インターバル 大馬鹿者たちの行く末は
馬鹿だよな、と思う。
強さはあった。腕も意思の強さも。
ヒューという逃れ得ぬコンプレックスにとらわれすぎた結果がこの終焉か。惜しいと言っていいのか、それとも虚しいか。
どこかで認めていたのだろう。わかっていたのだろう。
所詮は無いものねだりだと。
何故己のその感情を認めることができなかったのか。
持たざるものと自分を卑下してすることで思考が止まっていたように思える。
あまりにも青く。あまりにも未熟。
死を選んだことも併せて全てだ。
アルヴァーというあの男は大馬鹿だ。
そして、ヒュー、この男も哀れな男だと思う。
かつての友をその手で斬ったことを一生悔やみ続けるのだろう。それもアルヴァーの思惑の一部かもしれないが。
この男の腕は確かだ。周りを圧倒するほどの強さを持っている。
セフィもこの男を強い人だと言う。
確かにそのとおりで、この男は強い。一種の才能と言ってもいい。
多分、生まれ持ったものもたくさんある。ヒューは「持てる者」なのだろう。
身分や、家族や、自分では変えられない物を、持っている者。
ま、ちょっとそれを持て余している感があるように思う。それに対して逆恨み的な感情をぶつけられても困惑しかなさそうだ。
不器用そうだし、そういうものをうまく対処しきれない。そんな感じだ。
うだうだ悩んでまた酒に逃げるのかもな。
それでもいいけど。
どうせ生まれ持ったもののせいでいつかは逃げられなくなる。
否でも応でもどこかで向き合わざるを得なくなる日はくる。そういう運命だろう。
「ヒューさんは」
濁った目でセフィは俺に言ってくる。
「悪い人ではないと思う」
「それは俺も同感。けど全面的に信頼はすんなよ」
「ケイン」
どうして、とセフィの目が問うてくる。
彼女の考えはある程度わかる。
今本当のこいつがどんな顔をしているのかなんてことも。長い付き合いだから。
「あのおにーさんは自分のことでいっぱいいっぱいなんだよ。寄り掛かったらつぶれんぞ?」
そんな風に言って、彼女の様子を窺うが、表情の消えた顔つきからは何も読み取れなかった。
まあ別にセフィは誰かに寄り掛かるようなヤワな人間じゃない。
むしろ、寄り添って支援する側の人間だ。――本来ならばの話。
「逆にあいつを支えるにゃ、セフィじゃちょっとお子様すぎるよな」
散々ガキっぽいだの、かわいげがないだの、揶揄い半分な言葉を好き放題ぶつけてきたからいつもの調子であった。
まあ、言っていることは本音だ。あのヒューを支えるにはセフィには荷が重い。
付き合うならもっと楽に生きられる相手、それに尽きる。
「ま、あれだ、スタイルのいいえっらい美人になりゃどんな男もイチコロだろうよ。頑張れ」
「それは――」
言いかけて、唐突にセフィは眠りに落ちた。崩れ落ちそうになるのを慌てて支える。
それはケインの好みでしょと言われても、何か複雑でしかない。
まあ、それは図星なんだけど、それをセフィに言われるのは引っかかるものはある。
アルヴァーのこともヒューのことも、「青い」とか「未熟」とか色々好き放題思っているが、俺自身だって大馬鹿な一人であることは間違いない。
帰るべき場所を、家族を神聖視して決して土足で踏み荒らしたくないと勝手に思っている。
そんなこと、誰にも望まれていないってのはわかっているのに。
俺の中に燻っているのは、憤りであることも自覚があった。
大事な家族を壊したそれに対して。
全部メチャクチャにしたものへの。
認めるのは怖い。
許せないという憎しみの感情を、腕の中で寝息を立てるセフィの存在が抑え込んでいてくれている。この子を助けたいと思う一心で。
でも、それはいつまで保つのだろう。
いつかはセフィの存在すら忘れ、感情に身を任せてしまいそうで怖い。
感情に飲み込まれたら俺はどうなるのだろう。それがとても不安で恐ろしい。
「……まだお前がいるから」
セフィを背負いながらもそう独り言つ。
まだ、多分大丈夫だ。
きっと大丈夫だ。
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