第12話 【花開くような喜び】


 すると突然、わたろうさんの頭に残された三つの綿毛のうちの一本が、ふわりと、宙に浮かび上がった。


 それは、わたろうさんのオデコの前で、少し浮いていたかと思うと、ぷいと風に乗って、斜めに降り注ぐ太陽の光の中を昇って行った。



 ポポさんは、それを不思議そうに眺めていた。


 陽射しが、眩しいほどポポさんに降り注ぐ。


 ポポさんの胸の中に、にわかに花開くような喜びが湧いてきた。



 こんな気持ちは、ポポさんにとって、初めてのことだった。


「僕は、強い風のせいで、こうなってしまったんではないよ。

……昔から、こうなるために、生きてきたような気がするんだ」


 わたろうさんは、ひとり言のように、そう呟いた。



 ポポさんは、わたろうさんの隣に一緒に座って、広い空を見上げた。


 春風にぐんぐん押されて、はぐれはぐれになった綿雲や千切れ雲が、北の山の上の杉林を掠めるようにして流れてゆく。


「この風に乗って、どこまでも行けたらね」



 ポポさんは、雲をどこまでも運んでゆくこの春風の勢いに、自由に身をまかせてみたい気分になった。

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