第8話 【お祝いの歌】
ポポさんが見たものは、こうだった。
クモの巣には、無数の花びらがひっかかっていて、その周りには、糸づたいに、たくさんの水の雫(しずく)が連なっている。
風が吹くと、クモの巣が変にゆがみ、拍子に多くの雫(しずく)が糸から落ちる。
雫(しずく)は、頑健に巣にこびりついている梅の花びらまでも一緒に落としてゆくのだった。
その結果、ガラス玉のような雫(しずく)に、衣(ころも)をまとうように梅の花びらを召したものが、ほんの一瞬だけ空中で誕生するのだった。
が、それは、あっと言う間に、地面でくだけ散った。
そしてその余韻のように、梅の花びらだけが、ひらひらと、つかの間、宙を浮遊(ふゆう)した。
ふと、恥ずかしさが、ポポさんの胸を赤く染めた。
ポポさんは、何だか梅の花びらと、雨の雫(しずく)の見てはいけない秘密を見てしまったような気がしたのだ。
「しとしとと降る春雨(はるさめ)でござった」
「冬眠を明けるみんなのお祭りだ」
次の落下の時に、ポポさんは、はじめて気がついた。
この歌声は、ひとひらの花びらをまとった雨の雫(しずく)が落下した時、同じようにクモの巣から落下した無数の雫(しずく)たちがまわりを取り囲んで、歌う、お祝いの歌だったと。
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