近藤Fryday

しばらくしてなんとかこの状況を飲み込むことができた、いやできてないな、少しは落ち着いたに変えよう

近藤は浮いている

あいつは""風船""のように浮かんでいった

そして今は教室の天井に押し付けられている

床に対して仰向けだ

うん

整理はしてみたものの

やっぱわけわかんない

ひとが浮くってのはジェットパックとかの動力源?ができるかもしれない

でもあいつは俺がみる限りそんなのつけてなさそうだ

いやあいつ自身が動力源なのかもしれない

動力源 近藤

まあそんなわけないか と自分でも思った

「とりあえず唖然としているだけじゃこの問題は解決しないってことは確かだよ、なにか解決策考えないと」

「うーん」

「そうだ!マジちゃん呼んでこようか それが一番いい」 

「えーマジちゃん?あいつ呼ぶと絶対めんどくなるよ」

「めんどくさいって…その状態でよくそんな悠長なことが言えるな」

「いやなんか心地良くなっちゃって」

「は?」

「空に浮かぶってより水に浮かんでるって感じなんだよ、それが妙に心地良い」

「漏らしただけじゃない?」

「なわけないだろ」

「まあまあ落ち着け、俺も子供の頃は漏らす直前まであわあわとしてたけど一度漏らしちゃったらあたまも膀胱もスッキリしたからさ、今のお前もそんな感じなんだよ」

「もらしてねえよ」

「冗談だよ まあ職員室行ってくるわ」

「まてって」

俺が戸口に手をかけた時、扉の向こうから、寿司で例えるとイワシやアジみたいな、なんだろう渋みっていうとちょっと違うがそれに近い含みを持ったうどんのようにつるりとしたコシのある声が聞こえた。

「ロープでもくくりつけちゃえば?""風船""みたいにして」

ギョッとした 

恐る恐る、そしてゆっくりと

扉を開くと、そこには森見さんがいた。

森見さんは近藤と同じ部活なのであいつとは結構面識があるはず、俺も一回クラスが一緒だったのでグループワークとかで何度か話した。それだけだった。俺の記憶ではそう

「っ」

俺は森見のように積極的にクラスの女子と話し合う性格でもないし、何よりもあまりにも突然の出来事で一瞬脳が凍結してしまい、声を出せなかった。一体いつから聞いていたんだ?

てかなんでこんなとこに?

次に出す言葉を推敲していると森見さんはすかさず

「はいこれ」

と純白のロープを差し出してきた。



と思わずそんな声があんぐりしている俺の口から漏れた。今の俺の姿を他の人に見られたらものすごく滑稽に見られてしまうだろう。

しかしなぜロープをこんなとこに?もしかしてよからぬことでも考えてたんじゃ!


「あの!なんで…」

「さっさとしてよ」

俺が精一杯の勇気を振り絞って吐いたそんな言葉も森見さんのキョーレツな一言によって塵と化した。

もともと塵みたいなものか

俺は押し付けられるようにしてロープをもらうと、森見さんはすぐさま俺に背をむけ、数歩あるくとまた戻ってきて、近藤の方を向き不敵な笑みを浮かべた。 

そして森見さんは靴をカッカっと鳴らして、階段を降りて行った。


そう言えばあいつさっきからずっと静かだなと今更気づき、振り向くとあいつは手で顔を覆い、微動だにしなかった。

こりゃ何かありそうだな。絶対、いや多分

「もう行った?」

近藤は聞いたこともないか細い声でそう言った。

まだ顔を覆ったままだ。

「とっくのとうに行ってるよ」

俺はロープに目を落とす。

けっこう細めのロープでとてもあんなことはできそうにないな。森見さんにそんなつもりはなさそうでよかった。じゃあなんでこんなものを?

俺の疑問はさらに深まるばかりだ。

わけがわかんないなあ本当に


ともかく、あいつにくくりつけるとするか。

目線を変えるとあいつはまだ顔を覆ってる。

「おい!もういないってば」

半ば呆れ声でそう言ったはず

「本当に?」

「本当だよ」

近藤はやっと目線をこっちに向けた

「このロープ今からお前にくくりつけるからな」

「はあ?」

「はあって、これぐらいしか今思いつかないんだよ。しょうがないだろ」

「いやだって…」

そこで近藤は急に口をつぐんだ

「なんだよ」

「なんでもないや」

はあ、まあ聞いてやらないことにしてやろう。

どうやらこのロープにはすんごい思い入れがありそうだ………やっぱそうなのかな

まあいいや

「他にないの?」

「これしかないし多分これが一番だよ」 


俺はすぐ近くにあった椅子を拝借した。ちゃんと靴も脱いでと

うーん

「くそっ手が届かない」

「だめだ高さが足りないわ」

こんな時にもいちいち低身長を実感しなければならないのか

しょうがないので俺は机に足をかける、土足でね。この席の人にはすまないけどまあ、知らぬが仏ってやつだ。

「よし、やっと届いた」

「ちゃんと掴んでろよ」

俺は近藤を手繰り寄せる。

本当に風船みたいな手ごたえだ。

「絶対にこのロープ離すんじゃないぞ!冗談でもやめろよ!」

「はいはい」

近藤は手汗まみれの手でもたつきながらもなんとかロープを胴にくくりつけた。

俺もロープを短く持ってと


ケッコー時間はかかったけど、俺と近藤はなんとかいつもと同じ、いや、正確には全然違うけど、まあいつも見てる目線を共有することができた。


こいつ途中から慣れてきたとか言ってたけどすんごい汗だくだな、とか、長い時間上を見続けてたせいで自分の首が悲鳴をあげてることにも気づくくらいの余裕ができた頃、完全下校を促す曲が流れた。

あたりはもう真っ暗だ。

「これからどうすんだよ」

「どうすんだよって、このまま帰るしかないだろ」

「この状態で?」

「送り届けてやるからさ、明日休みだし、ちょっとくらいなら親も文句言わないだろ」

「いやそれはありがたいんだよ、こんなに助けてもらってこんな文句みたいなこというのもあれなんだれどさ、こんなロープに括り付けられて歩かされてるのと歩かせてる姿見られたらさ、やばいっしょ。いろいろと」

「しょうがないさ、空で鳥と戯れるよりかはマシだろ」

「ど正論だな」

「さっさと出ちゃおうか」









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