第4話 【これが、いっぷくというもの】
「今年も、咲いてくれたな。見事なもんだ」
おじいさんは、手に持っているステッキで梅を指して、
「まずはあんまり、春一番があばれてくれぬとよいが。はや散りしては、かわいそうだからな」
と、しばらく眺めているうちに、ヨッコイショと、梅の下にもぐり込んで、地面に腰を下ろした。
ちょうど、ポポさんのいる場所の、十センチ横あたりあたりである。
そしておじいさんは、煙草をくわえて、それに火をつけた。
「ああ、このいっぷくが、うまい! 」
おじいさんは両手を後ろについて、空を見上げた。
おじいさんの口から、ぽわんぽわん、とドーナツ型の煙がはきだされた。
おじいさんは、口を器用に使って、何度もドーナツを作っては、それを口からはいた。煙はゆっくりと、梅の枝間を抜けて、空へ溶けるように、消えてゆく。
ポポさんは、生まれて初めて、その光景を目にして、喜んだ。
人間のすることには、いっぷくというものがあるみたい。
そしてそれは、口からドーナツ型の煙を出して、ほのぼのと空を見上げていることみたいだ。
ポポさんは、それからというもの、よくわたろうさんの家を訪ねて、
「わたろうさん、いっぷくでも、いかがですか! 」
と言って、わたろうさんの横に座り、空に向けてポカンと口を開けながら、ドーナツ型の煙を吐き出した。
「ポポさん、それはいったい何です?」
わたろうさんが不思議がって聞いてみると、
「これが、いっぷくというものだわ。人間の見よう見まねでやってみたの。
この煙、不思議でしょ、これは、実はクモの巣なのよ。
さっきあそこらへんに張られたばかりの、編みたてのほやほやだわ」
そう言って、ポポさんは向こうに見えるネコヤナギ指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます