第10話 配信開始
連載始まって結構立ちますが、いまだにどの時間に更新するかちょっと悩んでいたり……
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僕が前世の記憶を取り戻してから一週間。
ようやく家族の監視の目が薄れた隙を見計らい、僕はふたたび〈不可侵領域〉を訪れていた。
目の前の景色が一瞬にして切り替わり、中世の城の風景が目に入ってきたところで、大きく息をつく。
(――いよいよだ)
ダンジョンチューバーになると決めてからの数日間、僕はこの時に備え、配信の準備や下調べを行ってきた。
そして、自分の配信スタイルや設定を詰めて、完成したのがこれだ。
†ライ† バーチャル美少年ダンチューバー
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【概要】
世界でただ一人の男性ダンジョン攻略者。
男ながらダンジョンへの憧れが抑えきれず
最強の剣士を目指してダンジョン探索中。
もちろんバレたら止められちゃうので
本名や個人情報については秘密。
探索者としてはまだまだ駆け出しなので
温かく見守ってくれると嬉しいです!
……という設定で配信をしています。
なので、配信では「どうせ中身は女でしょ」
「こんなダンジョン存在しねえから」などの
夢を壊す発言はNGでお願いします!
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まず名前については、あまり本名とかけ離れた名前だと呼ばれた時にとっさに反応出来ないと思ったので、「レイ」と音の似ている「ライ」にして、ついでにそれだけだとなんとなく寂しかったので、つい出来心で両側に中二病御用達の記号(ダガーって言うらしい)をつけた。
あらためて見直すと、「バーチャル美少年ダンジョンチューバー †ライ†」の字面から漂う香ばしさにクラクラと来るものがあるが、
(ま、まあこういうのは、中途半端にやるのが一番恥ずかしいからね)
もう「†ライ†」は僕自身ではなく、視聴者を楽しませるネットコンテンツだと割り切って、アクセル全開で行くことにした。
そっちの方が視聴者も面白いだろうし……。
(幸い、身バレのリスクは気にしなくていいみたいだし、ね)
初めは身バレを警戒して、マスクやお面、紙袋にヘリウムガスなんていう変装グッズを使うことを本気で検討していた。
でも、配信についての設定をいじっている間に、それらの懸念を全て解決する便利機能を見つけたのだ。
「〈配信アバター選択〉、っと」
僕がその項目をタップすると、空中に「とあるアバター」が表示される。
黒髪黒目の、はっきりと日本人と分かる男性。
――それは紛れもない、「前世の自分」の姿だった。
この「配信アバター選択機能」自体は確か、有名な配信者がゲーム内で迷惑なファンにつきまといされたことで実装されたもの。
サブキャラを動かしている時に「アバターを保存」というコマンドを選ぶと、メインキャラで配信する時にも保存したサブキャラの見た目を「配信用アバター」として使用出来る、というものだったと思う。
もちろん、ゲームと違って現実世界にサブキャラなんてない。
だから今世では「ほとんど意味のない機能」って言われてたらしいんだけど……。
(これも、転生チートって奴なのかな)
アバター保存のコマンドを行わなければ存在しないはずのアバターが、なぜか最初から一つ存在していて、それが前世の自分の見た目をしていたのだ。
ただ、全てが前世の自分そのまま、という訳ではなく、服装は和服で、前世の自分が絶対に着ていないと断言出来る格好だし、年齢もちょっと上に見えるあたり、どうやらアドサガで動かしていた自キャラと色々混ざっているようだ。
(うーん。これも、僕を転生させてくれた神様(?)がサービスでつけてくれたのかな?)
ありがたいとは思うけれど、そこまで気が利くなら、「ダンジョンのある世界」か、「男が少ない世界」、どっちかの属性に絞って転生させてくれた方がよっぽど嬉しかったのにな、とつい思ってしまう。
とはいえ、この状況ではありがたいのも確か。
配信用アバターと現実の肉体の体格が極端に違うと配信される映像が不自然になる、って問題があるらしいけど、今の僕の方が少し背が低いくらいで誤差の範囲内。
身バレを防ぐためにも、素直にこの「もう一人の僕」の姿を使わせてもらうことにした。
これで将来的に僕に人気が出て、僕のリアルを特定してやろうという人が出たとしても安心だ。
どんなファンでもアンチでも、まさか僕が「前世の自分」の見た目で配信している、なんて想像出来ないに違いない。
(でもこれで、ほんとに「バーチャル」になっちゃったな)
バーチャルダンチューバーを名乗ると決めた時には、このアバターには気付いていなかったんだけど、噓から出た
僕はそんなことを取りとめもなく考えながらも画面を操作して、前世の自分のアバターを選ぶ。
これで、現実の「僕」の見た目と声が、配信上では全て「前世の自分」の見た目と声に置き換えられて配信されるはず。
(……あと、三十秒か)
時間が近づくにつれ、緊張が高まる。
正直延期したい気すらしてきたが、配信予告をする掲示板に配信開始時間を載せて告知したし、もう後戻りは出来ない。
(あと、二十秒)
全ての準備は完璧にしたはずなのに、何か忘れているものはないか、急速に不安になってくる。
でも、変装の必要はなくなったし、アイテムはインベントリに入っているしで、忘れ物、という状況がそもそもないから大丈夫、なはずだ。
(あと、十秒!)
トイレに行っておくんだった、とか、もう少し水分を取っておけば、とか、そうしたら余計トイレ行きたくなる、とか、どうでもいい思考がループする。
それでも、時間はループすることなく、無情にも正しい時間を刻む。
(あぁ、もう、あと、三、二、一……)
視界の端の数字が切り替わった瞬間、僕は「配信開始」のボタンを押し込んだ。
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