第4話 【これが、いっぷくというもの】


「今年も、咲いてくれたな。見事なもんだ」


 おじいさんは、手に持っているステッキで梅を指して、


「まずはあんまり、春一番があばれてくれぬとよいが。はや散りしては、かわいそうだからな」


 と、しばらく眺めているうちに、ヨッコイショと、梅の下にもぐり込んで、地面に腰を下ろした。


 ちょうど、ポポさんのいる場所の、十センチ横あたりあたりである。

 そしておじいさんは、煙草をくわえて、それに火をつけた。


「ああ、このいっぷくが、うまい! 」


 おじいさんは両手を後ろについて、空を見上げた。

 おじいさんの口から、ぽわんぽわん、とドーナツ型の煙がはきだされた。


 おじいさんは、口を器用に使って、何度もドーナツを作っては、それを口からはいた。煙はゆっくりと、梅の枝間を抜けて、空へ溶けるように、消えてゆく。



 ポポさんは、生まれて初めて、その光景を目にして、喜んだ。


 人間のすることには、いっぷくというものがあるみたい。

 そしてそれは、口からドーナツ型の煙を出して、ほのぼのと空を見上げていることみたいだ。



 ポポさんは、それからというもの、よくわたろうさんの家を訪ねて、


「わたろうさん、いっぷくでも、いかがですか! 」


 と言って、わたろうさんの横に座り、空に向けてポカンと口を開けながら、ドーナツ型の煙を吐き出した。



「ポポさん、それはいったい何です?」


 わたろうさんが不思議がって聞いてみると、


「これが、いっぷくというものだわ。人間の見よう見まねでやってみたの。

この煙、不思議でしょ、これは、実はクモの巣なのよ。

さっきあそこらへんに張られたばかりの、編みたてのほやほやだわ」


 そう言って、ポポさんは向こうに見えるネコヤナギ指した。

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