第13話 【最後の綿毛の旅立ち】


 こんな想いは、ポポさんにとって、初めての経験だった。


 空の上を、おもちゃのように飛んでゆく飛行機が、やがて小さくなって見えなくなってしまう頃、わたろうさんの頭に残された二本目の綿毛が、風の中に舞い上がった。



 わたろうさんは、もう、何にも驚きはしなかった。


 そして、ひどく落ち着いて、空を旅する一本の綿毛を目で追っていた。


 不意に、ポポさんは、あのねこやなぎの枝先のクモの巣から、梅の花びらに包まれた一滴(ひとしずく)が、地面に落下していく光景を思い出していた。



 そしてポポさんは、思わず、ハッとなった。


 梅の花びらに包まれた一滴(ひとしずく)とわたろうさんは、何かが似ている気がしたのだ。


 それは、ポポさんのまだ知らない世界のことみたいだった。


 ふと、わたろうさんを見てみると、まるで雲の上を透かして見ているような目をしていた。



「ポポさん、さよなら……」


 不意に、わたろうさんのささやくような声が聞こえたと思った時、振り向くポポさんの目に飛び込んできたのは、わたろうさんの頭に残された最後の綿毛が、静かに宙に浮かび上がった光景だった。

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