第15話 農業作戦、開始です!

 ミネッタさんが持ち寄ってくれた補給物資のおかげで畑第一号は完成。

 今度は彼女抜きで畑の拡張を計画します。


 しかしその前に壊れたクワを修復しなければ。

 金属部分はまだ使えそうだったので、取手部の木棒を自作して再接続します。

 ついでにわたくしたちのサイズにバッチリ合わせたので完璧ですね!


 手始めの軽い土起こしはわたくし自らが道具を使って行うことに。

 もう役立たずとは言わせません。

 

 その合間にチッパーさんとツブレさんが石を掘り起こして取り除きます。

 グモンさんはむしろ踏み固めてしまうので悲しそうにしながらも待機中。


 それが終わったらやっとグモンさんの出番です。

 わたくしと一緒に耕すことで最初の四倍もの広さにまで拡張が成功しました。


 後はチッパーさんが一生懸命に種植え。

 ちょっと広くなったので大変でしたが、日が落ちる前には完了。

 さすがに疲れましたし、燻していたお肉を食べて本日の活動は終了です。


「あぁ、もう明日が楽しみでなりませんっ」


「そんなすぐに成果が出るもんなのか?」


「ええ。この土地が特別ですから、きっと明日には大きな芽が出ていることでしょう」


 とはいえ、確証はあっても実際に育った姿を見ないと安心も出来ません。

 不安と期待で一杯になってどうにも寝つきが悪い。


 仕方ないので丸まったツブレさんの中心へと寝転がって再び目を閉じてみます。

 すると心地良い温もりが途端に眠気を誘ってくれました。


 これはなかなか、いい、ですねぇ――




 ――で、ハッと気付けばもう朝。

 すっかり深く眠ってしまったようで、もう朝日がしっかりと辺りを照らしきっていました。


 チッパーさんもツブレさんもまだ眠ったまま。

 どちらも子どもではありませんし、昨日の疲れが響いているのかもしれません。

 起こすのも忍びないのでそっと起きて静かに家から出ましょう。


 さて、待望の畑はどうなっているでしょうか?


「きっともう立派な芽が――えっ?」


 ですが畑を見た瞬間、無数の鳥たちについばまれる畑の様子が見えました。

 大小様々な鳥が土をほじくり返していたのです。もう一切容赦ありません。


「な、な、なああああ!!!??」


 必死に大声を上げて駆け寄るも、鳥たちは一斉に飛び上がって空の彼方へ。

 畑の方はもう見るも無残、芽らしい痕跡が欠片も残っておりません……。

 雑草すら食い散らかされている有様です。


「な、なんということを……びええええええんっ!!!!!」


 これは、想定外、でした。

 まさか野生動物がこのような形で反旗を翻してくるとは。

 今までの狩りに対する因果応報ということでしょうか……。


「な、何があったあ!? うおっ!?」


 余りの悲しみで崩れ落ちていると、チッパーさんとツブレさんが駆け寄ってきます。

 しかしさすがの彼らも畑の惨状に驚きを隠せない様子。


「これは酷いんだなー」


「何があったんだネルル!?」


「鳥に全部食べられてしまったようです……グスッ」


 鳥たちも生きるために必死でしょうから罪はありません。

 ですがどうしてこうもこの畑を集中攻撃してくるのか。


「もしかしたらオラの仲間がいなくなっちまったのが原因かもしんね」


「……そうなのです?」


「オラたちがいると動物さ怖がって近づかなかっただよ」


「なるほど、つまりこの畑は彼らにとって脅威のいない恰好の餌場になっていたという訳ですね……」


 そう言われてみれば納得も致します。

 人間の村の方も彼らなりの対策をしているでしょうし。


「おいグモン、お前なんで畑を守らなかったんだよぉ?」


「ぐもーんぐもーん」


 うーん、これに関してはグモンさんを責められません。

 彼はそもそも畑の意味を理解していませんし、鳥も脅威的存在という訳ではありませんから。


「こうなったら仕方ありません。もう一度種を植えて次は対策もいたしましょう」


「具体的にどうするんだよ?」


「見張りを付ける、とかですかね?」


 こう提案してみたものの、具体案に欠けますね。

 寝込みを襲われたらどうしようもないですし。


「ネルルが傍おったらネルル自身が鳥についばまれかねねぇ。ここはオラが見張っとくだよ。外寝はこれでも得意なんだぁ」


「おー、ありがとうございますツブレさん!」


 魔狼の落ちこぼれらしいツブレさんも今となってはとても頼もしい!

 これなら明日からは心配いらなさそうです。


 そんな訳でツブレさんに畑の護衛を任せ、今日は種植えと狩りをして終了。




 それでまた翌日。


「んん、おはようござ――アーーーーーーッ!!!!!」


 意気揚々と起きた傍から、鳥たちの畑を荒らす様子が目に飛び込んできました。

 ツブレさんが傍で寝ているのに鳥たちはまったく警戒していません。


 大慌て騒いで追い払うも、既に後の祭り。

 再び大荒れ模様となった畑を前にまた膝を突いてしまいました。


「今日もひでぇ有様だなぁ、ハハハ」


「笑いごとじゃないですよぉ……」


 チッパーさんの乾いた笑いももう冗談にすら聞こえません。

 番犬ツブレさんもまったく効果が無くて残念です。


「こうなったら仕方ありません、わたくしが早朝に起きて対処しますね……」


 効果のある対策が無い以上、物理的に脅威を排除するしかない。

 わたくしはそう心に誓いつつ、今日は早めに床へ就くことにしたのでした。




 それでまたまた翌日。


「フフフ、まだ日も出きっていないようですね。これなら鳥たちもまだ眠って――アーーーーーーーッ!!!!!」


 でもダメでした。

 せっかく日の出前に起きたのに鳥たちがもう襲撃中だったなんて!


 慌てて追い払うも、作物狙い撃ちで既に後の祭りです。


 故にもうこちらの怒りは収まりません。

 激情の余りに神霊槍エンヴォルクを何度も空へと撃ち込みます。


 ――で、直後にはわたくしが力尽きてグロッキーに。チーン。

 傍でチッパーさんが出来たての焼き鳥を頬張る中、再び鳥たちが畑の荒らす様子を眺めるしかありませんでした。


「野生を舐めていました。もはやわたくしたち自身で出来る対策では彼らには敵わないかもしれません」


 その後、プリケツを晒しながらも何とか皆と話し合うことに。

 ですが皆さんも半ば諦め気味なご様子。

 

「このままでは貰った種が全て無くなってしまいます。それではここまで育てて頂いた農家様に申し訳が立ちません」


「じゃあどうすんだよ?」


「フフフ、実はですね……(ついさっき思い付いた)妙案があるのですっ!」


 しかしわたくしは絶対に諦めません!

 こんな時のために転生したと言っても過言ではないのですからっ!


 そこでわたくしは弱った身体を酷使して、ミネッタさんの補給物資の中から白い布地を一枚取り出しました。

 さらには黒炭を使ってゴリゴリと模様を描き、棒に貼り付けて畑に立てたのです。


「これぞ秘策、案山子作戦! 人をまねた人形を置くことで鳥たちを追い払うのですっ!」


「人を、まね、た……!? 人……?」


 チッパーさんの反応が不可解ですが、これがあればもう完璧!

 鳥たちは二度とこの地を踏むことも無いでしょう!


 そう誇るままにポテリと倒れ、気を失ったのでした。




 それでまたまたまた翌日。


「アーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」


 ですが案山子作戦ちっとも効果がありませんでした。

 畑はまたしても掘り尽くされ、もはや荒れ地にしか見えません。


「いや、これを人間に例えるのは無理があるだろ……」


 しかも今度はチッパーさんのお言葉ダメだしもが胸に刺さります。


「し、仕方ないじゃないですかぁ! だってわたくし絵心なんて無いんですもぉん!」


 そう、なにせわたくしの絵心は幼少期で止まっております。

 作った案山子も絶望的な出来だと言われても反論のしようがありません。


 そう落ち込んでいたらチッパーさんがなにかヒョイと手を挙げていて。


「ったく、仕方ねぇなぁ。なら今度は俺が案山子ってやつを作ってみてやらぁ」


 チッパーさんはこう仰ってくださっていますが、期待はしないでおきましょう。

 ひとまず今日はさっさと狩りを済ませてのんびりしましょうかねぇ……。




 そしてまたまたまたまーた翌日。


「えっ……!?」


 しかしこの日、わたくしたちは思わず垣間見ることとなったのです。

 神々しい朝日を受けて輝く、とても綺麗で整った畑の姿を。


 そしてその畑に祈るように佇む美しい修道女の姿をも。


「フッ、さすがだぜ俺のビッグプリンちゃんはよ」


 チッパーさんが夜通しで作った案山子はなんともう人そのものでした。

 それに何故かお胸がたわわという。とても主義趣向を感じてなりません。


 とはいえさすがにここまでリアルだと鳥たちも避けるしか無かった様子。

 この成果には思わず驚愕するしかありませんでした。


「で、なぜこんなデザインなのです?」


「そりゃ最も美味しかった奴がこんな姿ナリしてりゃ忘れられもしねぇよぉ」


 理由はともかく、ちょっとデザイン的には羨ま――場違いかもしれませんね。

 なんとなく人間時代のわたくしを彷彿とさせる容姿でなんだか共感羞恥も感じますし。


 ま、まぁでも効果的なら今はいいでしょう。

 ミネッタさんがまた来た時の反応がちょっと不安で気になりますけども。

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