第9話 【ポポさんの歌】


 春の初めの嵐。


 そう、春一番が今年も吹いた。


 昨夜からの大降りの雨は、道路や原っぱ、畑や広場など、あちこちに大きな水たまりを残して、朝方にはじんわりとあがった。そうして、お日さまの横顔が、灰色の平べったいナマコのような雲の端から、現れた。


 梅の木は、華やかなお召し物を、この強い春風で、すべて飛ばされていた。

 夜の間に、花びらたちは、岩間から湧き出る清水のように、枝先から連なって、宙で何度も蛇行したり、つむじを巻いて、高く高く、夜空へ消えて行った。



 昨夜、その光景を目にしたポポさんの胸は、何かにキュッとしめつけらたように痛んだ。


「はかないって、何なのかしら? 」


 朝になった今も、ポポさんは、そのことを考えていた。


 一本のオオバコの葉にしがみついているポポさんの体が、思わず、宙に舞う。

 山の神の大いびきのように、風の音が聞こえる。

 ポポさんは、必死に、しがみついている両手に力をこめた。


 このオオバコの葉っぱが切れたら、わたしは、遠い所へ飛ばされてしまう。

 きっと、梅の花びらたちが消えて行った世界に、行くんだわ。


 そこは、どんな世界なんだろう?


 ポポさんは、何だか急に胸が苦しくなり、身震いした。



 すると、にわかにポポさんの周りがポウッと明るくなり、温かくなってきた。

 

 それは、気のせいかもしれない。


 それは、勘違いかもしれなかった。


 それでもいい。


 それでも、ポポさんにとって、その温もりは、励まし、力を与えてくれた。



 ポポさんは、高らかに、歌を歌いだした。


 あいかわらず吹きつける風の中、オオバコの葉っぱに、ギュッとしがみつきながら。



吹きすさぶ

風よこい♪

春一番よ

吹いてこい♪



春の嵐は

きっと~

あたしを

ふたまわりも

強くする~~



ときめいて

風よこい♪

みんなの冬眠

起こしてこい♪



光の春は

あたしを~

ふたまわりも

見違えさせる~~



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