


「うん、乙女の必需品だよ?」


 そうなんですか、乙女のみなさん!?

俺の知ってる乙女はみんな持ってるんですか、そういうものなんですか?現代の乙女怖くないか。


「ちょっと待って理解が追いつかない…。整理しよう、まずストーカーって具体的に今まで何をしてきたんですか?」


「学校とか家とか行き先をずっと尾行したり、待ち伏せしたり、私物盗んだり、隠し撮りしたり…口に出すと恥ずかしいな、えへへ」


「いや恥ずかしがることじゃないからっ!!そんなことまでしてるのか?ふつーに怖いよ、犯罪だよっ」


 頬を赤らめてもじもじとするアイリーさんに、俺は思わず突っ込んでしまった。

 犯罪じゃん!やばいじゃん!!てか一条は一条でなんで気づかないんだよ!?ちょっと尾行してる程度か最初思ってたらビッシリ法の線越えちゃってるじゃん、超えるどころかその先へゴールしてるじゃん!!


 そうなってくると、このストーカーをどう対処すればいいんだ……警察?いやいやさすがに大袈裟、大袈裟なのか?でもなぁ……。


「わかってるの、ダメなことだって。やめなきゃやめなきゃと思ってるうちに体が動いちゃってるんだよ」


「わかるその気持ち」


「わかるな。ていうか可愛川さんも同意しないで」


「いや確かに怖いよ、さすがに引いたよ。でも好きな人のためにそんな動けるってすごいじゃんっ、はる今日までなにもできてなかったから尊敬だよ。めちゃくちゃ尊敬。やっぱり恋の力ってすごいなぁ」


「ストーカー受けてる本人からしたら恐怖でしかないよ」


 なんなんだ、この対称すぎる二人。行動しすぎてしまう人と何も行動できすぎない人、もっとこう中間はないのか?恋ってそういうものなのか?

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