第29話 策士ジェイルさんは割と口が軽いようです

 ジェイルさんの策士っぷりでわたくしとの関係が世間にバレずに済んだ。

 全ては彼の思惑通りとなっているようですね。


 ……ですが、今はなんだか話す内に口数が増えているよう。

 話を聞いていたミネッタさんがみるみる内に眉を寄せ始めてしまいました。


 仕方ないので咳払いを「オホン」と一つ。

 するとジェイルさんは途端に口と手振りをピタリと止め、チラリとこちらに据わらせた目を向けてきました。

 調子に乗っていたことに今やっと気付いたようです。


「そ、それでネルルちゃんはなんで首都に?」


 どうやらミネッタさんはミネッタさんで話したいことがあったみたい。

 ジェイルさんの口が止まると、今度は彼女がわたくしへと話し掛けてきます。


「実はわたくしあの辺りの出身でして」


「じゃあ都会っ子じゃん!」


 都会っ子……?

 た、確かに理屈で言えばその通りですけど、そんな小洒落た生活環境ではありませんでした。

 少なくとも生まれたばかりの時には絶望した訳ですし。


 ……ともあれ、ほんの三ヵ月前のことですが既に懐かしく感じます。

 あの時は本当に苦労させられましたねぇ。


「しかもこうして魔物に産まれ変わっちまったんだから不運な女だよなぁ」


「え? 産まれ変わった……?」


「ちょっ!? ジェイルさぁん!?」


 ――って、安心していたら!

 ジェイルさん、なんて失言を!?


「あん? なんだ、元人間だったってことはまだ喋ってなかったのかい?」


「ああーーーーーー!!!!!」


 ああもう! せっかく混乱させまいと黙っていましたのに!

 ほらぁ、ミネッタさんがまた思考止めちゃってるじゃないですかぁ!


「じゃあ正体の方は――」


「そっちは話す必要ありませぇん! もう失われた過去の話ですぅ!」


 怒るついでに口の軽いジェイルさんにキッと睨みつけて黙らせました。

 殺意もちょっと乗せていたのがわかったのでしょう、焦って笑って誤魔化しています。


 ああ危ない、危うく聖女だった事実をバラされる所でした。

 ジェイルさん曰く、悪逆の魔女の逸話は現在でもしっかり残っているのでこれだけは知られたくないのですよね。


 世界を裏切った挙句、一つの国を滅ぼした邪悪な聖女。

 それが現代に復活したと知れ渡ればきっと大事になりえますから。


「ああ~、ネルルちゃんが礼儀正しいのは人間だったからってことかぁ。きっと由緒正しいお嬢様とかだったんだね!」


「そ、そうなんですよぉ~……黙っていてすみません」


「ううん、話したくないことくらい誰にでもあるって。そんなのがあったって私たちの友情は壊れたりしないんだから!」


「ミネッタさん……!」


「むしろ元人間ならもっと村の人とも仲良くなれるかも!」


「あ、あ、それはちょっとぉ……」


「はははっ、もう遅いって諦めろよぉ。俺らが来た理由を知った時の村人の反応も面白かったんだぜ?『喋る魔物を退治しにきた? なんで?』ってよぉ~~~!」


 ああ、もうそこまで認知が進んでいたなんてぇ!

 ミネッタさんの友好力が羨ま憎らしい~~~!!! くぅ~~~!


「――だがそのおかげで今この村はお前さんを受け入れつつあるよ。あの男たちの悪事を暴いてくれたっつってな」


「えっ……?」


「村に戻った時に聞いたんだが、あの男たちの暴挙には村の人たちもほとほと困り果てていたらしい。そいつらを追い出すキッカケを作ってくれたんだ。そりゃ感謝もするだろうさ」


 そうだったのですね。

 それでシパリさんや村人の方の反応がああだったと。


 ……とてもありがたいお話です。

 人と魔物との関係改善に希望を感じてしまうくらいに。


「そっか、皆そんなことを言ってたんだね。良かった、ネルルちゃんのことを伝えて回った甲斐があったよ」


「あはは……わたくしとしては少し自重してもらいたかったんですけどね」


「ええーそんなのもったいないじゃーん」


「そうだねぇ、こんな面白い奴なんざ放っておけんよなぁハハハ」


「ちょっと、ジェイルさんまでぇ!? んもぅ!」


 二人とも気が合ったと思ったら好き勝手に言っちゃって。

 こちらとしては生きるか死ぬかの瀬戸際なんですからねっ!


 そんな人の気も知らないお二人は笑い合うばかりで。


 もう、今まで気を張っていたのが馬鹿みたいじゃないですか。

 呆れるあまり、机へ顎を預けて頬をぷくぅと膨らまして激おこです!


「ねぇねぇネルルちゃん」


 でもそんなわたくしの頬をミネッタさんがプニュっとつついてきました。

 それでもって微笑みながら顔を傾けて覗き込んできていて。 


「うん?」


「それなら私聞きたいなー、ネルルちゃんがここに来るキッカケになった話」


「お、それは俺も聞きたーい」


「はぁ、やーっぱりこうなってしまうのですねぇ」


 これには呆れ半分。

 けれど友達だからこそ伝えたいという気持ちも半分あります。


「……わかりました。ちょっと長くなるけれど許してくださいね」


 それにもう出自を知られてしまった以上は隠す必要もありません。

 だからわたくしは二人へ語ることにしたのです。


 わたくしが転生した後どう育ったのか。

 そしてチッパーさんやジェイルさんとどう出会ったのか。

 この地に至るまでにあった二ヶ月間の経緯を。

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