第25話 人間対魔物の戦闘勃発です!
「術者に手を出させるな! 前衛部隊は死ぬ気で守れぇ!」
「幻術で翻弄しろぉ! 一匹残らず駆逐したれやぁ!」
歩兵が走って低空の相手に切りかかり、、ハーピーが術法で応戦。
突如として始まった戦いにより、わたくしたちの土地がめちゃくちゃになっていきます。
キャベツや大根は蹴り割られて。
トマトの苗が幻術で変質して触手を伸ばし始めて。
麦の穂は炎弾で真っ黒に、風魔法で灰すら空へ。
ビッグプリンさんもハーピーたちに八つ裂きにされて見るも無残な姿に。
もうチッパーさんの悲鳴は聞こえません。全身真っ白になっていますけど。
「ギャッギャギャギャ!!!」
「「「っひいいいいいい!!!?」」」
さらにはハーピーがお家に入ろうと飛び込んできます。
ですがまもなく兵士に切り飛ばされて動かなくなってしまいました。
さらにその直後、矢の先が屋根から「ズコココッ!」と突き出てきて。
「「「ひょえええええええ!!!!???」」」
度重なる攻撃で防御壁が弱まっていたようです。
再びかけるも、また薄れるのはもはや時間の問題でしょう。
「も、もうネルルの力で全部ドババーッて出来ないのかよぉ!?」
「そうしたいのはやまやまですが、そうもいかないんですぅ~~~!」
そう、こればかりは無理なのです。
魔物に対して有効な聖力も、人間相手にはほぼ無力。
今だとせいぜい表皮を焼くのが限度でしょう。
それに見境なく攻撃すれば反撃されかねません。
それこそ本末転倒です。
だからもう見守る以外に余地はありません。
その上で双方がわたくしたちを見逃してくれるのを祈るしか。
――ただ、激戦が徐々に収まりつつあります。
見れば大量のハーピーたちが地面に転がっていました。
一方の人間はほぼ被害が無さそうです。
どうやら治癒術士もいるらしく、ケガを負っても仲間が助けている様子。
明らかな人間側の優勢。
空を飛ぶハーピー側の数が激減しています。
やはり武装と戦術を有している方が強かったということでしょう。
「……おや?」
しかしおかしいですね。
ガルーダさんの姿が見当たりません。
さっきまで咆え散らかしていたのに。逃げたのでしょうか。
ですがそう思っていた矢先、突如として屋根板が吹き飛びました。
「ッシャラアアアア!!!!!」
「「「!!?」」」
なんとガルーダさんが自ら屋根板を蹴り壊してきたのです!
さすが上位種、その攻撃力に防御壁も保たなかったのでしょう!
今掴まれた屋根板すら握り潰されそうになるほどに脚力が強い!
「よくも謀ってくれたなぁ!? こうなったらおどれらだけは仕留めたらァ! 往生せぇやあああ!!!!!」
「「「ひ、ひええええええ!!!!????」」」
も、もう守る壁はありません!
それに生半可な力では守りきれません!
これでは、もう――
「や、やめろぉーーーーーー!!!!!」
ですがそう覚悟した瞬間、ガルーダさんの右脚が突如として弾け飛びました。
彼の掴んでいた屋根板がいきなりパピさんへと変わったことによって。
「ギッ!??」
変化術は形状が変わると同時に質量も変わる。
その変化も時にこうして物理的な影響を及ぼすことがあります。
それが小さい物からの変化解除。
その特性はガルーダさんの脚を吹き飛ばすほどにも力強かったのでしょう。
「ぐぅえああああああ!!!??? ワシの、ワシの右脚がああああああ!!!!!」
「ネ、ネルルの姉御、
「て、てめぇ……!? この期に及んで裏切るたぁ!?」
なんにせよパピさんが体を張ってわたくしたちを守ってくれた。
こんなに嬉しいことはありませんよね。
「この野郎ぶっ殺して――」
「おっとぉお前さんどこ狙ってるんだいッ!」
「――ッ!? チィ!!!」
しかもさらに斬撃筋が頭上に走り、パピさんの脇スレスレを通り抜けてガルーダさんだけを追い払います。
続いて人の姿が一人、迷いなく追い駆けていました。
その動きは並みの人間とはまるで違う。
常人ならぬ俊足。さらに高い跳躍力と大気を裂くほどの斬撃力。
高く飛ぶガルーダさんを跳ね追いながらも、すれ違ったハーピーすら抵抗なく切り裂くほどに強力無比です。
「だが人間如きがこのワシに届くものかぁ!!」
「あ、あらぁ~~~!?」
「総隊長殿ォーーー!?」
あ、でもさすがに限界はあるみたい。
人間側――総隊長さんの跳躍の勢いがなくなって真っ逆さまに落ちていく。
「くたばれ人間がぁ!」
ですがそんな相手に対して放たれるガルーダさんの追撃。
羽根弾が落ちていく総隊長さんを襲います。
「おっとぉ、甘いネェ」
そんな矢弾も総隊長さんの掌から放たれた術壁によって軽く弾かれました。
地面にもつま先で「ストン」と軽々着地を果たし、直後には疾風のような速さで走り抜けていきます。
追撃弾もこれでは当たるはずもありません。
総隊長さんはその間に他所から再び跳ねてガルーダさんを襲います。
それもますます高く飛んで。鎧を着込んでいるというのに限界が知れません。
「こ、こいつううう!!?」
届かずに落ちようが、今度は火炎弾を放って追撃までしていて。
ガルーダさんも逃げの一手で、攻撃する機会さえ奪われているようです。
「すげえなあの人間、尋常じゃねぇ!」
「あ、あんなのに勝てる気しないんだナー」
「も、もしかして組長が負けたら次はボクたちの番なんじゃ……」
皆さんもあの人の戦いっぷりを見て戦々恐々としています。
確かにあの能力がこちらに向けられたら怖いですよね。
でも。
「大丈夫です。それはきっと無いって信じていますから」
「「「えっ?」」」
この時、わたくしはふと壁の隙間から見えた光景につい安堵していたのです。
それは人間側の集団の中にあのミネッタさんの姿があったから。
彼女が連れてきた兵士たちならきっと信じてもいいのだと。
あと
「おいおい、逃げてたってどうしようもないでしょうよぉ!」
「あ、あら?」
そう話している間にもう状況が変わっていたご様子。
ガルーダさんが大空に逃げて降りてこないのです。
「ハァ、ハァ、馬鹿にしくさってからに、人間如きがぁ……!」
耳を澄ますとこう聞こえました。だいぶ追い詰められているようです。
でもなんでしょう、攻撃もしなくなりましたが。
「……クックック!」
変ですね、笑っているのでしょうか。
地上で見上げる総隊長さんも気付いたようで首を傾げています。
「よかろう、ならば貴様にワシの真の力を見せてやろう!」
あ、いけません、このパターンはザバンと同じです。
魔族の力を取り込もうとしているのかもしれません!
「今こそ偉大なるハルピュイアの女王メリフェジスの意志をこの身に宿す時ィ!」
やっぱり!
このまま放っておくと厄介なことになりかねません。
仕方ありません、今の今までに溜め込んでいた力をこっそり使いましょう。
「皆さん、ちょっとそこ動かないでくださいねー」
「お、おう?」
「集中集中。そして力を定め、収束、収束ぅ~~~……」
溜め込んでいた聖力を右指先に集約します。
その指の向く先はもちろんガルーダさん。
イメージは絹糸。
誰にも見えないように、感知できないように、聴こえないように。
――それでいて全てを貫くように。
そうして瞬時に射出。
放たれた聖力は誰の目にも追われることはありませんでした。
ほんの微かな筋が刹那だけ空に走り、ガルーダさんの頭を射貫くだけで。
「――あろッ!?」
その間もなくにガルーダさんは力も無く地面へ墜落。
総隊長さんもその様子を見て、やれやれと呆れつつもさっくりトドメを刺していて。
すると直後、周囲から歓声が上がります。
人間側が勝利を確信したのです。
残党のハーピーはこうなると手出しも出来ずに逃げていくばかり。
こんな結果となってしまったのはとても残念ですが、ハッピー組とやらはこれでもうお取り潰し確定でしょう。
はてさて、ここからが問題ですね。
どうやってこの場を切り抜けたらいいものか。
近づいてくる総隊長さんたちを前に、ただただ顎に手を充てて悩むばかりです。
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