第三章 その5 教導 (前半)
第三章 その5 教導
その翌日。
遠く離れた街のギルドまでやってきた若者に導かれた一行は、二日の距離にある件のロマーニ村に到着した。
道中は猛り狂った大型の猪一頭と、雑食性兎型小型魔獣であるラッシュラビット数羽と遭遇したぐらいであった。
頭に角を生やしている、兎とよく似た姿形のラッシュラビットは、どこにでもいるメジャーな魔獣である。
畑を荒らす害獣として広く知られている。
非常に攻撃的な性格をしており危険性も高いが、そこまで強くはない。
仮にも冒険者であるスカサハ達の敵ではなかった。
猪は仕留め損ねたが角うさぎは昨晩のメインディッシュとなっていた。
オリンピアは出迎えにきた村長と挨拶を交わすと、すかさず指示を出した。
実はこのオリンピア。冒険者時代に短期間ながらもこの村を拠点に活動していた時期があって、駆けつけてくれた者の中に知った顔がいたことを喜んだ村長によって、大いに歓迎されたのである。
故に事はスムーズに運んだのであった。
まずポーターとして村で体力のある若者、四人の同行を要請した。人選は村長に一任したが問題はなさそうだった。
救出対象のなかに大人の女性がいるので、歩けない状態であることも考慮して、現地ですぐに組み立てられる担架も至急用意するよう指示した。
次に村の武器庫を解放させた。
あまり期待はしていなかったオリンピアであったが、そこで意外なものを発見することになる。
それはクロスボウ。訊くと、国の施策とやらで各地に配られたものらしい。
たった二張だけではあったが、それはうれしい誤算であった。
クロスボウは弓の経験がない者でも、僅かな訓練でたちまち立派な射手に仕立て上げてしまう便利武器である。
こんな小型なものでは致命傷は与えられないが、補助火力くらいにはなる。
これはジャンヌと戦闘力に劣るシーフのデイジーに持たせることにした。
「もう承知してるとは思うけど私は昔、冒険者仲間と共にこの辺りで活動していた時期があってね……」
村長宅でここいら一帯の地図を広げながらオリンピアは続けた。
「その頃はゴブリンなんかいなかったけど、この村を襲ったヤツらが森から来たっていうなら多分ここね」
そう言ってオリンピアは地図のある一点を指した。
「この森には滝があってね、その近くに大きな洞穴があるの。それこそゴブリンだったら、ゆうに百は越えるだろうって数が生活できるぐらいには広かったわ。水場の近くだから利便性も申し分ない。私がゴブリンだったらそこにねぐらを構える。多分そこ」
村長他、森のことを知っている数名の村人を加えたオリンピアたちは、作戦会議を続けた。
「ゴブリン共も、村人が取り返しに来ることは警戒していると思う。だからこの最短のルートは駄目……村長、他にいいルートはないかしら?」
「……こっちの方から、こう回りこんで森に入るってのはどうだろう?」
アドバイスをしてきたのは村の狩人だった。
「何時間か掛けて森を大きく迂回……か、確かにこっち方面なら、獣くらいにしか警戒していないと思うけど……って、ここは通れるの? ここには確か沢があったと思うけど」
「ああ、村の者でも知る者は少ないが、あの沢は長らく雨が降らないこの時期は干上がることがあるんだ。そしてもう半月は雨が降っていない。だから今ならこの谷沿いのルートを行ける」
「……いいわね、グッドよ、その案で行きましょう。じゃあ夕方から少し仮眠をとって出発は本日の夜。暗いうちに警戒の薄いであろう向こう側に回り込む」
「ああ……それで?」
一同がオリンピアの次の言葉を待った。
「……夜明けとともに森に入る。陽が昇ったらゴブリン共はきっと狩りに出払うわ。だから手薄なはずの午前中を狙うわよ」
本格的に森に立ち入るのは陽が昇ってから。
夜の森は夜行性の猛獣たちの独壇場である。
ゴブリンの巣に辿り着く前に、他の野獣魔獣に襲われていたら世話がない。
それに仮に寝込みを襲っても、数がいたんじゃ敵わない。作戦全体のリスクを考えれば無難な線であった。
「はいっ」
「わかりました」
「了解した」
一同がオリンピアに返す。
「では村長、後の手筈はお願いするわね」
「ああ、任せてくれ」
「あーそれからあなたたち四人はこれから夕方までみっちりしごくわよ。この作戦の成否はあなたたちにかかっていると思いなさい」
「は、はいっ」
そう言うとオリンピアはスカサハ、ジャンヌ、デイジー、ディムナの四人を外に連れ出した。
同行を申し出ていたギルドの若い職員もそれに付き添うのだった。
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