第4話 異世界到着

・・・。彼女は目を覚ました。どれくらい倒れてたいたのだろうか。最後に見た光景と違う景色が目に映る。


ここは森の中?どうやら異世界に来れたらしいわね。わたしの新しい生活がここから始まるのね!ふと足元を見る。


「きゃあっ!!」


思わず悲鳴を上げる。首のない獣達の体とその首が大量に浮かんでいた。辺りは血の池地獄と化している。彼女のいる場所だけなぜか不自然に隆起していた。


誰がこんなことをしたのかしら。あれ?でもわたしは寝ていたのよね・・・ということは誰か助けてくれたのかな?体には血なんてついてないし・・・やっぱりこれは王子様よね!?ピンチのわたしを王子様が助けてくれたのよねきっと!なにも言わずに去っていくなんて胸がキュンキュンしちゃうわ。


とりあえず王子様がいることがわかったわね。いると知れただけでも異世界に来た甲斐があったわ。ジジイから離れることもできたし乙女っぽいことをいっぱいしたいな。うふふ。自由って素晴らしい。


彼女は血の池を避けるように大きく飛んだ。血の池の淵を通り過ぎる時、不思議な感覚が通り抜ける。


「・・・なんだろう?すごくあったかいマナ。わたしを優しく包み込んでくれている。もしかして王子様のマナ!?」


彼女は手を伸ばし再び謎のマナに触れる。彼女を守るかのようにそのマナは体の周りに集まってくる。


「黒いマナ?でも嫌じゃない。あっ・・・」


わたしの体の中に入ってくる。凄い。とても大きなマナ・・・わたしのことを好きって言っている気がするわ。わたしも王子様のこと好きです!


彼女の体に謎のマナは取り込まれていった。いったい誰のものなのであろうか。幸せそうな笑みを浮かべながら森の中を歩いていく。時折角の生えた兎が物凄い速さで突っ込んでくるが見向きもせずに裏拳を当てて処理している。彼女通った道程には兎達がピクピクしながら地面に転がっている。


「あっ!お城だ!王子様があの中にいるんだわ!」


彼女は逸る気持ちを抑えつつ歩いて向かった。


走りたい気持ちはあったけどお淑やかな乙女だからねわたしは。大きな門ね。門番が立っているのを見ると、異世界にきたんだという実感が湧くわね。城下町に入ろうとする人達の列があったのでおとなしく並ぶとしましょう。しばらく待つとわたしの番になる。


「こんにちは。門番さん。いつもお疲れ様です。それでは・・・」


わたしは笑顔でそう言った。お姫様になる予定なので一応挨拶はしておかないとね。


「・・・待て待て。お嬢ちゃん。通行証はあるか?」


「この世界に来たばかりなので持ってません。では・・・」


「ではじゃない。通行証がないものは入れないんだよ。可哀想だけどお家に帰りなさい」


「わたしにはどうしてもやらなければいけないことが・・・」


必殺乙女のうるうる攻撃を添えながらわたしは懇願した。


「そんな顔しても決まりだからなぁ。ダメなんだよ・・・なにしにここにきたんだ?」


「王子様に会いに来ました!」


「・・・。悪いが許可することはできない」


「なんでっ!?けちっ!!わたしにお家なんてないの・・・こんな幼気な乙女に野垂れ死ねっていうの?おじさんひどーーい」


嘘泣きをしながらわたしは声を上げる。いつか使えるかと思って涙を流す練習をしていたのよ。早速役に立つとは・・・予習って大事ね。


泣く女の子を見てざわざわしている。門番の男も困り果てた様子だ。そこに後ろから甲冑に身を包んだ一団がやってくる。


「ザック。何の騒ぎだ?長蛇の列が出来ているぞ」


「ラクマティ様申し訳御座いません。このお嬢ちゃんが・・・」


イケメンの叔父様が現れたわね。王子様なのかしら?恋愛に年の差なんて関係ないわ。妙に惹かれてしまう。なんでだろう?不思議な感覚だ。


周りの人達が憧れの目を向けている。男性は英雄を見るような目で、女性はうっとりしたような目で見ている。漆黒の騎士様だ。私の恋人になってくれないかしら。など様々な声が飛び交っている。


「・・・なるほどな。でも大丈夫だろう。いれてやれ。この女性が暴れるつもりならとっくに門は壊れている。見たところ身体能力だけならオレより上だ。はははっ。喧嘩にならなくてよかったな」


ラクマティ様はわたしの目をちらっと見て去っていった。ちょっとドキドキさせないでくれますか。恋しちゃうじゃないですか。白馬には乗っていないけど、王子様に見えてしまった。


「お嬢ちゃん入っていいぞ。ただ身分証は発行してもらわないといけない。そうだな・・・ラクマティ様の話ぶりからすると大丈夫だろ。冒険者ギルドに行けば手っ取り早く発行してもらえるぞ。しかし身分証がないということはお金持ってないよな?・・・しょうがねぇなぁ。おーい!このお嬢ちゃんをギルドまで連れて行くから代わってくれ!」


ザックさんが案内してくれることになった。案外いい人じゃない。タイプではないけど優しいから嫌いじゃないわ。でもあの王子様の優しさには敵わないけどね。これからついに新しいわたしの世界が始まるんだ。


「おーい!お嬢ちゃんいくぞぉ!」


彼女は彼の後を慌ててついていく。門をくぐり抜けると彼はゆっくりとこちらに振り返った。


「お嬢ちゃん。ようこそトゥルアース星首都トゥルアース王国へ」


彼は笑顔でそう言った。


「お嬢ちゃんじゃないわよ。ちゃんと名前がある・・・翼よ」


「あ〜〜悪い悪い。レディに対して失礼だったな。それじゃ翼、ギルドに行くぞ」


顔に似合わずレディと言ったわね。まぁ女の子扱いされるのは素直に嬉しいわ。

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