第15話 圧倒的な力
ようやく体調回復してきました!
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緊張の中で始まった第二回配信。
コメントの力もあって、始まってからは肩の力を抜いて自然体にやれていたが、口調だけには気を付ける。
(ええと、一人称は「俺」にして、話し方も少し前世の方に寄せる感じで……)
姿も声も全部が前世のアバターになっているし、配信者ではない僕自身は特に目立つところもない一般市民。
万が一もないとは思うけど、それでも身バレは怖い。
こっちも「自分」だし、「キャラ作り」というほどではないけれど、念のため姿だけでなく行動も前世に寄せ、今の「僕」との共通点をなくした方がいいだろう、という判断だ。
:ライ様やっぱりイケボ
:あっあっ脳が震える
:ライ様しか勝たん!
:ライきゅんがこんなに立派になってくれて
お姉ちゃんは嬉しいよ♡
:まあガチでライ様が弟だったら性癖歪む自信ある
:それね
:性癖は性的な癖じゃない定期
:うるせえ!言葉なんて伝わればいいんだよ!
:ああああああ!ライ様ライ様ライ様!
:一生聞いていたい……結婚して♡
:だが断る!
(うん。この感じでもウケてるみたいだし、大丈夫そうかな?)
まあ〈サムライ〉のイメージには前世の感じの方が合っているだろうし、ちょっとずつ崩す感じでやっていこう。
今後の方針を固めながらも、コメントの流れを見る。
:本当に男の人なんですか?
:ほんとは女なんでしょ! 嘘つかないで!
:男に決まってるだろ!
:ライ様は何歳ですか?
:男にしか見えない
:あのステータスは本物ですか?
:どうして配信を始めようと思ったんですか?
:結婚に興味ありますか?
:今付き合っている人とかいますか?
:お姉ちゃんだよっ☆
:コラボしてください!!
:女でいい むしろ女がいい
:あんなに可愛い子が女の子なわけがない!
:男に決まってんでしょ!
コメントのみんなが一番気になっているのは。やはり僕の性別らしい。
ただ、これは拾えない。
いやだって、認めちゃったらリスナー含めてお縄一直線だし、否定したらそれはそれで嘘になるしね。
:ジョブがサムライってほんと?
:サムライってどんなジョブなんですか?
:ジョブ名鑑を見ても〈サムライ〉なんてないけど
ほんとにあるんですか?
:前の技ってサムライのスキル?
拾えそうな話題は、むしろこっちか。
〈サムライ〉についての質問は、むしろ大歓迎だ。
「なら、今日は最初に〈サムライ〉について説明しましょうか。……それに関連して、みんなに『お願い』もありますし、ね」
僕が言うと、想像以上にコメントが一気に沸く。
:ずっと気になってたから助かる!
:ついに詳細明かされるんだ、楽しみー!
:お願い? なんだろ
:お姉ちゃん、ライきゅんのためならなんでもするよ!
:今なんでもって……
:この人の場合、本当に何でもしそうで怖いんだよね
:私も非力ながら力を貸そう
:おっ前回の配信好評だったみたいだしまさか……?
それに目を細めながら、僕は解説を始めた。
「〈サムライ〉はゴリゴリの近接アタッカーで、武器は知っての通りの〈刀〉」
言いながら、すらりと鞘から〈無銘刀〉を抜く。
まあ、ここまではリスナーのみんなにとっても既知の情報。
ここから先が大事だ。
「ただ、アタッカーにしてはめずらしく、〈サムライ〉には攻撃スキルが二種類しかありません。それが、鞘から素早く刀を抜いて斬る〈居合抜き〉と、前に見せた〈刀気解放〉です」
:二種類!?
:少なっ!
:居合は分かるけど刀気解放?
:刀気解放っていうのが前に見せたあの連続攻撃か!
:二つは確かに少ないけど、アレめちゃくちゃ強かったからね
:特化型ってことかぁ
:正直ちょっとだけ使いにくそうな……あっごめんなさい!
:外れ職?
:ゴブリンの群れ蹴散らしてたんだから弱くはないでしょ
:でも、ソロだとちょっと怖いね
想定した通りのコメント欄の反応に、内心ほくそ笑む。
「百聞は一見に如かず。まずは、これを見てください」
そう言って僕は手にした刀、〈無銘刀〉を無造作に振り上げ、
「刀気解放〈無銘刀〉――〈血風陣〉!」
宣言と共に、そのまま勢いよく振り下ろす。
すると、それを追いかけるように刀身から真っ赤な刃状のエフェクトが生まれ、正面に向かってすごい速さで飛んでいく。
それが城の壁にぶつかり、バンと音を立てて消滅すると同時に、コメント欄も爆発した。
:えっ何今の!
:ふぁああああああああ!
:斬撃が飛んだ!?
:きゃあああああああ!!ライきゅん!!
ライきゅんすごい!さすが自慢の弟!!
:近接職とは?
:いや攻撃スキル二つしかないんじゃ?
三つ使えてるじゃん!
:私たち、騙された……ってコト!?
たっぷりとコメント欄の混乱を味わってから、ネタばらし。
「これが〈刀気解放〉。使う刀によって内容が変わる、攻撃スキルです。ただ、欠点もあって……」
斬撃を飛ばしたあとの、右手を突き出す。
役目を終えた〈無銘刀〉は、ボロボロと崩れ落ちようとしていた。
「一度〈刀気解放〉をすると、こんな風に武器が壊れちゃうんですよ」
:何そのとんでもスキル!?
:コストやっば!
:確かにコスト高いけどあの威力だよね
いやぁ、でも、うう~ん
:これって元はゲームなんだよね?
武器が使い捨てとかありなの?
:少なくとも聞いたことはない
:ライ様、流石ですっ!
:デタラメだ……なにもかも
:あのパワーなら、私はありだと思うね
:でもそうなると大量の武器が必要なんじゃ……
反応は上々。
ただ、今日の本題は、ここからだ。
「さっき、どうして俺が配信を始めたか、聞いてくれた人がいましたよね。その答えはズバリ、『お金』です!」
僕はこっそりとウィンドウを操作し、第一回の配信を受けて選択可能になった、スパチャ機能――いわゆる投げ銭と言われる、リスナーが配信者へとお金を投げるシステムをオンにする。
……配信者と投げ銭の問題については、デリケートな問題だ。
あまり大っぴらにやると好感度を下げるし、リスナーからそっぽを向かれる可能性はある。
ただ、僕の戦闘スタイルは、大量の金銭で刀を買い込むことでしか成立しない。
魔石が収入にならない以上、その収入源は必然的に配信になる。
――つまりスパチャは、僕の「絶対に譲れない」ラインだ。
それを曖昧にしたまま配信を続けるのは、僕の矜持が許さなかった。
「俺はとある事情で魔石の交換が出来ません。だから、刀を買うには、皆さんの力をお借りしたいと思っています」
これで、視聴者の何割かは離れてしまうかもしれない。
それでも……。
:とある事情……あっ(察し)
:あっ男だから換金できないのか!
:だから配信が必要だったんですね
:M50 てすと
:私が守護らないと(使命感)
:ん?
:M100 もしかして
:これは……?
:M500 もうスパチャ出来るぞ!
:M1500 おっ開いてんじゃーん!
:M5000 やったああああああああああああああ!!
:M5000 ”待”ってたぜェ!! この”
「とはいえ確かに、お金目当てに配信するというのはあまり褒められたことじゃないと思います。ですが……って、んん?」
:M5000 お姉ちゃんからお小遣いだよ!
:M2222 刀代です
:M5000 わんわんっ!
:M5000 支援
:M5000 ひゃあ我慢できねえ!投げ銭だあああああああ!!
:M500 その、がんばってください!
:急に画面が色付きだらけに
:M5000 レベル低いから上限5000じゃん!
今日のために10万マナ用意したのに!
:M5000 タリナイ・・・タリナイ・・・
:M1000 これが世紀末 あ、これ気持ちです
「え、えぇぇ? いやなんでもうスパチャが……? あ、あのですね……」
:M5000 応援してます!
:M5000
:M2000 たくさんお金は出せないですけど応援してます!
:M2300 この思い届けっ!
:M1145 おまえの苦労をずっと見てたぞ
本当によく頑張ったな
ついに配信が報われ、莫大な富を得る
世界中がお前を否定しても、私だけはお前を認めてやる
散々苦しんだのだ、もう楽になれ
富を望んでいるならやることがある
締めくくりに虎の金運を贈る
私の名前を二回タップして私にDMを送るのだ
:M5000
:めちゃくちゃ回りくどい直結厨いて草
:直結厨よりたまに混ざる無言満額スパチャのが怖いんですがそれは
:M5000
:M500 今日のお昼代です
「だ、だから……」
:M4000 毎秒配信して♡
:M1000 安全に気を付けてずっとずっと配信してください!
:M2000 ライきゅん大好き♡
:M5000 推しに課金できる幸せ
:M5000 探索者やっててよかったー!
:M2500 もってけどろぼー!
:M2000 あぁ~スパチャ気持ちいい~♪
:M5000 私のお金でライきゅんが戦う……ってコト!?
:M5000 うおおおおおおおおおお
:M3000 乗るしかないこのビッグウェーブに……
:あああああ!もっと課金したい!課金させて?
:M1200 刀の足しに
:M2200 いきがい
:M500 まだ駆け出しなのでたくさんは出せませんが
:M5000 マナならいくらでも出すぞ!
「ス、ス、スパチャ禁止ィイイイイイイイイイイイイイ!!」
こうして僕は、「絶対譲れない」機能を、開始わずか一分も経たないうちに自らの手で閉じることになったのだった。
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札束リンチ!
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