第5話 屁理屈陰キャ美少女を覗くとき屁理屈陰キャ美少女も覗いているのだ。
「それでわざわざ図書室準備室に来たんですか?控えめに言って迷惑です」
「頼れる奴がいなかったんだよ、悪かったな」
小柄ながらしかしどこか大人びた雰囲気を醸し出す彼女は俺のクラスメイトであり図書委員の女子だ。
大人びた雰囲気というか、高校生らしさがあまりない。その理由は彼女の容姿にあるだろう。
目の上で切り揃えられた前髪から覗く鋭い視線に、髪型を変えれば美少年と勘違いされてもおかしくないほどの中性的な顔立ちをしている彼女
……秋元紅葉はいつも無愛想で必要以上のことは話さず、話しかけるなというオーラを常に身に纏っているため1部の生徒からは苦手意識を持たれている節がある。
「この性格と見た目で恋愛相談乗れると思います?無理ですよね」
俺は彼女に事情を軽く説明すると、少し考えた後、卵サンドを頬張りながら面倒くさそうにそう答えた。
「それより秋元さんは、なんでこんな埃っぽいところで食事とってるんだ?」
廃棄される予定の本や注文されて届いたばかりの本が山積みにされた準備室は、薄暗いうえに窓もないため日当たりが悪くジメジメしておりかなり居心地が悪い。
しかも彼女はそこでパイプ椅子に座り、コソコソと本を片手に食事を取っている。
「食べる友達がいないからに決まってるでしょう?誰もがみんな中谷匠みたいにお昼を食べる相手がいると思ったら大間違いですよ」
辛辣な言葉の後に、フンッとそっぽを向いてしまった。いつもこんな対応だから友達が少ないのではないか?と思ったが言わないことにした。
俺にもそれは突き刺さるからだ。
「えぇ、じゃあこれからは一緒にお昼食べようよ。はるも紅葉ちゃんのこと知りたいし」
「あ、え?アゥ、ま、まぁ。考えときます。中谷匠、こちらへ」
人前ということもあって、いつものあざとキャラの皮を被った可愛川さんは秋元さんの隣へ座ると彼女の持っている本を覗き込み始めた。
しかし秋元さんはその本をすぐに閉じ立ち上がると、俺に向かって手招きをした。
何故だろうか、嫌な予感がする。
俺が困惑して動けずにいると、しびれを切らしたのか秋元さんが俺の耳を掴み無理やり立ち上がらせてきた。
「あいたたたたたたっ、耳ちぎれる!何、何、なんだよっ?」
「何故可愛川はるという超絶陽キャを私の聖域に連れてきた?私は中谷匠に新刊が入ったと連絡しただけで、陽キャを呼べとは言ってないはずですが」
「悪かったって、でも可愛川さんは秋元さんが想像してるような人じゃないし。それに結構悩んでるっぽいから秋元さんなら助けになれるかなって。」
俺は必死に抵抗して彼女の手から逃れると、赤くなった耳を擦りながら答える。
「中谷匠は勘違いをしてるようだから言わせてもらいます。まず私が中谷匠と連絡を交換してるのは、あなたがたまたま本が好きで陰キャでも陽キャでもない中キャだから」
「中キャってなんだよ」
「口を挟まないでください。中キャ+本がまあまあ好きということで連絡を交換し新刊が入ったのを報告するくらい仲になりました。ですが、陽キャは論外っ。特に可愛川はるや鮎川真夏のような学校カーストトップに君臨するような超絶陽キャはチョー論外なんです!!」
早口でまくし立てた秋元さんは、息が上がったのか肩を上下に揺らし深呼吸をすると俺をキッと睨んだ。
「あのーやっぱりはる迷惑だったかな」
そして俺たち二人から一歩引いたところで、周りをキョロキョロ見回しながら明らかに気を遣った発言を可愛川さんが言った。
「そうだよね、急に来られちゃったら迷惑だよね。ごめん、ほら匠くん行こ?」
眉尻を下げて困ったように笑う彼女は鞄を肩にかけ直して準備室の扉に手をかけた。秋元さんはそんな彼女をチラッと見るとまたすぐに俺へと視線を戻す。
「こ、こういう時はどう反応をすればいいのでしょうか、中谷匠?」
「とりあえずフォローとか?」
俺がそういうと、秋元さんは一度咳払いをしてから顔を引きつらせながら可愛川さんの方へと向かった。
「可愛川はる…さん。別に私は迷惑とは言ってません。ただ驚いただけです」
「驚いたって?」
「可愛川はるみたいな陽キャが、私に近い陰の波動を持つ吉田透のことが好きということに驚いたんです。あり得ないと」
「ぐはっ」
秋元さんの言葉を聞いた瞬間、可愛川さんはその場に倒れ込んだ。膝から崩れ落ちるように四つん這いになり咳き込んでいる。
「そんなに意外かなぁ…ははは」
いや、そのフォローは可愛川さんに逆効果だ。俺から見てもわかるくらい、彼女は落ち込んでいる。
秋元さんもそれに気がついたようで、あたふたと慌て始める彼女を見ておられず助け舟を出そうとするも、秋元さんの声によってまたかき消さられる。
「え?え、え?いや別に悪い意味じゃ、ただ私たちと陰の者と陽の者では天と地の差があるほどに合わないと思って」
「ぐひっ!」
秋元さんは慌てたように弁解をするが、しかし可愛川さんも流石にダメージが大きかったのか四つん這いのまま動かなくなってしまった。
やめろ、秋元さん!!可愛川さんのライフはゼロだ。
なんとかフォローをしようと口を開いた瞬間、制服の襟を秋元さんに強引に掴まれる。
「中谷匠どういうことですか?あなたに言われた通りにフォローしたのに、逆効果じゃないですかぁ」
「俺もフォローしようとした瞬間、秋元さんが可愛川さんにジャブを入れていくんだから仕方ないだろ」
鋭い眼光を向け、頰をプクッと膨らませた秋元さんに俺は両手を上げ降参のポーズをとり逃げるように顔を背ける。
俺もこの空気を打開しようと、頭を回転させるがアイデアは何一つ浮かんでこない。だめだ、もう二人は口も開かないしお互い顔を合わせることもなく顔を俯かせている。
「吉田くんって好きな奴いるのかな…?」
「「え?」」
絶望に浸りきった空気の中、なんとか挽回しようとぽつりと呟いた俺の言葉に可愛川さんと秋元さんは素っ頓狂な声を揃えた。
可愛川さんはすでに立ち直っていたのか、四つん這いから正座へと姿勢を正していた。
流石の切り替えの速さ。だてに猫かぶってないな。
「よく考えたら目標対象の好きな奴がいるかどうかを知らないって致命的じゃないかと思って」
「た、確かに…」
俺が続けて言うと、可愛川さんが口をはわはわとさせながら首を縦にコクコクと動かして同意を示す。
「もし好きな人がいたらどうしよう。その時は好きな人の幸せを願って素直に去るのが正解なのかなぁぁ」
「いや、まだ好きな人がいるかはわかってないしそれはさすがに杞憂では」
「本人に聞けばいいんじゃないですか?」
「「へ?」」
今度は俺と可愛川さんの声が重なる。そして秋元さんは相変わらずの無表情で図書室に繋がる扉の小窓を指刺し言葉を続ける。
「ほら吉田透が本を読んでいるのがここから見える」
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