第8話 翼VSゴブリンキング

ゴブリンキングが見えた。やるしかないっ!


「翼逃げろっ!!」


ザックの声など彼女にはもはや聞こえていなかった。彼女は極限まで集中力を高めていた。


「はぁぁぁっ!!」


彼女は声を発しながら王に向かっていく。


挨拶代わりよっ!


しかし簡単に受け止められる。王は少し笑みを浮かべたように見えた。無理矢理押し返される。


っ・・・!重いのよっ!いっ・・・たぁいわね!


彼女に王の蹴りがヒットしていた。彼女は横に木をなぎ倒しながら吹き飛ばされる。空中で彼女はくるりと回り、木を蹴り王に向かっていく。蹴られた木はみしみしとゆっくり倒れていく。


王が彼女の方に体を向ける。敵と認めたようだ。王が斬撃を放つ。彼女は受け流しながら王に攻撃を当てる。ぽんぽんと斬られた傷ひとつついていない体を叩いてる。不気味な笑顔は効かないぞと言っているかのようである。


翼の中でなにかがぷちんと切れた。


「はん?上等・・・乙女の肌を傷つけた罪は重いわよっ!こんにゃろぉぉぉ!!」


闘気を全開にして斬撃の連打を放っていく。しかし王は一歩も動かず、剣ですべての斬撃を払っていく。王が笑った。


鋭い一撃が翼に向かってくる。彼女もまた少し笑みを浮かべながら全力の一撃を放っていく。剣と刀が衝突する。翼は剣の衝撃波に体を切り刻まれながら岩壁に打ち付けられた。彼女の口から血が吐き出される。


こん・・・ちくしょう・・・なにも通じない・・・こちらにあいつが向かってくる。体を動かさなければ・・・。


しかし途中で王が止まる。辺りを見回すと時が止まったかのように仲間もゴブリンも上を見上げていた。


わたしも上を見上げた。巨大なマナの力を感じる。わたしに向かってくる・・・あったかい。この世界に来たばかりの感覚が蘇る。あの時より強い思いがわたしの中に流れ込んでくる。


はぁん・・・体が熱い。わたしの心も体もマナによって埋められていく。愛してる。とても強い愛がわたしの中に入ってくる。ハイロリ?わたしのことをハイロリと呼んでいるのね。ダメ・・・こんなに愛されちゃわたしおかしくなっちゃう。あなたなしでは生きられなくなってしまう。わたしは今幸せな気持ちにさせられている。


これが愛されるということなの・・・こんな感覚はじめて・・・はぅ・・・気持ちいい。愛が快感、喜び、様々な感情を刺激してくる。もう我慢できない。あなたが欲しい。あなたのそばにいたい。わたしもあなたを愛したい。わたしは目を閉じた。顔が赤くなっているのがわかる。心臓の鼓動も止まらない。速度は早まるばかりだ。


「この感じ・・・わたしを助けてくれた王子様なんですね。わたしを迎えにきてください」


王子様に向かってわたしはそう言った。届いたかはわからない。でもわたしの運命の人がそこにいた。はぁん・・・またマナが流れ込んでくる。王子様の想いが伝わってくる。


「はい。ハイロリはお待ちしております。あなたに出逢えるその日まで」


その時上空より1人の男が降り立つ。


「大丈夫か!?あとは任せろっ!」


ラクマティ様・・・やっぱりあなたがわたしの王子様なんですね。わたしは目を閉じながら幸せな気持ちに浸っていた。


「ザック!!

ロイ!!」


2人の男は互いの名を呼び動く。まだ動かぬゴブリンジェネラルを一撃で仕留めていく。


「翼大丈夫かっ!?」


「ちょっと邪魔しないでくれる!?」


「えっ!?なんで怒られてんの?」


「ザック!彼女を連れて撤退しろ」


ラクマティ様が戻ってきていた。王を見ると首と胴体が離れ地面に倒れている。


王子様すごい・・・ハイロリはここにいますよ。


「大丈夫か?」


「はい。大丈夫です。無事です」


「お前なぁ・・・オレへの態度と全然違うじゃねぇかよ」


文句を言うザックに抱き抱えられわたしは後ろに連れられていく。あぁ〜〜王子様待ってぇ。


「幸せそうな顔でなによりだよ・・・まぁ大丈夫そうだな。飛ばすぞ」


ザックは速度を上げ城を目指した。


「あの巨大なマナはいったい・・・?赤い妖精かと思ったが違ったか・・・オレと同属性のマナを感じた。それが彼女に向けられていたのは間違いない・・・となると闇の申し子としか考えられない。闇は光を既に見つけている・・・やはり赤いキングがいるかもしれないな。気は抜けぬな・・・」


ラクマティは喜びと不安を同時に抱いていた。しかし考えるよりも今は動かなければいけない時だ。すぐにまた次のキングへ飛び立っていく。


ーーートゥルアース城ーーー

「今のマナは・・・んっ・・・強く惹かれてしまう・・・ダメよ私・・・ラクマティの妻なのだから・・・私の光のマナが喜んでいる。闇の申し子。マナがそう言っているような気がする。闇の申し子は別にいてくれた。ラクマティと私は運命で結ばれていたのね。よかった・・・あなたが離れていくのかと思っていた。どうかご無事でお帰りください私の運命の人・・・」


城内にいたレオノールにまでマナは届いていた。いったい闇の申し子とは何者なのだろうか。闇と光が出揃ってしまった。これからこの星になにが起こってしまうのだろう。


その頃別の場所で翼と同じく異世界に来た者がズタボロになりながら倒れていた。その者の息は既にない。


「こちらの世界にきた来訪者はこやつで19人目。感じたマナの波動は全部で22・・・2人は知り合いじゃったから・・・?んーー・・・あと1つかっ!?儂ってやはり天才っ!


さて・・・このまま狩りを続けてもよいが・・・しかしさっきのマナの方が気になるのぉ。どうにもこうにも弱過ぎて退屈していたところじゃ。そっちに行ってみようかの。なかなかに楽しめそうじゃな。がははは」


その者は光に包まれその場より姿を消した。異世界への切符を手にしたこの場所より遥か遠くの星の者。その数22人。既に19人の者が殺されていた。しかし先ほどの巨大なマナのおかげでその者の興味はそちらに向いたようだ。知らないところで命拾いをした翼。


異世界に来た者達は残り3人。その者達がこの世界で出会うことになるのはまだ先の話である。

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