第18話 新たなリーダーとしての挑戦
早朝の救命センター。工藤美咲はまだ人が少ない静かな廊下を歩きながら、これから自分が背負う責任の重さをひしひしと感じていた。篠原遼が異動し、彼女は今やこのセンターの中心的な存在となった。冷静さを保ち、チームを引っ張っていかなければならないというプレッシャーが、工藤の心に重くのしかかる。
スタッフルームのドアを開けると、早くも朝のミーティングの準備が整っていた。看護師や若手医師たちが集まり、工藤を見上げる。彼らの視線が彼女に集まる瞬間、工藤の胸は高鳴った。これまで篠原の背中に隠れるようにしていたが、今やその背中はどこにもない。自分がリーダーとして彼らを導く責任があるのだ。
「おはようございます。今日も忙しくなりそうです。皆さん、しっかり準備をして対応に当たってください。」
工藤は努めて冷静な口調で挨拶し、ミーティングを始めた。しかし、その内心では、緊張と不安が渦巻いていた。篠原のように冷静に指示を出すことができるだろうか――彼女の頭にはその不安がつきまとっていた。
すると、ドアが勢いよく開かれ、若手医師の杉本颯太が飛び込んできた。彼は感情的で、患者に対する熱い思いを持っているが、その強引な性格がしばしば問題を起こしていた。
「工藤先生、今すぐ処置室に来てください!重傷者が運び込まれました!」
杉本の声に、工藤の緊張感は一気に高まった。まだミーティングも終わっていないが、緊急事態が迫っている。彼女は冷静さを保つべきか、それとも感情に従って動くべきか、一瞬の迷いが生じる。しかし、すぐに判断しなければならない。
「了解。皆さん、準備して!」
工藤はすぐに指示を飛ばし、杉本と共に処置室へと向かった。救命センターの廊下を駆け抜ける中、彼女は自分の選んだ道に再び問いかけていた。感情を持ちつつも冷静であるべき。篠原が去った今、彼女はそのバランスを見つけなければならない。
処置室に入ると、そこには重傷を負った中年男性が横たわっていた。心拍数が不安定で、血圧も低下している。周囲のスタッフが慌ただしく動く中、工藤は瞬時に状況を把握し、必要な処置を頭の中で整理した。
「まずは気道確保!すぐに輸血の準備を!」
工藤の指示は的確で、すぐに看護師たちが動き出した。しかし、杉本が焦った表情で別の患者の容態を確認し、感情的に声を上げる。
「こっちの患者も危ないです!どうしますか?どっちを優先するべきですか?」
その瞬間、工藤の心に再び葛藤が生まれた。目の前の命をどう優先するのか――篠原なら冷静に判断するだろうが、工藤にはそれが難しい。彼女の胸には感情が強く渦巻いていた。
「落ち着いて、杉本。今はこの患者を優先するべきよ。次の手術チームがすぐに準備に入るはずだから、もう少し持ちこたえて。」
工藤の声は冷静だったが、その裏には強い感情が隠れていた。自分が本当に正しい判断をしているのか、彼女の心は揺れていた。しかし、今はその揺れを表に出すわけにはいかない。
処置室内での緊張感が高まる中、工藤は自分の選んだ道を進むしかなかった。感情と冷静さ、その狭間で揺れながらも、彼女はリーダーとしての一歩を踏み出していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます