第10話 弔いの形
国王の掲げた大剣が火柱となり空高く舞い上がる。すべての国民に対し火のマナの飛沫が降り注ぐ。
「4138名の勇敢なる戦士達に捧げよっ!悲しみを!苦しみを!この辛さを!その者への愛を!残された者達よ!すべての感情をこの8分に込めよ!今だけは許される!最後の別れを済まそうではないか!黙祷っ!!」
皆目を閉じている・・・これは黙祷なんかじゃない。皆泣いている・・・啜り泣く声が響いていた。中には声を上げて泣いている人もいる。本当は家族を失って悲しいんだ・・・。
宴の準備をしている時の雰囲気とはまったく違う。・・・わからない。なにが起こっているのかわたしの頭では理解できない。それほどまで愛している家族を失ってなぜあの時笑っていたのだろう。
「やめぃっ!皆の者心を落ち着かせよっ!」
ひとつ。そしてまたひとつ。啜り泣く声が減っていく。しかしまだ涙は止まらない。国王そして騎士団長ですら涙を流している。沈黙の中、皆が涙を流している異様な光景がそこにあった。
「さぁ皆の者!我らの愛を旅立つ家族に捧げようではないか!静寂の楽園へ至る家族を愛の炎を添えて祝福せよっ!旅立ちを祝う宴を始めよっ!」
皆が木で作られたグラスを持っている。そしていつのまにか涙を流している者はいなくなっていた。わたしもレティに渡され手に取る。ラクマティ様が壇上に上がってきた。
「天に掲げよ!すべての家族に闇の祝福を!家族の死と旅立ちを祝して乾杯っ!」
「「「「「乾杯っ!」」」」」
うぇっ・・・お酒じゃない・・・わたしには美味しさがわからない。ってゆうか祝すところなの?どうゆうことーー!?
「翼ってお酒苦手なの?闇の申し子様ってねお酒が好きなんだよ。でも飲む時は伴侶の口移しで飲むんだってさ。だから光の申し子なら慣れないといけないね。あはは」
え・・・口移し?そんな・・・でも闇の王子様ならいくらでも・・・。
「なに赤くなってるのよぉ。会ってもないのに相思相愛じゃない。闇の申し子様に愛されるなんていいなぁ。1度その愛を経験しちゃうと他の愛には見向きもできないくらい愛されるって神話に伝えられてるのよ」
「・・・確かにわたし・・・あの時闇の王子様が欲しくて堪らなくなったわね。思い出すだけで恋しくなっちゃう」
「羨ましいなぁ。あっそうだ・・・夜の方も凄いらしいよ」
・・・。小さな声でこそっと伝えられたけど・・・わたしまだ経験ないので・・・。はじめては絶対王子様にもらってもらおう。というか王子様じゃなきゃやだ。
「おっ、翼元気になったか」
またこいつですよ。王子様に思いを馳せると邪魔してくる。まぁ助けられたから今回は許しましょう。
「この通りピンピンよ。ねぇ王様の隣にいる女性は誰?」
「あのお方はなぁ「王妃様と王女様よ」オレが言うところだったのにとられた・・・」
やっぱり王族なのね。ちょっと小さめの声で聞こう。
「・・・ねぇ?王族って露出好きじゃないとなれないの?」
2人に思いっきり笑われた。なによ・・・だって破廉恥よ。
「王様が闇の申し子を表している。本来であればなにも身に纏わない状態なんだ。闇は大勢の前にありのままの姿で現れ、大剣を使い己の体からマナの飛沫を大勢に飛ばし魅了したという伝承に沿った作法なんだよ」
「王妃様と王女様はね闇の伴侶役よ。闇は毎日のように伴侶達にセクシーで可愛い服を着せ替えてたらしいのよね。最も伴侶達も闇と眠りにつく時はなにも纏わなかったらしいけどね。でも闇は伴侶達の肌を人にあまり見せたがらなかった。翼も将来大変ねぇ。うふふ」
王子様は変態だった・・・いやでも王子様が望むならハイロリは頑張ります!王子様は正義!
ん?伴侶達って言った?王子様には妻がいっぱいいるのかしら・・・他の子には負けないんだからっ!
「闇の王子様だけ妻をいっぱい持てるの?昨日から見てるけど複数と結婚している人って見かけないわよね?」
「この国は一夫多妻。一妻多夫制だ。だけどほぼみんな一夫一妻。一妻一夫を選ぶ。というか複数持つのは難しいんだ」
「己の持ちうる限りの愛を、命が震えるほどの愛を伴侶に注げっていうのが申し子様の教えなの。1度契りを交わすともちろん離婚は認められてない。離婚するなら死を選べと伝えられているわ。慎重に選びなさいってことね・・・間違ってたらそれは自分に責がある。
要するに、伴侶とは深く愛し合いなさいという教えね。1人見つけるのも大変だしそれほどの愛を複数の人に注ぐことは私達じゃできないわ。申し子様は簡単に伴侶全てを等しく深い愛で包んでいたと言われているわ。この国の者は申し子様をみんな尊敬しているのよ」
確かに深い愛情をみんなにくれるなら複数の妻がいてもいいわね。それならわたしだって他に妻がいてもいいとすら思ってしまう。分身でもできるのかしら・・・ひとつの体じゃ無理よね。王子様は想像以上に凄い人だってのはわかったわ。
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