第24話 やっと平和になったと思った訳ですけど
「はぁ……平和ですねぇ」
パピさんの一件からもう二日が過ぎました。
幸いにもチッパーさんが怒りの修復劇を展開したおかげで、ビッグプリンさんはなんとか修繕完了。
上半身だけとはなりましたが、今でもしっかりと畑を守ってくださっています。
おかげで畑には色んな作物がしっかりと形を成してきました。
キャベツや大根はあと一~二日で食べ頃という雰囲気。
麦やトマトは青い穂や実を実らせてくれています。
これなら育ちの早い芋なんてもう食べられるのでは?
さすがこの地での成長速度はやはり尋常ではありません。
かつての孤児院の痩せていた土壌とはもう桁違いです。
そんな青々しくなった畑の前で寝っ転がって畑とにらめっこ。
今日のやることも終えましたし、たまにはこうのんびりするのもありかもしれません。
「どうしたぁネルル? まだパピのこと気にしてんのか」
そうしているとチッパーさんが心配そうにして傍へと歩み寄って来てくれました。
やっぱり彼には隠し事は出来ませんね。
「ええまぁ……やっぱり気になりますから。わたくしの落ち度で怒らせてしまったのは事実ですし、責任を感じてしまいます」
ただ今はどうにも彼を直視出来ませんでした。
気持ちが纏まりきっていないからでしょう。
「オラは楽しそうにしてるネルルを見る方が好きなんだナー」
「すみません……ちょっと気持ちを整理しないとなりませんね」
ツブレさんも身を寄せて励ましてくれました。
二人とも親身になってくれて感謝を禁じ得ません。
でもおかげで少し元気が出てきた気がします。
彼女が去ってしまったのはお辛いことですが、クヨクヨしていても仕方ありませんよね。
少しは無理してでも元気にならなくっちゃ!
「ククク、貴様がネルルとかいう奴かァ」
「「「ッ!?」」」
しかし途端、この声とともに視界一帯に陰りが覆います。
それに気付いて立ち上がり、空を見上げると彼らはいました。
空にはなんと大量のハーピーたちの姿が。
しかもよく見ると知った顔も伺えます!
「ア、アンタが悪いんだ。ボクを騙したアンタが……!」
「パピさん……!」
でも彼女はこう言うと顔を逸らして口を紡いでしまいました。
意図はわかりませんが、少なくとも彼女が彼ら側だということくらいはわかります。
「そういう訳だァ。それでもってお前さんがこのシマを仕切ってるのも調査済みよォ」
「貴方は……!?」
そして彼女の傍には一回り大きい影が。
しかも姿からして普通のハーピーではありません。
まさに人と同じ四肢を持ち、頭も人らしい。
ですが嘴を持ち、背中の大きな黒い翼で羽ばたいてその力強さを示してくる。
するとまさかあの姿は、ハーピーの進化体!?
「そう、ワシこそが羽頂天組組長ガルーダ様よォ! クハハハハッ!!!」
ガ、ガルーダ!?
そんな、あれは確か霊獣のはず!
それがなんで魔物であるハーピーの長をしているのです!?
そう疑問に思っていたら周囲のハーピーたちが睨みを利かせてきます。
「聞いたかオォン!?」
「ガルーダ様はなぁ、姿がガルーダに似てるってことでそういう名前が付いたんだよォ!」
「そんなスゲェ方にガン飛ばしてんじゃねーぞゴラァ!」
あ、はい、そういうことですか。
名前がガルーダってだけで種族名じゃないんですね。なんと紛らわしい。
そうとなると種族はおそらく
それも先日のザバンと同じように特殊進化した形態でしょう。
どちらかと言えば東方の魔物〝鴉天狗〟のようにも見えます。
「まぁ待てお前ら。ワシは一つ交渉に来ただけじゃけぇ、返答次第じゃ事を起こさずにいてやらんでもねぇ」
「交渉……?」
しかもまたこのパターンですか。
それに魔物が交渉となると、結果はもう想像するに容易いですね。
「ふもとの人間の村があるやろ? あそこを明け渡せェ。知っとるでなぁ、お前さんがあの村ァ仕切ってるってェことはよぅ」
……はぁ、やっぱりそうなりますか。
しかも誤解が広がりに広がって説明も面倒な話になっております。
一体どうしたらそんなことになっちゃうんです???
「それに聞けばお前さんは魔王を目指しとるそうやないかい」
「ま、魔王……?」
「だがァ目上のモンにゃちと敬意ってモンを示さにゃならんってわかっとるやろ、おぉん?」
わかりません。
さっぱり理解出来ません!
魔王ってなんです? 目上ってなんです? 誰か教えてくださーい!
「マジかよネルル! お前魔王になるつもりだったのかよ!」
「すごいんだナー! 憧れるんだナー!」
「ぐもーん?」
ああああああチッパーさんにツブレさんまで勘違いしちゃってます!
さすがにグモンさんはわかってないみたいですけど。
「で、どうなんや?」
ど、どう、とは?
「ワシらに敬意示さんつもりか?」
関係の無いテリック村を差し出せって言われても返答に困るんですけど!?
「ほならどうなってもかまへんっちゅう訳やな?」
ほらぁ! やっぱりこういう結果になるんじゃないですかーーー!!!
ガルーダさんの今の一言で周囲が動きます。
もう一斉攻撃を始める寸前で逃げる余地なんてありません。
「いい度胸しとるやないかぁい! 覚悟しとけやおどれがぁ!」
「「「いてこましたらぁぁぁ!」」」
「ひょええええええ!!!!!????」
ああっ! 周囲のハーピーたちが爪を立てながら飛び込んできました!
こっちはむやみに戦いたくはありませんのにぃ!?
「ギャッ!?」
「グエッ!?」
「ピギィ!?」
ですがこちらが慌てた途端、突如として幾つもの矢が頭上を飛び抜けました。
その一瞬で何匹ものハーピーたちが射貫かれ、地面へと落ちていきます。
そんな矢の放たれた元を辿ると、森の中にたくさんの人間たちの姿が。
「第二射、撃てェーーーーーーッ!!!」
「「「発射!」」」
彼らが身構えていたのはクロスボウ。
十人ほどが列を成し、一斉に発射しています。
しかも撃った直後には下がり、後に控えていた者達が同様に弩を構えていて。
「第三射、撃てェーーーーーーッ!!!」
「「「発射!」」」
すごい連携です!
あっという間にまた矢が放たれ、ハーピーたちを次々に撃ち落としている!
「人間やとォ!? しかもありゃ兵士やないかい! まさかこれもお前さんの差し金かぁ!?」
ハーピーたちも浮足立ってるようですね。変な誤解も生まれていますが。
しかし今なら逃げられるかもしれません。
「ツブレさん!」
「んあっ!?」
「今の内にお家に逃げ込むのです! 早く!」
「いい急ぐんだナーーーーーーッ!!!」
どうしてこうなってしまったのかはわかりません。
ですが今はひとまず逃げなければ。
チッパーさんも咄嗟にツブレさんに飛び乗り、皆で一緒にお家の中へ。
グモンさんはまぁ矢なんて効きませんから今は放っておきましょう。
「掃射終わりッ! 前衛部隊は前へ、後衛に通すなよォ!」
「「「うおおおおおお!!!!!」」」
「憎たらしい人間どもが、いてこましたれやあ!!!!!」
「「「キィヤアアアアアア!!!!!」」」
その間も無く、双方の掛け声と共に周囲が戦闘の激音に包まれました。
突如として矢や魔法、羽根弾が飛び交う戦場と化したのです。
「あ、ああああ、わたくしたちの畑が! 野菜があああ!」
「落ち着けネルル! もうそれどころじゃねぇ!」
「ンーーーーーーッ!!!!!」
チッパーさんの言う通りです!
でも悔しくて下唇を尖らせずにはいられません! もう涙も零れちゃいます!
それでもなんとか冷静さを取り戻し、密かにお家へと防御術式を張りました。
これである程度の攻撃には耐えられるでしょう。
耐えられるけどぉ~~~!
表の惨状を前にもう肩を落として落胆する他ありませんでした。
こちらの事情なんて完全無視で皆好き勝手に暴れ回っている訳なのですから。
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