第3話 【白梅の香り】


 ポポさんの家の真上には、梅の小枝が、しだれて、沢山伸びている。


 この三月には、その枝の白い花が、てんてん拍子に、咲き出した。

 まだ半分は、赤ちゃんの出べそのように、蕾だけれど、梅の花は、もう十分に見頃になってきた。


 ポポさんは、毎日のように、頭の上から降ってくる、心地よい香りを楽しんだ。


「わたろうさーん。こっちへちょっと、いらっしゃいな。ここは、いつも春の天国のようだわ」


「ポポさんたら、梅の香りは、あんまり近づき過ぎて嗅いでいると、毒ですよ。僕ぐらい離れていたほうが、楽しめますよ。ほうら、いい匂い…」


 二人はお互いの家を行ったり来たりしながら、漂う梅の香りを追いかけて、遊んだ。



 時おり吹く、春の柔らかい風が、梅の花びらを舞い散らせた。


 花びらは、ポポさんの頭の上から、クルクル回って落ちてきた。

 ポポさんは大喜びで、少し離れたところに住んでいるわたろうさんを呼んで、頭をふりながら、子供のように二人で、花びらの取り合いっこした。



 それから、お日様と月が、かわりばんこに上がり、またお日さまが出たある日のこと、梅の木を見に、来客があった。


 六十は越えているだろう、一人のおじいさんが梅の前に立った。

 おじいさんは、少し前かがみで、白梅を見上げるようにして、眺めていた。



 おじいさんの髪も、梅の花のように、白かった。

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