第27話 改めて問いましょう
「すんまっせェーんッ!!! 流されちゃったんですホントすんまっせェェェーーーんッ!」
パピさんの全力土下座をまた見られるとは思いもしませんでした。
今度はミネッタさん込みにつき、彼女もその姿を見てドン引きです。
「もう……パピさんはすぐそうやって謝れば済むと思ってぇ」
「そ、そうっすよね、そう簡単に済む訳ありませんよね、ハハ」
ああ、もう声が震えています。
もう亡者のような顔つきで影を背負っていますね。
そろそろ命を覚悟しているのかもしれません。
ですが。
「何を謝る必要があるというのです?」
「――えっ?」
今となってはまったくもって無意味な行為です。
少なくとも今この場で彼女の謝罪を必要としている方はいませんから。
「そうだぜパピ。俺らはわかってんだからよ」
「屋根板に紛れてガルーダをだまし討ち、カッコ良かったんだナー」
「ぐもーん」
わたくしのみならず、チッパーさんもツブレさんもずっと彼の行いを間近で見ていましたから。
身を張ってガルーダさんに抵抗する姿には実に惚れ惚れしましたね。
まぁお二人ともちょっと勘違いしている節はありますけど。
「そういうことです。わたくしたちはあの時のパピさんの言動を今でも覚えています。あんなことがあってどうして責められましょうか」
「あ、姉御……」
「ありがとうございます、パピさん。貴方のおかげでわたくしたちは助かりました」
「ふぐっ、ふえええ……よがっだ、よがっだよぉ~~~!」
「あらあら、全部言い切る前に泣いちゃってもぉ」
もう感極まり過ぎてしまったのでしょうね。
まるで子どものようにブワワッと泣き出してしまいました。
これはしばらく止まりそうにありません。
だからギュッと抱きしめて頭をそっと撫でて差し上げます。
思う存分泣いて、吐き出して欲しいから。
するとチッパーさんがいつの間にか彼女の肩に乗っていて手でポンポン。
ツブレさんもそっと身を寄せてくれています。
ミネッタさんも少し離れてニッコリしてくれていました。
グモンさんは……蝶々を追いかけているので放っておきましょう。
皆思いやりの深い素敵な方々。
こんな皆とお友達になれてわたくしは本当に幸せです。
……だからこそ。
「パピさん、もう一度聞いてもよろしいでしょうか?」
「う、うん"」
「もしパピさんがもう人を襲わずに皆と仲良くできるというのなら、わたくしはまた一度貴方をお仲間に勧誘したく思います」
「え"っ!?」
「あ、ついでにわたくしを神格化するのも無しで。如何でしょう?」
しかし返事はすぐには返ってきません。
だからわたくしたちは静かに答えを待ちます。
「い、いいの"? ボク、ごごにいでいい? 取柄なんで変化魔術ぐらいじがないのに、同等サイズ以下にじが変身出来ないのに」
「ふふっ、もうお忘れですか? その変身能力に助けられたってことを」
「う、ううう……」
「自信を持って。貴方はもう立派な一人前のハーピーなのですよ」
「あ、ああ、うううう! 一緒にいだい! 一緒に暮らじだいよぉおぉおぉ~~~!」
「……ようこそわたくしたちの居場所へ。パピさんを歓迎しますっ」
「ぶわああああ~~~~~~んっっっ!!!!!」
今のパピさんはもう疑いようもありません。
間違いなくわたくしたちのお友達です。
今度はきちんと皆のことも認めてくれる、ね。
そう信じたからこそ、わたくしはチッパーさんたちにパピさんを任せることが出来ました。
今ならきっとわだかまり無くパピさんも話を聞いてくれると思うから。
……本当なら彼女ともう少し時間をかけて話したかった。
ですが、今はそうも言ってられません。
今はまずジェイルさんに事の経緯をしっかり伝えなければならない。
そのためにもミネッタさんと共に下山する必要があります。
きっと彼も村で首を長くして待っていることでしょうから。
「もうすぐ暗くなりますし、急いで下山しましょうか」
「うん、道のりはもう覚えてるし、最短距離で行こう! もう気兼ねする必要もないと思うからさ!」
そう思って急いでいたこともあってか、足取りが普段よりも速かったようです。
そのせいで逆にミネッタさんを息切れさせてしまってちょっと反省。
しかし休憩を挟みつつ進み、暗くなった頃になんとか村へと到着しました。
ただここからは人の目があります。
暗くなったとはいえ、見つかったらタダでは済まされません。
「ここからは私に任せて! へいっ!」
「ヒョッ」
そう言われるがまま立っていると腰を掴まれ、ズボッと彼女の服の中に押し込まれました。
でもこれはもう見なくてもわかります。怪しさ満点ですね。
なんたって足と尻尾がスースーするので出っぱなしなのでしょうし。
視界が遮られたまま歩き始めましたけど大丈夫でしょうか。
「おやミネッタちゃん……え?」
「あ、どーもどーもステラさん!」
「そのお腹、妊――あ、ああ~例の喋る魔物ちゃんね。おばちゃん何も言わないでおくわ」
全然大丈夫じゃありませんでした。
しかもどうやらわたくしのこともすっかり周知されているようです。
怖がられていないようなのでそれだけが救いですね。
「着いたーここが私の家だよ! もう二人で住むには大きすぎるけどね」
それに意外と出口から近い!
これは隠れる意味が全く無かったのでは!?
「お嬢様お帰りなさいま――ハッ!」
さらにミネッタさんのお腹からスポッと脱出すると、目前には知らない女性が。
眼鏡をかけたメイドさんですね。例の使用人さんでしょうか。
「……」
「……」
「……カワッ」
……そうですか。
眼鏡をクイッとしながら真顔で言われても感慨が湧かないものですねー。
「紹介するね。ウチの使用人のシパリさん。……とはいってもこれからも雇えるかどうかわからないけどさ」
「どうもシパリェッテ=グレビュールです。それとご心配なさらずお嬢様。ワタクシ一族、弁護士を通しましてシング家先々代より充分過ぎる報酬を頂き続けております故。よってあと五〇年ほどは御付き致せます」
「あ、そーなんだ。お父さんそんなことも教えてくれなかったや」
実はミネッタさんの家系、すごいお金持ち一族だったのでは。
しかもその財産で使用人を雇うというのも妙手だったと思います。
こうして財産を残そうとしなかった辺り、もしかしたら御祖父様は息子さんの性格をよくご存じだったのかもしれません。
「なお先代は兄上様ともども深い罪を犯したため、シング家訓戒に則って自動的にミネッタ様へ家督が継がれることとなります」
「あーやっぱりそうなっちゃうんだ」
「はい。とはいえ今まで通りですから気にする必要はないかと」
「そっか。それじゃシパリ、ちょっとジェイル総隊長さんを連れてきてもらっていい?」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
シパリさん、不愛想にも見えて他家の家訓も把握している所がマメですね。
そして仕事も早い。
言い切る前に行動を始めてすぐに外へ消えてしまいました。
そうするとミネッタさんも疲れた体を伸ばしつつ家の奥へ。
「んん~~~! じゃあネルルちゃん、ちょっとくつろいでていいよ。あ、何か食べる? もしかしたらシパリが作り置きしたお菓子か何かあるかも」
「え、いいのですかっ!!!?? じゅるり……!」
な、なんということでしょう!
これは思ってもみなかった超☆絶☆幸☆運!!!!!
こ、これはチッパーさんたちには悪いですが、一足お先に料理体験させて頂きましょうかねぇ~~~!
ううーん元甘党のわたくし、とぉっても楽しみですぅーーーーーー!
そうワクワクソワソワしていたら早くもバターの甘い香りが漂って参りました!
そんな久しぶりの香りを鼻を広げて吸い込んでいたのはもはや言うまでもありません。
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