第3話 世界が変わった日
大魔蝕の時期を最初「五十年前」と書いていたのですが、冷静に考えるとそれでは設定破綻するので「百年前」に修正しました
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――〈大
それが、かつて「俺」が生きていた世界と、今「僕」が生きている世界を決定的に変えたものらしい。
今から百年ほど前、どこからか世界中に「魔力」としか呼べないような不思議な力がどこかから「
大規模な電波障害と、原因不明の機械の動作不良によって文明が崩壊。
生物に対しては魔力酔い、魔力汚染と呼ばれる体調不良を引き起こし、パンデミック級の大打撃を与えた。
――けれど、もっとも影響が大きかったのは、生物に対する根源的な害意を持った魔力による「魔法災害」だった。
のちに「負の魔力」と呼ばれるそれらは、人間の意識、無意識にある恐怖や畏れを読み取って、それに見合った姿で顕現して人々を襲った。
例えば、特にひどかった例で言うと、アメリカやアフリカ。
アメリカでは「負の魔力」はゾンビという形になって現出。
アメリカは映画さながらのゾンビパニックが起こり、たった数ヶ月の間に国は崩壊した。
また、アフリカでは人々の恐怖が悪しき精霊という形になって現れ、病の風を吹かせた。
対抗策の一切ない凶悪な疫病は瞬く間に国中を席巻し、実に地域人口の八割以上が病死した。
世界各地で規模こそ違えど同様の災害は起こったけれど、ただ、それに対抗出来た国や地域もない訳ではなかった。
――それは、災害と同時に、「災害に対抗する手段」もはっきりとイメージすることが出来た地域だ。
例えば、中国では各地の伝承に残る妖怪や怪物が出現したが、彼らは同時に気功や仙術に目覚め、超人的な身体能力で妖怪に対抗した。
これは、妖怪を見た人々が「妖怪に対抗する気功を操る武道家」をイメージ出来たことで、「負の魔力」と同時に流入してきた「正の魔力」が反応。
国家全体で無意識的に、人に「超人的な気功の力」を与える魔法を発動させたと分析されている。
そういう意味で、日本は非常に幸運だった。
日本を襲った初期の魔力災害が、ゲームに出てくるようなモンスターの姿を取ったこと。
そしてそのモンスターの姿を、当時国民的な人気を誇っていたMMORPGである〈アドラステア・サーガ〉を引き合いに出し、まだかろうじて機能していたSNSに投稿したことが、日本の未来を決めた。
なんと、その投稿を見たひとりのオタクが、〈アドラステア・サーガ〉のモンスターが出てきたなら、〈アドラステア・サーガ〉の魔法も使えるようになっているんじゃないかと思い立ち、実際に使ってしまったのだ。
その様子もまた、嬉々としてSNSにアップされ、魔法を試す人間が続出。
それを皮切りに、地上に表れたモンスターは〈アドラステア・サーガ〉由来のものであり、人々は〈アドラステア・サーガ〉のキャラクターの力を使える、という認識が、一気に日本国民の共通認識になった。
――「魔力災害」は、人々の認識によって姿が決まる。
このSNSによって普及したイメージは決定的なものになり、当初多種多様だったモンスターは少しずつ〈アドラステア・サーガ〉のものに統一されていき、平気で地上を闊歩していたモンスターはやがてダンジョンにしか出現しなくなった。
同時に人は〈ジョブ〉というゲーム由来の力を扱えるようになり、モンスターを倒すことでレベルアップし、その力を強くすることが出来るようになったのだ。
……というのが、「僕」の知識の中にある、この世界の常識だ。
並行世界の別の日本の記憶を取り戻した今、色々とツッコみたいところはあるけれど、とりあえず一つだけ、どうしても言っておきたい。
「――ウッソつけ! アドサガは国民的人気ゲームどころか、不人気零細クソゲーだったぞ!!」
アドサガ、〈アドラステア・サーガ〉は、キャラの強化幅がほかのゲームより小さく、課金したり時間をかけてキャラクターを強化してもそれだけでは勝てない硬派なゲームで、プレイヤースキルが何よりもモノを言うそのスタイルは熱狂的なファンを生んだ。
……反面、時間をかけたりお金をかけても負ける時は負けるゲーム性は、悲しいほど一般受けはしなかった。
前世、友達が悪気なく口にした「〈アドラステア・サーガ〉? あぁ、あのクソゲーかぁ!」という言葉は、今でも「俺」の心に深い傷跡を残している。
絶対許さねえからなぁ、田中ぁ!!
……ま、まあ
神様が俺の願望を叶えてくれたのかなんなのか分からないが、アドサガを人気ゲームにしたというのは歴史改変が過ぎると思うが、とにかく「俺」は、そんな不人気ゲームを愛してやまなかった歴戦プレイヤーだった。
その前世知識によると、〈ソーサラー〉は魔法職の中でもぶっちぎりの不人気職。
だから、〈ソーサラー〉のジョブをもらったと答えても、同情されることはあっても注目されることはないと思っていたのだ。
そう。
思って「いた」、んだけど……。
「――すごいわ! もしかして、とは思っていたけど、本当に〈ソーサラー〉になっちゃうだなんて!」
母親にすごい勢いで抱きしめられ、姉さんと妹がキャーキャーと叫びながらハイタッチをしているところを見ると、その自信も崩れてしまう。
僕にダダ甘な姉の
普段から僕には甘い家族ではあるけれど、それを差し引いても考えても、外れ職を引き当ててしまったことに同情している様子ではなかった。
「あぁ、困ったわ。ダンジョン管理局に根回ししないと……。ああでも先に、黎斗のジョブ獲得のお祝いを……」
と、母さんがなんだかさらっと怖いことを言い出した、その次の瞬間だった。
――ビー! ビー! ビー! ビー! ビー!
和やかな雰囲気をぶち壊すような、耳障りなサイレンが鳴り響く。
「これは……」
明るい白色灯の明かりは刺々しい真っ赤なライトの光に塗り替えられ、辺りが騒然とし始める。
同時に、さっきまでゆるゆるにとろけていた姉さんや未衣の顔が、一瞬にして引きしまるのが見えた。
「……第一種、緊急警報」
母さんが、ぽつりとつぶやく。
これは、「俺」が一度も経験したことのない、けれど「僕」は嫌になるほどに聞いた、緊急警報。
つまり……。
「――モンスターの、襲撃だ」
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緊急事態発生!
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