第二章

第13話 食事のレパートリーを増やしたい!

 神に三回も地上へ落とされ、その末にまた魔族との戦いを繰り広げたわたくし。

 オーヴェル様への信仰心を失った訳ではありませんが、もはや妄信するほどでもありません。


 だから今はこうして自分の望む生活を送ることにしました。

 人間時代と比べてずっと原始的ですが、充分に満喫しています。

 仲のいいお友達もいますしね。


 つい先日には青狼のツブレさんもお友達に加わりました。

 今では一緒に狩りに行ってくれる頼もしい御方です。

 もっとも、彼が獲物を捕まえられたことは一度も無いのですけれど。


 そして今日も今日とて焼肉。

 意外とコレ受けが良くて、今ではチッパーさんもその美味しさに気付き始めたようです。


「だが食い飽きた! なんかもっと無ぇのか!?」


 ただし味変があろうとも単調に変わりはない。

 正直、チッパーさんの気持ちもわからないでもないというのが本音です。


「チッパー、我儘なんだナー」


「仕方ねぇだろ!? 俺ぁお前らと違って雑食グルメなんだよォ!」


 わたくしもツブレさんも肉食獣なのでお肉は飽きません。

 でも人間の頃の料理を食べた記憶がある以上、物足りないとも感じるのです。


 せめてサラダくらいは食べたいものですねぇ。

 例えば果汁たっぷりのトマトとか、シャキシャキのレタスとか!

 あ、穀物もいいですね。イモやパンも捨てがたいっ!


 そう思うとヨダレが出てきてしまいました。じゅるり。


「そうですねぇ。そろそろ食事のレパートリーを考える頃合いなのかもしれません」


「おっ!? ネルルに何か案でもあるのかぁ!?」


「ええ、実はちょっとした秘策があるのです!」


「うおおーっ! さすがネルルだぜーっ!」


 しかしこんなこともあろうかと、実は一つ計画を練っていたのです!

 いつかは必要になると思っていたので!


「ではツブレさん、ちょっとお願いが!」


「なんかナー?」


「わたくしが指示した範囲を得意の足で穴掘りして頂きたいのです!」


 狼は獲物を追い込むために土を抉ることもあると聞きます。

 故に体の大きいツブレさんならそれなりに土を耕すことが出来るはず!


 そんな訳でツブレさんに家の近くの平地を指定。

 さっそくザッザッと軽く掘って頂きました。


 後はわたくしたちが雑草を取り除き、小さな石で囲いを作れば畑の完成ですっ!


「さぁ、ここに野菜の種を植えましょう!」


「野菜ってなんだぁ?」


「なんとですね、美味しく食べられる草や実、根っこのことですっ!」


「うおおっ! まじかーっ!」


 長い年月を聖力に晒されてきたことでこの地はとても肥沃になっています。

 だから種を植えれば翌日にはもう芽が生え、一週間くらいもすれば食べられるようにもなることでしょう。

 いやぁ楽しみですねぇ~~~!


「で、その種ってのはどこにあるんだ?」


 ――えっ?


「オラ、野菜ってのも食べてみたいんだナー」


「ぐもん!」


「はははっ、グモンは食べられねぇだろうがよい!」


 えーっと。

 うーん。


 ……作物の種って、どう手に入れるんでしょうね?


 しかし空に遠い目を向けるわたくしを他所に、三人はもう大盛り上がり。

 なんだか「種はありません」って言い出せる雰囲気ではありません。


 孤児院で農業をしていた頃は院長が種を持ってきてくれたのですが。

 今思うと、あの方もどうやって種を手に入れていたのかさっぱりわかりませんね。

 収穫物は全部食べてしまった気がしますし。


 しかし畑があっても種が無い。

 これってただの働き損だったのでは?(主にツブレさんの)


「さて、困りましたね……いっそふもと村の畑に盗みに行くとか――いやいや、それはいけません。いくら魔物でも盗みは許されませんよぉ!」


 せめて一粒でもあれば育てて種を収穫して返すくらいは出来そうなのですがっ!

 追い詰められるあまり魔が差してしまいそうですぅ~~~!


 いっそ本当に盗みに行った方が――


「お~~~い、ネルルちゃーーーん!」


「――ハッ!?」


 でもそんな悩んでいた時、耳に聞き慣れた声が届きました。

 それで振り向いてみれば、なんとあのミネッタさんの姿が森の方から!


 なんということでしょう!?

 深く悩むあまり、ついに幻覚・幻聴まで出るように!?

 それともまさか幻惑術を使う魔物でしょうか!?


 そう思ってジャギンと爪を出して「ちゃーっ!」と身構えます。

 でも彼女が近づくにつれ、あの緩い顔がしっかりと見え始めました。


 間違いありません、あれはミネッタさん本人!

 匂いも仕草も彼女そのものです!


 でも、なんで彼女が!?


「ミネッタさん、どうして来てしまったのですか!?」


「へっ?」


「お礼なんていいと言ったでは無いですかっ!」


 他の皆さんは嬉しそうではありますが、そういう問題ではありません。

 あれだけ言ったのにまた来てしまうなんて。


「うん。だからお礼じゃなくて普通に遊びに来たよ」


「ええーーーっ!?」


 こ、これは予想斜め上の展開です!


 そう、そうですよね。

 お友達なら遊びに来ますもんね。


 お礼のためじゃなく普通に訪ねてきても不思議じゃないですよねぇ~~~!!!!!


 今さらそう気付き、後悔のあまり大地に崩れ落ちました。

 いくら願っても言葉にしなきゃ意味がないって。


「よくわかんねぇけど元気出せよ、な? いいじゃんか、ミネッタはなんかこれからも来そうな雰囲気だしよ?」


「はぃ……」


「ええーなんか私歓迎されてなくない?」


「そうでもないです。とっても嬉しいです。皆さんも喜んでますし……」


 そうなんです。ミネッタさんは悪くない。

 交友経験の少ないわたくし自身の問題ですもの――グフゥッ!


 そういえば人間時代も友達はほぼいませんでした。

 仲が良い孤児院の仲間は多かったですけど、あれは家族ですし。

 大戦時代でも冒険者や兵士さんたちは友達というより護衛って感じでしたから。


「なんで吐血してるのかよくわかんないけどまぁいいや」


「いや良くねぇだろ!?」


「うんまぁそれは置いといて。なんかネルルちゃんがスローライフとかなんとか言ってた気がしたからさ、色々道具とか持ってきてあげたよ! どれも使い古しで使ってないようなものばかりだけどねー」


 ああ、しかもミネッタさんが欲してやまない物ばかりを背中の鞄からポイポイ取り出しています。

 なんて凄く気が利くことを……!


 なんだか妙な違和感も感じましたが、何にしたって嬉しい限りですね。

 農耕用のクワまでありますし、まさにおあつらえ向きじゃないでしょうか。


「後はじゃじゃーん! 農家さんから作物の種ももらってきましたー!」


「う、うおーーーっ! すげーーーっ! それが例の野菜の種って奴かー!」


「うふふっ! そうそう、トマトにキャベツ、大根に甘イモとか、あと麦も持って来たんだからー!」


 す、素晴らしいです!

 まさかこうも都合よくミネッタさんが全てを用意してくれるなんてぇ!


 やはり持つべきものは友達ということでしょう!

 盗みに行かずに済んで本当に良かったぁ!


「さすがだなミネッタは!」


「えっへへ~まっかせてよー!」


 チッパーさんとミネッタさんも嬉しそうに話しているし、もう良いことづくめですね!


 ……え?


「ちょっと待ってください? なんでお二人が話せるのです? 人間と魔物、ですよね!?」


「そういやそうだな。なんでだろ?」


「さぁ?」


「オラも、オラも言葉わかるー!」


「ぐもん?」


 うーん、よくわかりません。

 でも悪いことでもなさそうですし、便利そうですから今は良しとしましょう。


 ただ、ちょっと後で事実確認してみる必要もあるかもしれませんね。

 このまま放置するのもちょっと気持ち悪いですから。


 そう思ったわたくしは敢えて心に留めおきつつ、再び畑へ。

 ミネッタさんも加えて畑仕事に勤しむことにしたのでした。




――――――――――――――――――――――


 ミネッタはネルルと再会したことで条件達成、〝魔獣使い〟に目覚めました。


 ミネッタはネルルにアクションスキル〝テイミング〟を無意識に実行!


 ネルルのリベンジスキル〝聖護反壁〟が自動発動!

 アクションスキル〝テイミング〟の効果を反転!


 ネルルはミネッタのテイミングに成功!

 ミネッタ[種族:人間]はネルルの使い魔ペットになりました。


 ネルルの所持する使い魔の数――現在、3。


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