第10話 【わたろうさんの家】


 雨上がりの朝は、まぶしいほどだった。


 春の光と匂いが、野に満ちて、暖かな強い風が、梅の下を吹き抜けてゆく。

 風に当たると、その茎に、かゆいほどの日の温もりを感じる。

 きらきらした水たまりの中を、白いかたつむりがプイと横を向いて、這ってゆく。


 ポポさんが空を見上げると、こちらでもかたつむりの格好をした大きな雲が、のそのそと西から東へ流れていた。


 

 風が気持ちいい。

 暖かい風が踊るようだ。


 ポポさんは、ぐるりと水たまりの岸をまわって、梅の下から這い出して、わたろうさんの家の方へ歩いて行った。途中、むくどりの大群が畑のほうから空を渡り、ポポさんの頭の上を通り過ぎて行った。


 あっと思ったら、ぼとぼとと凄まじい糞が落ちてきた。


 ポポさんは頭をおさえながら悲鳴をあげて、一気にわたろうさんの家の前まで駈けてきた。呼吸を整えて、茎を伸ばすと、垂れ下がった無数の房に、白い花をつけているゆきやなぎの群落が目の前にあった。

 


 まるで白い花房が雪のようだった。


 ポポさんは、思わず、見とれてしまった。

 わたろうさんのことを、忘れかけたほどだった。



 わたろうさんの家は、そのゆきやなぎの下にあったことを、ポポさんは、ようやく気がついた。

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