第14話 友達じゃないけどファミレスには行く。
「えぇえええええええ!?」
突然のドヤ顔での告白に思わず驚いて大声を出してしまう。
「特とご覧あれ」
自分の携帯画面を俺たちにずいっと見せびらかすように突きつけ、その画面に映る連絡先の欄に確かに吉田くんの連絡先があった。
俺はそのメッセージを見て驚きのあまり二の句が継げなかった。
まさかそんな進展があるなんて思いもしなかったからだ。
秋元さんも驚いたのか、いつも眠たげな目を大きく見開いて、その携帯の画面を凝視している。そして数秒ほどしてから彼女は口を開く。
「催眠術か脅したか何かですか?」
「犯罪に手は染めてないよっ、ちゃんと聞いて交換しました」
「いつの間に交換したんだ?俺の記憶だと可愛川さんと吉田くんの二人が連絡先を交換してる場面はなかった気がするが」
「お会計する時に、連絡先交換していいか聞いたんだ〜へへへへへ」
頬を染め、もじもじしながら答える彼女を見て俺はまた驚きを禁じ得ない。
二時間前まで、吉田くんの名を出しただけで動揺したり、彼の姿を見ただけで腰を抜かした彼女からは到底考えられない進歩だ。そう思うとなんだか感慨深い。
「可愛川さんがんばったんだな…」
「そんなしんみりすること?まあでも、そうだね。がんばった。でもね、これは匠くんのおかげだよ」
「俺?」
思いがけない言葉に俺は首を傾げる。可愛川さんはうん、と頷き微笑んだ。
「それは違うと思うよ。連絡先聞けたのもカラオケに誘えたのも可愛川さんが勇気を出したからだろ、俺は何もしてないよ」
そう、結局なにもできなかった。頭の中でその言葉が何度も反響する。
俺はあたかも手助けをしたいとか相談役とか言っていたが、実際には何もできなかった。可愛川さんが連絡先を交換するために勇気を出したのも、カラオケに誘ったのも、すべて彼女自身の力だ。俺がその背中を押したといえば聞こえはいいけど、彼女は初めから自分で動いていた。
可愛川さんはやっぱり違うや。
「なに感傷に浸ってるんだよ、匠くんっ」
「あいてっ!!なんだよ急に」
額に不意打ちを受けた俺は思わず額を両手で抑えながら可愛川さんを見る。呆れた顔をした彼女は一歩俺の方に踏み出し、軽く握った拳を胸の前に当てる。その顔は微笑んでいたが、視線はしっかりと俺を見据えていた。
「匠くんがジュースをあの時くれたから吉田くんに話すことができたんだよ、もしそれがなかったら今も接点のない片思いだった。今は接点のある片思い…だからありがとね」
瞳を細めて歯をみせるくらい大きな笑顔を見せる彼女を見た瞬間、俺の中で形容しがたい気持ちが込み上げてきた。それはとても優しく温かなもので、不思議と心を穏やかにしていくようなそんな心地の良いものだった。
きっと今情けない顔をしている俺を傍目に秋元さんは口を開く。
「あなたが彼女を焚きつけたせいで、私のぼっちの聖域は侵されたのですよ。責任逃れは今更往生際が悪いのでは?」
「まだその聖域の話をしてんのかよ」
苦笑混じりに答えると彼女は何も答えず、ふいっと視線を逸らした。そうしてからどこかバツの悪そうな顔をして口を開く。
「言うに決まってるでしょう。私に許してほしければ…今からファミレスで私たちにスイーツを奢ることですね」
「ちょい待て。私たち?」
「それ良いねぇ、紅葉ちゃんグッジョブ。はるパンケーキ食べたいなぁ」
「ワタシタチってなんの話だよ。てか俺まだ奢るとか言ってないだろ」
すると、タイミングを見計らったかのように信号機が青に変わった。目の前の駅へと続く道を横目に、彼女たちはさっと向かい側のファミレスを見つめる。
「ほら、駅はこっちだろ?」と俺は指さすが、可愛川さんと秋元さんはあっさり無視して、スタスタと横断歩道を渡り始める。秋元さんが一瞬振り返り、俺を一瞥すると満足げに口元を上げる。
「中谷匠こないのですか。私たち食い逃げしちゃうかもですよ?」
「匠くんおいでよ〜一緒連絡先交換したの祝おうっ」
どこか楽しそうに笑う彼女たちのその笑顔は、普段人前に出る時に被る仮面を外した普通の女の子としての顔を俺に見せてくれたような気がした。
自然と口角が上がる自分に気づいて、急いで口元を隠す。
「わかったから、待てって」そう言いながら横断歩道を渡り、彼女たちの後に続き俺も歩き出した。
夕焼けはすでに薄れ夜の帳がゆっくりと広がり始める、そんな時間帯だった。
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