第5話 冒険者ギルド

わたしはトゥルアース王国の城下町を歩いている。外から見ても木が多いなとは思った。森の中だからそうなんだろうと勝手に勘違いしてた。元の世界では見慣れない光景に目を奪われてしまった。こういうところで暮らすのもいいな。


たくさんの巨木が立ち並んでいた。舗装はされておらず、土の道が続いている。門と城壁、そして城だけが異質な雰囲気を放っている。防衛上の観点から致し方が無いのかもしれない。


建物と言っていいのだろうか。ほぼすべての建物は木の中にあった。この国は自然と共に生きている国なのかもしれない。道行く住人達を見る。男性はみな女性をエスコートしている。彼がレディと呼んだのも国柄なのかもしれない。しかし老人と呼べる人達がいなかった。高齢化社会と呼ばれていた元の世界しか知らないため違和感しかない。


「翼。ここがギルドだ」


とても太い木がギルドなのね。いったい樹齢何年なのよ。冒険者ギルドといったらあれよね。酔っ払いとか態度のでかい変なやつに絡まれる。最初は薬草採取とかが定番よね。クエストの取り合いとかもあるのかしら。一定回数こなすごとにランクが上がっていくやつね。所詮、小説の知識でしかないんだけどね。


入って見ると想像したよりも静かな雰囲気だった。銀行みたいな感じね。どうやら順番札を取ってから呼ばれるまで座って待つようだ。緊急窓口も1つだけあるけど受付のお姉さんが座っているだけでなにもないようね。


あれ?まったく想像してたギルドと違う。ザックさんに聞いてみたら何言っているんだと笑われた。冒険者には荒くれ者はいない。冒険者とは誇り高い職業らしい。国民の憧れとなる存在だ。国民にはお酒を飲んでも飲まれるなが徹底されているらしい。小説の異世界は嘘の情報だったのね。予習と違うところがでちゃったわね。てへ。


「ほら翼の番だぞ。番号出てるだろ」


言われたので見てみる。ほんとだっ!ザックさんって意外としっかりしてるわね。受付は男性ではなかった。女の子同士の方が気兼ねなく話せるからよかったわ。


「お待たせしました。どのようなご用件ですか?」


「この子に身分証を発行して欲しくてな。代金はオレが払う」


「かしこまりました。ではお名前を教えてもらってもいいですか?」


「桐谷翼です」


「桐谷翼さんですね。ではこちらに手をかざしてください。マナを登録します」


彼女に言われたので手をかざす。体の中からすっとなにかが抜けていく。これがマナの感覚なのね。感じたことがあまりなかったからわかりやすいわね。ジジイは擬音が多過ぎてわかりにくいのよ。ここで頑張ったらわたしもマナを使いこなせそうな気がするわ。


「・・・凄いっ!凄いですよ翼さん!一般の方で光の単一属性のマナなんて初めて見ましたっ!お城のお姫様が光属性というのはみんな知っていますがこの国で2人目ですよっ!しかも適正ジョブが戦乙女!伝説の戦乙女ですよ!」


彼女はなぜか興奮している・・・わたしはなにもしてないです。話が見えないので落ち着いてください。


「な・・・翼お前どっかの王族なのか!?闇の単一属性はラクマティ様しか知らないが・・・戦乙女ということは闇の単一属性がもう1人現れる前触れか?神話には1人ずつしか存在していない。良からぬことが起きそうな気もするな・・・城に行ってくる。ああそうだ。レティ、オレのから金貨1枚翼に移しておいてくれ。翼は来たばかりで宿代もないだろ?出世払いでいいから返せよ」


ザックさんはそう言うと走っていった。ありがとう。ホントに優しいのね。わたし無一文だし助かるわ。でも神話やらなにやら話がまったくわからないんですが・・・。


「あの・・・レティさん?わたしどうしたらいいですか?」


「すみません。興奮しちゃいました。私のことは気軽にレティって呼んでください。登録はこれで完了ですよ。本来でしたら試験があるんですけど翼さんの場合は試験は要りません。光と闇の単一属性の方はパスできます。でもランクは1番下からですよ。命に関わることなのでこれの話は別です」


「ありがとう。それじゃレティ。わたしのことも翼って呼んで。この世界に来たばかりでお友達もいないの。よかったらお友達になって欲しいな」


「はい。わかりました。私で良ければぜひお友達になってください。って翼ごめん。忘れてた。武器は何を使うの?登録武器種以外を持ち歩くと法で裁かれちゃうのよ」


「刀で・・・それと弓もお願いするわ」


「短剣とかはしなくていい?緊急時に役に立つよ?」


「大丈夫。緊急時ならまだしも、使い慣れてない短剣に命は預けれないわ。それを使うよりはこっちよ」


わたしは拳を見せた。刀は元々使い慣れていた。他の武器もそれなりに使えるんだけどね。弓を選んだのは、多少の心得もあるし、王子様の心を射止めるためよ。矢でズキュンとハートを撃ち抜くわ。その後色々な話を聞いた。


クエストボードはないらしい。その人に合った物を受付が斡旋する仕組みだった。1番下のランクが受けれるクエストは魔獣狩りのみ。でも狩り過ぎても罰則規定に引っ掛かる。必要な分だけ狩る。この国では人間や動物、植物といった生物の命はすべて平等に考えられている。さらに差別することも禁じられていた。


薬草採取は?と聞いたらそれはもっと高ランクから受けれるクエストと言っていた。魔獣を退けれない人はそもそも受けれないし、採取するにも見分け方、採取法など様々な知識が必要だからだ。言われてみれば納得した。どうやら予習していた異世界情報はまったく役に立たないらしい。


なんで老人がいないのか聞いてみた。この国では60歳に達してしまうと安楽死させられ土に還される。人口抑制と限りある自然を守るためと言っていた。神話の教えから学びずっと守られてきている。わたしのいた世界では考えられないことだった。人の命を重んじる世界だから。ここは異世界なんだと強く実感させられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る