第三章
第28話 言葉巧みなジェイルさん
ミネッタさんのお家は思っていたよりずっと素朴な造りでした。
外見に拘らない、農村にありがちな住むだけの木造のお家です。
二階建てのようなので大所帯が暮らすにも適している感じ。
そんなお家一階のリビングでクッキーを頂きました。
甘味料のおかげでほんのりした、それでいて懐かしい甘味を味わえて幸せ♪
そうまったりしていると入口の扉が開き、ジェイルさんが姿を現します。
「おーう、お待たせさん」
「お嬢様、お連れいたしました」
さすがシパリさんですね、クッキー一枚食べている間に連れて来るなんて。
もっとも、ちまちまと味わって食べていた訳ですけど。
「あ、ジェイルさん昼間はどうも~」
「いやいや、こちらも情報提供助かりましたよミネッちゃん。おかげでスムーズにハーピーどもを処理できましたしねぇ。アイツラ以前から対処対象として挙がってたんで、まさしく一石二鳥だってねぇ」
ジェイルさんはあいかわらず肩が降りていてすっかり気の抜けたご様子。
戦う姿は勇ましかったのですが、普段はこんな感じなのですね。
「それじゃシパリ、ちょっと外してもらっていい?」
「わかりました。では酒場の手伝いをしてまいります。兵士様方のお相手でお忙しいようでしたので」
「おねがーい」
ひとまずシパリさんに気を遣ってもらい、家にはわたくしたちだけに。
リビングで机とお菓子を囲んで三人ご対面です。
「ええと、この度は――」
「ああ~そういう堅苦しい挨拶はいいってぇ。俺そういうの苦手だし」
「……そうですか。その型破りな所は変わりませんのね」
ミネッタさんもウンウンと頷いていますし、形式的なものは省きましょうか。
そう思うとまずは事実を淡々と語りました。
パピさんが手を出そうとしたのは本当だけど未遂だったこと。
ミネッタさんの家族から封印の地を出るよう催促されたこと。
それに対してわたくしが虹金貨二枚で土地を買い取ったこと。
ハーピーが元々封印の地を狙って動いていたこと。
そしてその状況をミネッタさんの家族が間接的に利用しようとしていたこと。
そこまで伝えると、ミネッタさんが落胆するあまりに机のふちに顎を預けてガクリとしてしまいました。
彼女なりに責任を感じていたのでしょう。
「その節はウチの親と兄たちが御迷惑をおかけしました……」
「まぁまぁ、ミネッタさんは場を収めようとして動いてくれたので責任はありませんから」
「ま、要するにあくどい身内が居たってだけだ。よくある話だし気にするなよぃ」
「そうは言いましてもぉ、ネルルちゃんのことを喋っちゃったのは私ですからぁ」
ミネッタさん、嘘が付けなさそうな性格してますもんね。
村の人にまで知られていたのは衝撃的でしたけど。
とはいえ悪いように伝わっていないのでそこは良しとしましょうか。
「それにしても、どうしてネルルちゃんがジェイルさんのお金を持っていたの?」
そう思っていた矢先、ミネッタさんの直球がわたくしの胸を打ちます。
いきなりのことでつい言葉が詰まってしまいました。
「あ、そ、それはですね――」
「ああ~~~そりゃあの金は俺がネルルに渡したモンだからな」
「……へ?」
ああもう、ジェイルさんってば三人だけだからと遠慮も無しに。
ほらぁ、またミネッタさんが思考停止状態に陥ってる。
「今まで言わなくて悪かったとは思う。だがまぁ周りの耳もあるからそう簡単に口にも出来なくてなぁ」
「な、何を?」
「……実はだな、俺とネルルには以前にも逢ってるんだわ」
「はい……?」
ミネッタさん、もうポカンとするばかり。
そりゃそうですよねぇ、信じられもしない話でしょうから。
「ええ、実はそうなのです。以前に首都から逃げる際、こっそり助けてもらったという経緯があってですね」
「ま、普通にゃ言えないことだからな、あの場じゃ知らん体で話すしかなかったんだ」
「は、はえー……」
そう、実はわたくしとジェイルさんには面識がある。
たった一度ですが二度と忘れられない出会い。
……あの時は本当にお世話になったものです。
しかも助けてもらっただけでなくあんな大金まで渡してくれて。
でももしかしたらこうなることを見越して、あんな身分証明の必要な貨幣を渡したのかもしれませんね。
「まさかネルルちゃんとジェイルさんが知り合いだったなんて、もうびっくりだよー」
「いやぁ~~~世間って狭いもんだよねぇ! こんな偶然があるなんてさぁ!」
「よくもまぁ白々しいこと」
彼のことだからきっとわたくしがここにいると察して自ら赴いたのでしょう。
余計な問題を広げないようにと。
それにガルーダさんを撃ち抜いた際、ジェイルさんだけはチラッとこっちを見ていました。
あの狙撃に唯一気付いていたにもかかわらずのこの見て見ぬフリよう。
貨幣の件といい、策士とはこういう方を言うのでしょうね。
もう呆れて頬杖を突かずにはいられません。
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