子供騙しの虚仮威し
翌日首吊り少女騒動(なお騒いでいたのは主に琴原さんとぼくだけ)は急展開を迎える。犯人が自首しにきたのだ。
「心から謝罪をするから大事にはしないでほしい」
昼休み、部室へと集められた文芸部および水科先生の前でオカルト部三名が深々と土下座を披露した。
あの日、彼らはオカルト部のリア充の悲鳴をひそかに怪談のバックで流すというアホみたいな伝統を果たすべく、男女二人で部室棟へと向かう俺たちを見て標的にしようと考えたらしい。普段なら部室の外に出てきたところを脅かすのだが、その日は幸か不幸か文芸部の窓の鍵がかかっていないことに気づいた。入ってすぐに首を吊ってる誰かがいれば、もっと驚くだろうと部屋の中に入った。軽い気持ちで、まさか調査までされるとは思ってなかった。と、彼らはそんなふうに語った。
「首吊り少女は、栞と森辺の前に現れた首吊り少女はどうやって演出したっていうんだ」
と彼方さんが尋ねると、彼らは実際に使ったという、ウィッグ、セーラー服、スカート。そこにタイツがくっついているものが縄に繋がれ、長い黒い竿からぶらさがったものを見せる。
「これを窓の外から隠れて吊るした」
と、伊藤が実演して見せる。黒い釣り竿やそれら制服一式はオカルト部で代々使われてきた小道具らしい。
「この時期になると首吊り少女が目撃されるのって、君たちの仕業だったの?」
と、水科先生が呆れたように呟いていた。
竿の先に垂れ下がり、ぷらぷらと揺れるセーラー服一式は、こうして明るい場所でみると実に滑稽だった。
彼方さんは「なんだこれは」と溢し、これに騙されたというのは琴原さんも相当恥ずかしかったらしく、
「そんな、まさかこのわたしが。このホラー作家志望のわたしがこんな子供だましに!」
と地団駄を踏むほど悔しそうだった。
「ただでさえ正面の首吊り少女に視線は釘付けになるし、暗所なら、その背後の真っ黒な竿に気づかないとしても、まあおかしくはないんじゃないか?」
と、ぼくはフォローを忘れない。
盗まれたものがなかったこと、そして監督不行き届きで嫌味な学年主任に叱られたくないという先生の私情により、この件はここだけの話に留めることとなった。オカルト部はお咎めなしである。
部誌の抜けていたナンバーは、もとから欠けていたのだろう、という結論に落ち着いた。
「ところで当日最後に戸締まりしたのって、誰かわかる?」
オカルト部が退散した後、先生がくるりとぼくらを見回す。ぼくはおずおずと手をあげる。
「じゃ、あとで職員室に来ること」
「先生、ぼくは空き巣に入られたからといって、被害者に窓を締め忘れたのが悪いと怒るのは教育者としてどうかと思うんです」
「怒らない怒らない。ちょっと雑用を手伝ってもらうだけだから。反省文よりマシでしょ?」
それは雑用の内容によるのではないだろうか。部室で弁当箱を広げる琴原さんと彼方さんに見送られ、ぼくの昼休みは潰れることとなった。
こうして事件は探偵役が解決編で犯人はおまえだと指をつきつけることもなく、彼らの自白によってあっけなく幕を閉じた。
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