第1話 ジョブ判定
「――それじゃ、行ってくるよ」
祈るような面持ちでこちらを見守る家族に見送られて、僕は一人、個室の中へと歩を進める。
今日は、一生に一度の「ジョブ判定」の日。
ダンジョンシステムによって与えられる「ジョブ」が分かる日だから、僕だってそれなりに緊張していた。
ただ、
(……流石に、大げさだよね)
普通であれば、ジョブ判定が受けられる十二歳になった時点で、月に一度行われる地域の「ジョブ判定会」に行って、大勢でまとめて判定を受ける。
なのに、「何かあったら大変だから!」と家族がいつもの過保護を暴発させて、僕だけ三年遅れで、しかもたった一人、個室での判定となった。
(それがすんなり通っちゃうのも、どうかと思うけど)
いくらこの地域でジョブ判定を受ける「男」が僕だけだからって、ここまで特別扱いしなくていいのにな、と思う。
(どうせ僕が、戦闘ジョブになる訳ないんだし)
ジョブには〈ブラックスミス〉や〈シェフ〉などの一般職と、〈ファイター〉や〈マジシャン〉のような戦闘職とに分かれる。
戦闘職を授かれば、訓練次第で超人的な力を手に入れられるそうだけど、「ジョブ判定」で戦闘職が出る割合は百分の一以下。
さらに、男は総じてダンジョンへの適応力が低いため、戦闘職を授かることはめったにない。
だからこそ、五年ほど前に男が〈マジシャン〉ジョブを授かった時は大きなニュースになったし、そのせいで彼の個人情報がネットに流れてしまう事件もあった。
姉さんが心配しているのは、そんな事件が僕にも起こってしまうことだろう。
なぜだか姉さんは、僕が絶対にジョブを授かると信じ込んでいるような節がある。
(姉さんは親バカ、じゃないか、姉バカだからなぁ)
戦闘職に憧れがない訳じゃないけれど、そんな奇跡みたいなことが自分に起こるはずがない。
さっさと終わらせて、早く姉さんを安心させてあげよう。
(ええと、確かこの十字架に触れればいいんだったよね)
この十字架型をした装置に触れると、本人の名前とジョブが書かれた〈ダンジョンカード〉が出てきて、自分のジョブが分かる……らしい。
僕はそこで居住まいを正すと、そっと「ジョブ判定」の装置に手を伸ばした。
――緊張の一瞬。
指先が十字架に触れた瞬間、リィンリィンという妙に耳に残る澄んだ音が鳴り響いて、十字架が光を放つ。
反射的に目をつぶった僕は、しばらくののち、期待と不安を胸にゆっくりと目を見開いた。
だけど……。
「……えっ!」
開かれた僕の両目に飛び込んできた情報に、僕は固まってしまった。
―――――――――
サムライ
―――――――――
〈サムライ〉という聞き慣れないジョブと、
けれど、その名前、〈竜宮 礼〉という文字を目にした途端、
「――ぐっ!?」
突然、頭が焼け付くような痛み。
熱と共に、脳が本来の役割を思い出したとでも言うように、急速に唸り出す。
――フラッシュバックする映像。
――見たことがないはずなのに、確かに見た景色。
一度も見たことがないはずの光景なのに、それが実際に体験したものだと、本能が訴えかけてくる。
(まさか、これ……前世の記憶?)
ほんの数秒のうちに〈竜宮 礼〉として生きた記憶を蘇らせた僕は、思い出した。
かつての自分が生きていた世界とは違い、今の自分が生きる世界は、女性に比べて極端に男性の数が少ない歪な世界であることを……。
それから……。
――カードに浮かび上がった〈サムライ〉というジョブが、前世の自分が遊んでいたゲームの「男性専用の戦闘職」であることを……。
思い出して、しまったのだった。
―――――――――――――――――――――
激レアジョブゲット!!
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