第7話 妖精の洪水
街中が慌ただしくなってきた。もうすぐ0時になる。いざ実戦となると落ち着けない。ジジイの修行で7日間不眠不休の稽古もあったので深夜の闘いくらいどうってことないわ。肌に悪いけどこればかりはしょうがない。武器はレティがギルドから貸し出してくれた。やるしかない。
騎士団と召集に間に合った冒険者達が一同に集まっている。約3万人いる。辺りは暗闇。不思議な明かりが集まった者を照らしている。
「翼。無理に参加しなくてもいいんだぞ?」
「いいえ。黙って見ていられないわ。わたしも闘える」
「ならオレから離れるな。必ずお前は守り抜く。お前を死なせたらご先祖様に顔を見せられねぇ」
顔に似合わずかっこいいことを言うわね。ラクマティ様が壇上に上がってきたわ・・・王子様。
「聞けぃっ!今回の妖精の洪水はいつもと違うかもしれん!赤い妖精がでてくる可能性がある!されど死を恐れるな!死こそ最上の喜びなり!!存分に戦えぃ!」
皆が一斉に声を上げる。死が最上の喜び?どういうことなんだろう。その後部隊を8つにわけることになった。ラクマティ様率いる精鋭部隊が100人。他は均等に分けられていく。
2列縦隊で7つの部隊がそれぞれ別の方向に進軍していく。全方位からの攻撃があるかもしれないからだ。ラクマティ様も本隊がくるであろう方向へ進んでいる。暗闇の中、わたしのいる部隊も同じ方向へ進んでいる。みんな進軍速度が速いわね。わたしは普通についていけるけど・・・みんなも息ひとつ上がっていない。彼の勇姿を近くで見れそうでちょっと嬉しい。・・・地震?揺れている気がする。
「伝令!ゴブリン軍総勢およそ12万。予想通り全方向より進軍してきます。接敵まで残り20分ほど。3時には開戦と思われます」
「マナで全軍に伝令を飛ばせっ!各部隊小円陣を組み互いに背後をカバーしろっ!我らひとりひとりが餌となりゴブリンの進軍を食い止める!城へはなにも通すな!」
進軍してくるゴブリンのせいで地鳴りが起きていたらしい。こっちの4倍もいるのっ!?円陣ということは必然的に囲まれるということ。来て早々ハードな闘いになりそうね。
「敵影目視しました。全軍に伝令!戦闘準備!」
周囲の人達が何か言っている。命唱?名前などを続けて言葉にしている。何をしているんだろう?
「翼は命唱しないのか?」
「命唱ってなに?」
「強化術みたいなものだ。マナの使い方はまだ未熟なようだな。帰ったらあとで教えてやるよ。だからあまり前に出過ぎるなよ。将兵クラスだと強めのマナを纏ってくるからな」
たしかに仲間達のマナの量が膨れ上がっている。でもこの程度の敵なら刀だけでどうにでもなる。
「遠距離攻撃放てっ!!」
様々なマナの攻撃が飛んでいく。火、水、風、土。その光景は圧巻だった。しかしゴブリン達の頭上で攻撃が防がれる。
「くっ・・・今回の洪水はいつもと違うようだな。全軍応戦せよっ!」
ラクマティ様の号令により戦闘が始まっていく。
「命唱。我はラクマティ。漆黒の騎士なり」
「漆黒の騎士団に告ぐ!敵を切り裂く!オレに続けぇぇ!!」
ラクマティ様も命唱を唱えた。さらに100人の精鋭を連れ突撃していく。全員黒い鎧をつけている。物凄い速さだ。けどわたしも負けていられない。
翼は的確にゴブリン達の急所を一撃で斬り裂いていく。周囲の者もまた一撃でゴブリンを屠る。翼はどんどん前に出ていく。
「翼ぁ!!前に出過ぎだっ!!」
ザックの声が届いた直後、横からの攻撃が迫っていた。翼は避けてカウンターを放つ。しかしゴブリンは傷を負わない。
硬い・・・これが将兵クラスなのかしら。
そのゴブリンが急に倒れる。
「将兵ではないゴブリンでもこの硬さ・・・やはり何かがおかしい。翼もう少し下がって闘うぞ」
ザックの忠告に従い、わたしは後ろに下がり味方と合流した。ゴブリンの強さがどんどん上がっていく。前回の洪水よりもゴブリンの強さが強いらしい。その時ある報せが各部隊に届く。
「ゴブリンキングを確認。全部で8体。各部隊に1体ずつ向かってきます」
「おいおいっ!キングが8体だと!?どうなってやがる」
「ザックさんどうゆうこと?」
「普通は1体しかいないんだよ。これは赤いのがいるのかもしれない・・・」
異常事態のようだった。ゴブリンキング。どのぐらいの強さなのだろう。重鎧に身を包んだゴブリンが2体物凄い勢いで突撃してきた。味方がどんどんやられている。
「ゴブリンジェネラルか・・・翼お前はもっと後退してろっ!」
「ザック!手を貸せっ!」
「ロイかっ!?任せろっ!」
軽装の男が現れた。蛇のようにしなやかな剣を持っている。2人の男とゴブリンジェネラルがそれぞれ戦闘状態になっていく。
マナのぶつかり合いによって衝撃がここまで届いてくる。これがマナを使った戦闘・・・すごいっ!一撃一撃が重いのがわかる。ロイさんといったかしら。伸びたり縮んだりしている剣なんて初めて見た。
2人が押している。2人が勝つのは時間の問題だろう。・・・!わたしは視線を後ろに向けた。嫌な感じがする。視線の先からなにかくるっ!ゆっくりとマナを体と刀に纏っていく。
視線の先の味方が血飛沫を上げながら宙を舞っている。
「「「「「キングだぁぁぁ」」」」」
どうやらゴブリンキングがきたらしい。勝てるとは思わない。でもあの2人が戻ってくるまでなんとかしなければ・・・少しならきっとわたしでも持ち堪えられるはず!
彼女は目の前のゴブリン達を斬り進む。翼とキングの激突の時はすぐそこまできていた。
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