近藤と俺と
まずいな
地上を見ていると重力加速度見たく恐怖が湧き上がってくる。
近藤にだけ目線を合わせよう。
あいつに全部ぶちまけてやる。
そしてあいつから全部聞いてやる。
抜いてやるんだ…秘密を!
あいつの姿がどんどん近づいてくる。
俺は精一杯、声を枯さんとするばかりの喉を痛みつける声を発した。
「こんどーうー!」
力が抜けきっていて、ブランブランとしていた近藤の目に希望が溢れ、その後困惑の表情を浮かべた。
「なんでお前も浮かんでるんだよー」
近藤との距離が縮まり、もはや叫ぶまでもない距離にまで追いついた。
「俺はお前にマジギレなんだよ」
「は?って俺が隠していることか。
もうこの際だから言ってやるよ、俺は森見さんと付き合ってたんだよ。体育祭の時に勇気出して告った!」
近藤のスピードがちょっと落ちた。
でもまだ抜けきってないや
「そんなこと大体察しついてたよ。でもやっぱ悔しいよ、先越されたって感じ。てかお前まだ隠してるだろ。」
「うそっ!お前もしかして俺の心読んだ?」
「バレバレだよ。お前にこの現象の仕組みってやつ教えてやる。」
「そりゃなんだ?」
「どうやら俺らは言うかどうか迷ってる秘密ってやつを抱えたままだと空をとんじまうらしい!」
「全くもってわけがわかんねえよ!
でも多分そうらしいな。ていうか、お前も俺に秘密あんのかよ、俺に対して秘めているものが」
よし、もう覚悟は決めた、決めたんだ!近藤に、ぶちまけてやる
「俺はお前よりも俺自身にマジギレしてんだよ。」
「どういうこと?」
「俺はお前とな、お前とな」
覚悟は決めたはずなのに、ちくしょう
もう勢いに乗っちまおう!
「俺はお前と離れ離れになるのが怖い」
「……………………」
「お前は俺よりも勉強ができて、運動ができて、恋愛だってできる。そしてなにより、お前はやさしい。お前はなんだって1人でできる。変えられるんだ。そんなお前と俺はたまたま小学生の頃仲良くなった。そして、今まで続いてきた。
でももう一年もしないうちにお前とは離れ離れになる。俺怖いんだ、将来お前にとって俺がそこらにいるやつと変わらないぐらいの位置になっちまうのが、俺がいらない存在だって…」
「なわけないだろ」
近藤は俺の言葉を遮り、強烈な口調でそういった。
「俺が9年間も一緒にいたやつにそんなこと思うわけないだろ。」
「なんでそんなこと言い切れるんだよ…」
「だって…俺は近藤、近藤太郎だから」
「ははっ」
思わず頬があがった。露が滴り落ちた。
そうだ、お前は近藤だ
「あと、お前はもう一つ、いや二つくらい勘違いしてる。まず一つ、お前、いや山下、山下五郎は自分が魅力的な人間ってのに気づいてない。」
「俺が?」
「ああそうだ。じゃなかったら俺とお前は9年間も続いてない。」
確かにな、俺も近藤が近藤じゃなかったら続いてなかったかもな。
「あともうひとつ、それは、俺もおまえと離れるのが怖いってことだ」
……………………
その言葉を聞くことができてよかった…」
「おいおい、そんなに泣くなよ、こっちが恥ずかしなるわ」
俺は秘密がどっと抜けて、心がパッと軽くなるのを実感した。俺は浮力をうしない、地上に戻っていく。
近藤との距離がどんどん遠くなる………
ってこれじゃまるっきりだめじゃないか!
俺はなんとか力をためて滞空を試みた。
咄嗟の策だったがなんとか上手く行った。
「おーい!近藤ー!お前も秘密を抜け!」
「あっそうだった!やばい怖い!助けて!」
やっぱあいつは少し抜けてるとこがあるな
「だ、か、ら。早く言うんだ!お前の秘密!」
「えっそりゃちょっと……」
迷ってる暇ないだろ!
「俺も言ったんだよ!だからお前もいえ!
これしか方法ないんだよ!お前は近藤太郎なんだろ!」
近藤は変面のように変わっていった表情を落ち着かせ、目を閉じる。深呼吸を一つおいて、目の色が変わった…
「おれさ、森見とさ、付き合ってたって言ったじゃん」
「うん」
「最初は上手く行ってたんだよ。みんなに隠し通したりしながらも俺は薔薇色の日常を送っていたんだ。
森見を本気で愛していた、溺れるほどにね。」
「惚気話はいらねえよ」
「おれさ、俺…」
近藤の表情がまた曇った。しかし、すぐに張り詰めた表情に変わった。
「森見に対してさ、重くなっちゃったんだよ。ずっと一緒にいたいと思っちゃった。でっ…」
「で?」
近藤は破裂寸前だ!
「俺ロープで森見とずっと腕をさ、離れないようにしたいって思っちゃったんだ。」
「……………………………」
こりゃ教室カエル大放出祭を優にこえたな。
しばらくの沈黙のあと、近藤はまた話し始めた。
「俺さ、そのこと一緒に一緒に家いる時に森見に言ったらさ、当たり前だけど」
「いや、もういい、よく頑張った。それ以上はあんまりだ。」
近藤が目を瞑り、拳を握りしめる。
強く、目を見開く
「いやいいよ、言わなきゃ浮かんだままなんだろ!
ならいい、いってやる!」
近藤は肺を震わせ、目一杯の空気を取り込んだ。
「追い出された!」
近藤は赤面し、気を失った。そして風船が破裂するかのように、近藤は一気に浮力を失い、真っ逆さまに落ちた
まずい!と俺もためていた力を一気に放出し、近藤の後を追う。このまんまじゃ地面と全身でキスする羽目になっちまう!
俺は近藤に追いつき、ホールドする。
そんなことでこの緊急事態が解決するなんてゆめゆめ思ってない。ただ、1人で激突するよりかはましだ!
「山下!」
近藤が意識を取り戻した、いや、この状況なら取り戻さない方がマシだろう。
覚悟をきめ、目を閉じた。そんな時にまたあの声が聞こえた!
「おーい!」
「森見!」
急に俺たちは浮力を取り戻した。
地面まであとちょっとってとこだった。
命拾いした。本当に
てか、まだ浮いてるってことはあいつまだなにか秘密を?
「おい!近藤!どういうことだ!」
「いやだって、まだ正式にフラれたわけではないじゃん」
「はあ…まったく、家追い出された🟰フラれた、気持ち悪がられたってのは成立する。そんなことくらいお前もわかってるだろ…」
「まだ可能性はあるかなって…だからお前を放課後呼び出した。森見さんと2人きりよりショックを紛らわすことができると思ってな。」
森見さんは呆れ顔だ、ため息をつき、頭を抱える。
「無理」
やはりキョーレツだ
俺たちは今度こそ浮力を失い、地面に激突した。
そこまでの高さではなかったから痛いだけで済んだけど。
しばらく悶えたあと、なんとか俺は立ち上がった。近藤は座ったまま黄昏れてたが。
「バカだよね、本当に。まあ、おかえり」
「ほんと疲れましたよ。て言うかなぜ森見さんは…」
「じゃっ私帰るわ、また来週ね」
森見さんはそそくさと行ってしまった。
また遮られてしまった。謎は深まるばかりだ。
とまあ、近藤とのわだかまりもこれで消えた。
俺は近藤をおこし、一緒にコンビニに行くことにした。
「迷惑かけたな、どうやって詫びればいいのやら」
「ジュース1本な」
今日の匂いをいつまでも覚えていたい、そう強く願った。
近藤浮かぶ やきとり @yakitori5422
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます