近藤三会戦

俺たちはなんとかして学校から出ることができた。

しかし今日はどっと疲れたな

当たり前か、予想もしてなかった。超次元的な現象が起きたんだし、しかもそれはまだ続いているし。

近藤史上最大の現象だ。

ふう

すこし頭がクラクラしてきた…

「おい」

あぶない

ボーッとしてた、危うく手放すとこだった。

「ごめんごめん」

「お前に俺が生きるか死ぬかの選択肢があるってなんか不思議だな。ちょっと面白いかも」

とか言いながら近藤は俺の腕に必死にしがみつく格好のままだ。顔もいくばくか震えているし、森見さんに会った時の俺みたいに滑稽だ。

まあこっちは確かにこいつの言う通り命がかかってるからそうなるか

「大丈夫だって、ちゃんとロープ握ってるからさ」

「ちゃんと握ってくれよ。本当に、フリじゃないからな」

「わかってるって。てかそんなに腕に巻きつくのはやめてくれ、暑苦しい」

「しょうがないだろ、体がすんごいポワンポワンって跳ねるんだよ」

「ちょっとだけでいいから緩めてくれ。離しちゃうかも知れないぞ」


おれはニヤリとしながら言った。

森見さんもこんな気持ちだったのかもな。



2人の人影を月光が照らす。カツカツと歩きながら、前には気をつけつつもチラチラと相手の様子を伺っている。

そんな光景がおもむろにおれの脳内に浮かんだ。 

やっぱそうなんだろうな…

森見さんがあんなとこにいたってのが裏付けてる。


そう考えるとなんだかわかんないけど無性に腹がたった。頭では割り切ってるのに心は整理がつかない。


わけわかんないわ


「なあ」

「どした?……」

俺のただならぬ雰囲気を感じ取った、と言うより普通に読み取れるくらいに醸し出しちゃったのか、近藤の顔は引き攣っていた。

「お前俺に隠していることあるよな」

「当たり前だろ」

「言ってくれ」

「……それはちょっとな……」

気のせいなのかちょっとだけ浮力が強くなった気がした。

「なあ、吐いちゃおうぜ、というか抜いちゃおう」

「抜いちゃうって…なにを?」

「決まってるだろ。俺も大体見当ついてるんだよ」

「………………」

「俺はお前の口から聞きたい。てかそれじゃなきゃダメだと思う」

「……………………」

やっぱ気のせいじゃないな、どんどん強くなってる。

「なあ」

「いやまて」

「お前やっぱ森見さんと、その、あれだろ」

「……………………」

ちくしょう 


お前が放課後俺を呼び出してまで言いたかったであろう言葉がなんで出ないんだよ。


言えないってことはやっぱそうなのか? 


おまえは俺を必要としてないってことか?


信用してないってことか?


お前なんかいなくてもおれはどうにかなるってことか?


高校になったらどうせもう関わらないからいらないってことか?


今までの9年間はなんだったんだよ…


秘密だってずっと一緒に共有してきたはずなのに、

いいよ…俺だってお前なんかと…


そんな自分の勝手で、近藤は多分そんなこと一ミリも思ってないであろう妄想におれは知らぬ間に心を支配

された。

「お前どうしちゃったんだよ…そんな涙目になってさ…」

近藤が心配そうな表情で俺を見つめる。

俺は何も答えられず、立ち尽くした。今は一旦何も考えないでいよう。

風はどんどん強くなってくる


そんなとき、よりによって"あの人"が姿を現した。

「わ!」

俺の前に急に現れた森見さんは脅かすようにして俺の腕を掴んできた。

さっきまで無気力であることを心がけていた俺はこの急な出来事によって、身体中全ての反応が喉から出るようにして聞いたこともない悲鳴をあげてしまった。


「あれ?マジでくくりつけたんだ!半分冗談のつもりだったのに、おもしろ」

だめだ声がだせない…

「まあ離れて行っちゃったけどね」

え?

俺は近藤の方を振り返った。

いない

やってしまった。

空の方を見てみる。

「やばーーーーい」

近藤のかろうじて言葉の形をとっている悲鳴が聞こえた。

あいつはとっくに学校の屋上くらいの位置まで飛んでいってしまった…

「ありゃ、意外ととぶんだね」

森見さんのそんな声が聞こえた。

「あんたわざとやっただろ!」

考えるより先にそんな言葉が俺の口から出てきた。

近藤への怒りはすっかり置き換わったようだ。

俺は森見さんの手を振り払い、思わず突き飛ばしてしまった。

その瞬間、俺は我に帰った。


やってしまった…なんてことしちゃったんだ

途端に自責の念が土砂のように押し寄せてくる。

俺は頭を抱え、膝を地面とキスさせた。

「ねえ、あんた近藤に問い詰めてばっかいるけどさ」

森見さんは尻をさすりながら立ち上がり、そう言った。

「あんたも近藤に言ってないことあるでしょ。

それを言わずに一方的に聞くのって、結構ナンセンスでしょ。」


そうだ…森見さんの言う通りだ


「で、どうなの?あなたが隠してる""秘密"" いや

""風船""ってやつは?」


「………………………」


近藤の気持ちがわかった。

自分の中ではとっくに答えなんて出来上がってるのに、口に出そうとすると思うように言うことができない。

そうなんだ、おれってやつは…


俺は近藤を見上げる。

あいつはどんどん離れていく。

俺からどんどん…

子供の頃風船を離してしまった時のように…

もう元通りなんてむりなのかな…


目の中に溜まっていた涙が思わず滴り落ちた。

俺は目を瞑る


その直後、おれは慣れない感覚に襲われた。

膝が、離れていく?

俺は咄嗟に目を開けると、森見さんの姿が下の方に見える。道路や、電柱だって‥

「お、やっぱ浮いたね」

森見さんが俺を見上げた。

一瞬気が狂いそうになった。

でもすぐに全部理解した。なぜ浮くのかも含めてね。

でもやっぱ

こわいや

「助けてーー」


俺はそんな喜怒哀楽含んだ叫びをあげ、森見さんが小さくなっていくのを見続けた。


「ちゃんと迎えに行ってなー」







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