第14話 第二回配信
作者急病(ただの風邪)につき、更新ペースを落としてお送りしております
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「……さっすがに、そんな急に有名になったりしないかぁ」
もしかして、あの初配信が掲示板で話題になってたりして、と掲示板をざっと見てみたけれど、僕、というか「バーチャル美少年ダンジョンチューバー †ライ†」についてのスレは建っていないようだった。
いや、正確に言うと、一個だけライの話題を扱ってそうなタイトルのスレッドを見つけたんだけど、中を覗く前になくなってしまったのだ。
(雑談掲示板だと、不適切発言が続くとスレッドごと爆破されるとか聞くからそれかな? いや、単に僕が見間違えただけか)
自分がそこまで承認欲求の強い方だとは思っていなかったけれど、幻覚(?)まで見てしまう辺り、初配信の興奮でおかしくなっているのかもしれない。
……とはいえ、だ。
人気や評判に囚われすぎるのはよくないけれど、僕の目的のためにはまず、最低限の知名度を得ることが重要なのは確か。
(かといってあまりにも有名になりすぎると、今度は男なのにダンジョンに潜ってることがバレるリスクが上がるから、ほどほどがいいんだけど……)
ダンジョン配信界隈ではそこそこ有名だけれど、一般にはあまり浸透しておらず、ダンジョン管理局がわざわざ動くほどでもない。
将来的に、そのくらいの知名度に調整出来たらいいんじゃないかなと思っている。
(……なぁんて、そんな贅沢な悩みとはしばらく無縁そうだけど)
本物の男だから、すぐに注目を浴びるはず、なんて考えはちょっと甘すぎたようだ。
これからコツコツと頑張って、少しずつでも知名度を上げていかなきゃいけないだろう。
(ならまあ、今日のやることは決まりだ!)
僕の指は慣れた手つきでディスプレイをタップして、
「――第二回配信、やってみよう!」
世界初のバーチャル美少年ダンチューバーとして、二回目の配信を予告した。
※ ※ ※
ダンジョンのエントランスに来たところで、改めてステータスカードを操作する。
(前回から、あんまり人が減ってないといいけど……)
事前の宣伝にもよるけれど、こういうのは初配信が一番人数が多く、第二回からガクンと視聴者数が減ることもめずらしくないらしい。
(初配信の半分、いや、せめて三分の一が残っててくれたら、なんとかやれるとは思うんだけど……)
初めての経験で、こればかりは予想がつかない。
僕は祈るような気持ちで自分の配信画面を呼び出し、そこで待機している人数を見て、ギョッと目をむいた。
「あれ? え? は?」
予想外過ぎる光景に、思わず声が漏れる。
「え? な、なんだこれ……」
何度も目をこする。
待機人数の桁が、おかしなことになっていた。
(一、十、百、千、万……え、間違ってないよね、これ)
指で桁を数えてみても、結果は変わらない。
――配信の待機人数が、前回の同時接続人数の百倍を超えていた。
掲示板には反応はあまりなかったけど、意外と話題性は取れていた、のだろうか。
一過性のものだとは思うけれど、これは想定外。
いくら春休みシーズンで休みの人が多いとはいえ、昼間の配信にこんなに人が集まるなんて、予想しろという方が不可能だろう。
もしかして、男を名乗ったことで炎上でもしてしまったのかと心配になったけれど、待機画面のコメントは「楽しみ」「わくわく」だのといった好意的なものばかりで、そんな気配はない。
それは嬉しい。
嬉しい、んだけど……。
(こ、これは失敗出来ないぞ……!)
こういうのは、話題性があるうちが華。
ここでしっかりとお客さんをつかんでおかないと、反動で一気にオワコン化するおそれもある。
(と、とにかく時間通りに始めないと……!)
これだけの人を待たせるのは、流石に申し訳なさすぎる。
い、いや、少人数だったら待たせていいとかそういうことではないのだけれど、それだけの人数の暴力に、僕は圧倒されていた。
覚悟を決めてウィンドウをタップした瞬間、切り替わる画面。
途端に堰を切ったように、たくさんの温かい
: キタアアアアアアアアアア!!
: 待ってました!
: あいかわらずイケメンw
: 始まりましたわね
: 初見です!本当に男の人だ!
: hshshshshshs!!!!
: ハイレタハイレタハイレタハイレタハイレタ
: うはww 見た目ガチで男じゃんwww ウケるwwww
: リアタイ間に合った!
: ふんがー
: これが男?どうせ偽物でしょ
: 今日もふつくしい・・・
: 生きがい
: ライー!わたしだー!!結婚してくれー!!
: 男の人! 初めて見た! すごい! すっごい!!
: エッッッッッッッッ
: 好きです愛してます結婚を前提にお付き合いお願いします!
あ、あたたかい、声援……。
: あばばばばばばばば!
: あっあっやばい! 目が合ったやば――あっ♡
: 濡れるッ!
: ああぁあぁぁ~十二連勤の疲れが溶けていくんじゃ~
: ライさま今日も素敵です!
: えっこんなご尊顔を無料で拝見してよいんですか!?
: これが見る栄養剤か
: コラボに興味ありませんか?DM待ってます!
: あのー見抜きいいですか?
: いいわけないでしょ
: は? わ、私の方が顔の角度によってはカッコイイんだが?
: 気のせいかな? ライ様の後ろに後光が見える
: セシル様まで見にきとるやんけ!
: セシル様、その発言はもうほぼ敗北宣言なんよ
: 同接の伸びエグ・・・
: ライきゅん!!お姉ちゃんだよ!!
またダンジョン配信できてとってもえらいね!
ごほうびに今すぐライきゅんをぎゅーってして
ライきゅんのつむじをくんかくんかしながら
頭をなでくりなでくりしてあげたいよぉ!!
ライきゅんいつでも連絡待ってるね♡
: ひえ
: やばいのおる!
: もはや狂気やんこんなの
: 姉気だぞ☆
: 誰でも一ヶ月で200万円稼げる方法載せてます
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: 前世からずっとずっと好きでした!どうすれば会えますか?
: コメント欄カオスwww
: 私はあなたが昔助けた鶴です。恩返ししたいので連絡先ください!
: じゃあ私はあなたの雌犬です! わんわんっ!
: ここって動物園かなにかだっけ?
: 動物園はこんなカオスじゃないゾ
: あーもうめちゃくちゃだよ!
: ええいまともな奴はわたしだけか!
: 恋人恋人恋人結婚結婚結婚結婚結婚結婚結婚!!
温かいというにはちょっとだけパワフルすぎる、そのコメントの群れ。
それを見て、僕は……。
「……ぷっ、あはははは!」
堪え切れず、ついつい笑ってしまった。
: ライ様が笑った!
: あっ(昇天)
: 破壊力やばぁ♡
: 浄化されました
: おふっ
: あっあっ尊すぎて吐きそう
: こっちなんて尊すぎて妊娠した
: 想像妊娠やめろ
: ライきゅんが笑うとお姉ちゃんも幸せだよ!
: 私たちがライきゅんを笑わせた!
これは偉業ですぞ!
: ライきゅん可愛い♡
: 推しが笑ってくれる幸せ
(……そう、だよね)
たとえ世界が、性別が違っていても、ここにいる彼女たちは、前世の「俺ら」と何も変わらない。
そう思ったら、一気に緊張が解けていく。
(ちょっと、肩ひじ張りすぎてたかも)
もちろん真面目にやることは大事だけど、それだけじゃきっと続けられない。
だから、
「魔王城からこんにちは! バーチャル美少年ダンチューバーのライです!」
まずは元気よく、事前に考えていた挨拶台詞を口にして、
「――今日も一緒に、楽しんでいこう!」
今度は心からの言葉と共に、配信の開始を告げたのだった。
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