第16話 スパチャの意味

おかげさまで風邪ほぼ完治しました!

ここから更新ペース上げていきます!

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 あまりの投げ銭の嵐に怖くなってスパチャ機能をオフにした僕だったけれど、



:なんでスパチャ閉じちゃったんですか?

:悲しい!お姉ちゃんは悲しいよライきゅん!

:それをとじるなんて とんでもない!

:スパチャはさァ!リスナーの正当な権利なんだよねェ!

:もっと課金させてください!

:もうだめだぁ! おしまいだぁ!

:返して返して返して返して返して返して!!




(……なんで?)


 なぜかお金を払う側のはずのリスナーたちに、スパチャ出来なくなったことをめちゃくちゃ嘆かれていた。


 ただまあ、これは「推しに貢ぎたい」という、前世のドルオタみたいな話だけではないようで、



:皆さん調子に乗りすぎですよ!

 ……でも、やっぱりお金は受け取ってほしいです

:そっちの方がこっちも安心

:真面目な話、スパチャは社会貢献だからね

:残念ながら私たちは魔物と戦えませんから

 代わりに探索者の方にスパチャを贈ることで

 日本の平和を守るお手伝いをしたいんです

:探索者全員に還元するのが一番いいんだろうけど

 どうせなら好きな探索者に送りたいし

:ふるさと納税的なね

:それ!

:というか追っかけてる配信者が死ぬと

 こっちもトラウマなるからね

:ウチらの送ったスパチャで少しでも安全になるなら

 それが嬉しい、っていうかぁ?





(……なるほどなぁ)


 単純に好きな配信者にお金を贈るみたいなことではなくて、このダンジョン世界ならでは理由と感覚がそこにはあるらしい。


(まあスパチャで贈れるの、日本円じゃなくてマナだしね)


 ゲーム時代の課金システムを利用して「スパチャ専用ポイント」を買うことで、日本円からでもスパチャを贈ることが出来るが、その逆はない。


 つまりマナは基本的にダンジョン関連のものにしか使えず、マナがたくさんあったからと言って、豪邸に住んだり贅沢な暮らしが出来る訳じゃない。


 スパチャで贈ったマナの用途はダンジョン探索に限られる訳で、そこが心理的なハードルを低くしている面もあるのかもしれない。



:あと正直、わたしのあげたお金で買った装備をつけてる

 ライきゅん想像するとめちゃ興奮する

:こらっ!

:隠せ隠せ隠せ!

:本音やめろ!

:また閉じちゃうでしょ!



 ……ま、まあ?

 一部不純(?)な動機もあるようだけれど、そのくらいは可愛いもんだろう。


 これは流石に旗色が悪い。

 前世感覚でいた僕がよくなかったみたいだ。


「すみません。スパチャ閉じたの、ちょっと早まったみたいです」


 僕は素直に頭を下げた。



:よかったー!

:ちゃんと謝れて偉い

:スパチャくん帰ってくる?

:うおおおおおおお! 逆転勝訴!!

:ありがとうございます!

:そもそもどうしてスパチャ閉じようと思ったん?




「いえ、掲示板を見たら、『新武器買うのに貯蓄してたお金、全額スパチャに注ぎ込んじゃった』とか、『パーティ資金を使い込んで推しに貢いだ』とか、『一般人なのにボーナス全部はたいてスパチャしたった』とか、そういうやばい話が載ってましたから、てっきりそういう人がスパチャしてるのかと……」




:そ、そそそそそんな奴がいるわけ……

:ソンナコトナイヨ!

:ま、まあ? 武器代くらいはちゃんと

 残してたり残してなかったりするし?

:あ、あた、当たり前だよなぁ!

:安心してくれ! 私は5000Mくらい余裕だぞ!

:そらセシル様はそうよ……

:生活費は! 生活費は削ってないですから!!

:私が昼食を我慢することで推しの装備が豪華になる

 そういうことに私は幸せを感じるんだ

:こ、こらこら! そんなの正直に話したら……




「……急に不安になってきたので、もう少し考えることにしますね」


 世界が変わっても、人はやはり過ちを繰り返す生き物……。


 僕は悲しき知見を胸に、スパチャ機能の切り替えボタンにかけた指をそっと外した。



 ※ ※ ※



「――とりあえずスパチャのことは一旦置いといて、探索の続きをしましょう」


 ちょっと不安はあるけれど、みんながくれるスパチャが僕の生命線なのは確か。

 いずれ開けなくてはならないにしても、今は少しだけ気持ちを整理する時間が欲しかった。


 それに、この配信が、本当にリスナーのお金を懸ける価値があるのか。

 それを見極めてもらうためにも、ここで一度、しっかりとした探索を見せておきたかった。


 あらためて、ダンジョンに向き直る。


「このエントランスからは、九つの部屋に行けるみたい、ですが……」


 左、正面、右の壁にそれぞれ扉が一つずつ。

 そのうち、左の一番手前の部屋が以前に開けたモンスターハウスの扉だ。


「特にヒントもなさそうですし、前回の隣の扉から攻めてみましょうか」


 僕がそう言って扉の方に近付いていくと、ふたたび視界の端にコメントが舞う。



:罠に気を付けて!

:またモンスターハウスかもしれないよ!

:罠警戒大事!

:まさか二連続で罠とかそんなことあるわけ……

:ダンジョン局がまとめたデータによると

 建物型ダンジョンで罠が仕掛けられているのは

 部屋の内部、もしくは長い廊下などが多く

 特に階の最初がエントランスになっている場合

 そこに罠が仕掛けられていた例は今のところない

:長文来た

:知らんかった

:情報たすかるー



 どうやら、リスナーの中に有識者が紛れ込んでいるようだ。

 こういうコメントからの情報は、素直にありがたい。


「ありがとう! そういう情報には疎いから、助かるよ」


 僕が笑顔でそうお礼を言うと、コメント欄がまた一気に動く。



:ライ様の笑顔、尊い!

:ふぁっちゃあぅあぶぇ!?

 あっやっあっべっべっべっべっべつに!!

 たっただ売名したいから教えてあげただけですから!

 ライ様のためなんかじゃないんですから勘違いしないでくださいね!

:なんて?

:長文さん照れてるじゃんかわいー!

:動揺がそのままチャットに出る

 これが音声入力の恐ろしさよ・・・

:なにこれツンデレ……なのか?

:ツンデレって絶滅したって聞いたけどまだ生き残りいたんだ

:ツンってる割には「ライ様」って言っちゃってるやないかい!

:隠しきれない信者で草




「あ、あははは。理由はどうあれ実際に助かったから、これからもよろしく」


 この「長文さん(?)」には悪いことをしちゃったかもしれないけれど、追撃のように言葉を投げかけておく。


 ……これは、配信を始めるための参考に見ていた別のダンジョン配信者さんが言っていたことだけれど、コメントの雰囲気や方向性を決めるのも、配信者の役割の一つ。


 もちろん、完全な統制なんて出来ないだろうけど、リスナーだって人間。

 見ている配信者が感謝の言葉を言えば、また同じようなコメントをしたいと思ってくれる可能性は高いし、それを見たほかのリスナーも真似してくれる率は高い。


(そういう意味でも、ありがたかったコメントには積極的にお礼を言っておかないとね)


 僕は自分の配信の方向性を確認すると共に、今度は自信を持ってドアノブに手をかける。



:さて中には何が?

:わっくわく

:あくまで罠がないのはエントランスだけですから!

 扉を開けた途端、中から毒の矢が飛んできた例はあります!

 油断しないで!

:悲報 長文さん、デレる

:堕ちたな(確信)

:それはそうとライ様は本当に気を付けてね

:注意一瞬、怪我一生!

:ご安全に!



「……気を付けるよ」


 ちらりとコメント欄を流し見して、集中。

 何が起きてもいいように注意しながら、そっとドアを開ける。


(まあとは言っても、流石に二連続で罠部屋を引くなんてことはそうそうないと思うけど……)


 なんて考え、扉の先を覗き込んだ僕の眼前に現れたのは、



「……なんでぇ?」



 またしても視界一面、部屋いっぱいにすし詰めにされた、ゴブリンの群れだった。

―――――――――――――――――――――

ふたたび!



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