第14話 とっても素敵な贈り物

「おおー! なんか畑っぽいのが出来てるーっ!」


 さっそく出来たばかりの畑へとミネッタさんをご案内。

 楽しそうな声を上げていて、作ったわたくしたちも鼻が高いです。


「でもなんかこう、小さいよね」


「ハッキリ仰いますねぇ……」


 ええそうですとも。

 一辺の幅は多分人の背丈ほども無いでしょう。

 人の腰ほども無いわたくしの感覚ではこれでも充分に大きいのですが。


「でもオラ、これ以上の範囲を掘るのはちょっと前足が疲れてイヤだんナー」


「ツブレさんが仰る通り、人為的に出来る範囲と言ったらこれが限度でして」


「まぁ道具が無いと仕方ないよねぇ」


 石でも斬れるわたくしの爪も、地面となるとめっきり通じません。

 何か属性的な影響があるのでしょうか。


「追加で耕すのはいいけど、その前に石を除いておかないとね。道具が傷付く原因になるし、作物の成長にも影響が出ちゃうから」


「なるほどぅ。お詳しいのですねぇ」


「村人の施しだけじゃ食べていけないからさ、ウチでも畑仕事はしてるんだ。とはいっても実際の作業をしてるのは私と使用人さんだけなんだけど」


「おお、ではほとんどプロ農家さんじゃないですかぁ! これは頼もしいです!」


「いやぁ~それほどでもぉ!」


 これは嬉しい誤算です。

 わたくしも経験はあってもそれほど農業に詳しくはありませんし。


 そんな訳でミネッタさんの指示に従い、まずは既存の畑から石を取り除きます。

 それが終わったら土をこねるように掘り起こして土壌を整えました。

 ミネッタさんの持ち込んだ木製シャベルが大活躍です。


「それで種の植えた場所がわかるようにちょっと盛り上がる場所を作って、そこに種をちょんちょんと一粒ずつ入れていけばいいかな」


「そこは昔やった記憶があるのでわかりますっ!」


「え、ワーキャットって農業やるの……?」


「あ、いえその、人の見よう見真似で、です……」


 あ、危なぁい!

 うっかりボロが出ちゃいそうになりますね! まったく油断できません。


 さて気を取り直して種を蒔くとしましょうか!


「では種を蒔いて……蒔き……」


 ですがミネッタさんから差し出された袋から種を取り出そうとするも、途端に絶望に襲われました。


 種が、掴めません……!

 肉球が、細かい物を掴ませてくれない!


 というかキャベツの種ってこんな細かかったでしたっけ!?

 コレ一粒摘まむなんてわたくしではもう不可能に近いのでは!?


「――チッパーさん、お仕事です!」


「お、おう!」


 しかしわたくしたちには細かい作業ならお任せなチッパーさんがいます!

 そんな彼を指名すると、とても速い動きで次々と種を植えてくれました。


「ネルルちゃん……」


「みなまで言わないでくださいっ! 誰にも得手不得手があるのですっ!」


 そう、わたくしはワーキャット。それも子猫であるワーキトンでしかありません。

 元々農業なんて出来る体ではないのです。だから仕方ないのです。


 あれ、変ですね涙が。ンーーーッ!


 するとミネッタさんが頭をポンポンと撫でてくれました。

 励ましてくれているみたいなので、気を取り直して鼻をズズズッとすすります。


「まぁ植えるくらいはこれくらいでいいし、後は管理さえしっかりすれば問題ないかな。陽も当たる場所だし、川も近くに流れてるから水もそこまで必要ないだろうし」


「ということは?」


「これでひとまずこの小さな区画は完了だね。お疲れさまっ!」


「「「やったー!」」」


 でも思ったより早く済んで良かった。

 役に立たないまま作業を眺めるとかお辛いだけですから。


「さて、と。後はみんなに任せても平気かな?」


「おや? もう帰られるのですか?」


「うん。実はちょっと考える所があってね、思い切って首都にまで一ヵ月くらい出掛けようかなって。その準備がまだ残ってるんだ」


 あらあら! もしかして何か人生目標でも見つけたのでしょうか。

 それでは仕方がありません。ミネッタさんに頼りきるのはよくないでしょう。


「わかりました。では帰りは前回通りツブレさんを護衛に」


「あ、ううん、平気だよ。あれ以来なんか魔物の気配が無くなっちゃったみたいだからさ」


「おや、そうでしたか」


 確かに、ここ数日はとても静かな毎日でした。

 むしろ野生動物が増え始めたというか、生態系が少し変わった気もします。

 ブルーイッシュウルフたちは本当に残さず他所に行ってしまったのでしょうね。


「ああ~それともう一つ、最後のお土産を!」


「え、なんでしょ――わっ!?」


 そんな時、ミネッタさんが急にわたくしへ何かを被せてきました。

 しかしそれも間もなく「スポンッ!」と頭が抜けて視界が元通りに。


 そしてわたくしの体にはなんと布生地が着せられていて。


「ネルルちゃんの服を作ってきたの! 急ごしらえだけどね!」


「あ、あああありがとうございますっっっ!!!!! 大切に扱いますね!!!」


 着せられたのは白い生地のワンピースみたいな服でした。

 それも胸元にはネコチャンの刺繍があってとってもキュート!

 おかげですぐに気に入ってしまいました!


 しかし一方で今までずっと裸だったと思うと途端に恥ずかしくもなりましたね。

 どうして忘れていたのでしょう。魔物だと羞恥心もリセットされるのでしょうか。


 それにしても、ミネッタさんがこれを作ったのだとしたらとても芸達者です。

 もしかして彼女、実はかなりの万能キャラなのでは?


「それじゃ私はこれで失礼するねー」


「はい、お気をつけてー!」 

「またなー!」

「わおーん!」


 こんな素晴らしいお土産を残して去るミネッタさんの背中はとても誇らしげでした。

 これほど感動したことは今までにもなかなか無かったのではないでしょうか。


「ぐもんぐもん」


 でもそんな最中、グモンさんがなんか張り切ってクワを振り回しています。

 彼も畑の拡張に意欲的なのでしょうか。


 あ、でもまだ力を入れてはいけませんよ。

 石が土の中に入ってるかもしれませんから。


 あー、あー、ダメです!

 そんなに振り被っちゃ!


 あーーーーーーーーーーっ!!!!!


 やはりダメでした。

 グモンさんが全力でクワを叩きつけ、へし折ってしまいました。

 しかも折れた先端部が拍子に高く高く飛び、去り際のミネットさんのすぐ傍へと突き刺さることに。


 あまりの出来事にミネットさんが堪らずきりもみジャンプ。

 その結果なぜかブリッジする姿に。どうしてそうなった。


 ああもう、格好よかったのに全て台無しです。

 すみません、グモンさんを止めるのが遅れたばかりに。


 彼女が何も気にしていなさそうだったのが唯一の救いでした。

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