第2話 【タンポポ世界のアダムとエバ】


「そんなところを、なぜ、なくしてしまったの? 」


 ポポさんは聞いてみた。


「それがね、今日浜辺をさんぽしていたら、上にトンビが飛んでいたんだ。

僕はしばらくそれを眺めていたんだけれど、あんまりくるくる回ってばかりいるものだから、ねえ、トンビさん、あなたは、何をなさっているのですか?

と聞いてみたんです。

そしたら急に矢のように僕めがけて飛んできて、僕の髪をむしっていったんだ」


と、わたろうさんはくやしそうに、言った。


「タンポポのぶんざいで、二度とオレ様に口を聞くな!

お前なんぞには分かるまいが、これは、オレたち一族が長年してきた儀式なんだぞ!

こうしていつも、お日さまに祈りながら、力を与え続けているのだ。

今日お日さまが照っていることだって、これはオレたちのおかげなんだ、わかったか! 」


 わたろうさんは、トンビの口まねをしてみせた。


「こんなことを、つべこべ言っているんだ。ずるいだろ。

お日さまはみんなのものでもあり、誰のものでもないのに」



 ポポさんも、わたろうさんも、一人暮らしをしている。


 二人とも、父親とか、母親という存在が、タンポポにもあるということさえ知らない。初めからタンポポというものは、自分たちから始まったというような気持も少なくはなさそうだ。


 まるでタンポポの世界のアダムとエバだ。


 もしかしたら、この世の中のありとあらゆるタンポポたちは、みんなごくごく当たり前に、アダムとエバに近い境遇にいるのではないか。



 物心がついた頃には、ふたりは、もう、ポポさんと、わたろうさんになっていた。

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