第6話 【ひとひらの花びら】


 すると、そうしているうちに、どこからか、ささやくような歌声が聞こえてきた。


「雨ぁ降ってござった」


「天じくのお祭りだ」


 歌声は、ポポさんの頭の上から、響いて来る。



「しとしとと降る春雨でござった」


「冬眠をあけるみんなのお祭りだ」


 ポポさんは、さも面白いものを見つけたかのように、頭の上を見上げた。



 二メートルほどの背丈があるねこやなぎの一番上で、何かが揺れている。

 それは、枝と枝のすき間で、風が吹くと一緒に揺れ動いた。


 ポポさんは、アゴが空に向くくらいに、上を見上げているうちに、ようやく、それが何なのか、確かめることができた。


「あらぁ、クモの巣だわ」


 ねこやなぎの木の頂上で、枝先にぶら下がったクモの巣が、雨に濡れていた。

 風は、冷たく、荒く、海風のように勢いを増してきた。


 その瞬間(とき)、クモの巣から何かが地面に落下するのを、ポポさんは目にした。


 と、同時に、またあの歌声が、響いた。


「雨ぁ降ってござった」


「天じくのお祭りだ」


 何かが、クモの巣から落ちて、地面の上で、はじけ散った。

 その瞬間に、歌声が聞こえてきたのだ。


 ポポさんは、何かが落下した地面の上を、じっと見入った。

 そこには、ひとひらの花びらが、落ちていた。


 梅の花びらだ。



 淡い蓮の色をした花びらだった。

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