二章:自信をアタシに!

応接間に入ると既にお客さん方は入っていた。

「マ、マキナさん、お客様って」

「例のクソ魔導大臣とウェスペル公だ」

「『燈夜公』じゃないですか!怖すぎますって!」

「おい、聞こえてるぞ」

烈火のマントに身を染めた、『燈夜公』は不機嫌そうに応えた。

黒髪紅眼イケメンことウェスペル・ルーブルム公はここ、アウステラ公国で『魔創革命』ーつまりは魔素のエネルギー革命を成し遂げたお方だ。革命には相応の反発が伴うものだが、一代で成し遂げたことから『燈夜公』と呼ばれている。

公主サマは呆れたように息を吐いた。

「先日の件、ご苦労だった。またムウスカが暴れたと聞き、余もほとほとうんざりしておる」

「公主様は所謂、『ツン』の部分が強いお方でしてね。これは親愛表現と捉えてもらって相違ないですよ。」

「そう聞こえているのなら、お前の耳は腐っている」

「おや、手厳しい」

大臣と燈夜公が他愛もない会話を交わしている。

と、思ったら次の瞬間にはこちらを向いていた。

「で、『魔導書』の件だがどうなっている?」

瞳孔ガン開きでちょっと怖い。

「そう焦んなって」

魔導書ーそれは、魔素の「変容させる」性質を用いて言葉の中身を世界に現そうとする試みだ。魔素研究の最先端と言ってもいい。

呪文などは既に学園の科目の一つに指定されている。しかし呪文経由の魔法では複雑なことができないのだ。イメージの問題であろうか。この辺りも研究対象である。

「とりあえず蔵書8000冊全部あるぜ」

「フン、ならばよい」

公主サマは性格とは裏腹に顔に出やすい。満足してくれたようで何よりだ。

「マキナさん、ちょっといいですか?」

「ん、何だ?」

「ここにある物って全部電気製ですよね?

なのになんで魔導書なんて大層なものが...?」

「良いトコに気づいたね」

自慢気に指を鳴らし解説する。

「ウチに魔導書を置く理由その一!

電気製でのカモフラージュ!魔素は独特の周波を持つ!電気製でそれをごまかす!」

「おぉ〜」

「理由その二!本でのカモフラージュ!ウチの仕事はあくまで書店だ!魔導書が落ちてても違和感ナシ!」

「なるほどぉ〜」

「理由その三。お前の義父の功績だ」

急に『燈夜公』が口を挟んできた。私は口を閉ざさざるを得なかった。

「あの男...アビスは我が国の魔素研究の第一人者だ。

加えて幾つもの魔導機関を実用化させてきた。あの男無しでこの国は無かっただろう」

「……」

思えば、親父はどうしようもない研究ジャンキーだったが、その自由奔放ぶりに合う功績を打ち立ててきた。それに比べてアタシは、どうだろうか。

「気を悪くさせたようならすまぬ。だが主には主の仕事がある。せいぜい精進せよ」

そういうとウェスペル公はマントを翻し去っていった。大臣は本を買って言った。

「あなたの義父様と比べるようなことを言ってしまい申し訳ありません。私達が依頼するのは蔵書と電気機器の管理だけですので。よろしくお願いします。」

二人が帰った後の書庫は、静寂がやけに煩かった。

「マキナさん…」

「ん?あぁ気にする事はねえよ」

「でも...」

「フフッ...」

「?」

「いや、ここまでアタシを気に掛けてくれるヤツなんざ、そうそういなかったからな」

「当たり前じゃないですか!マキナさんは私の雇用主で、私を初めて、理解してくれた人なんです!」

感情、豊かだな。今はその豊かさに心救われる。

今はこの子に失望されないためにも、頑張らないとな。

腰を上げ肩を回し、イニティカの方を見る。

「あぁ、今は今のするべきことがある!いっちょ頑張るぞぉー!」

「はい!」

「まずは明日来る新書の確認だな!できるだけ破らないでおくれよ...?後は古書の修復だな!仕事内容をちゃんと確認しとくように!それと...」

イニティカはやる気を取り戻したアタシを見てとても嬉しそうに微笑んでいた。

胸元にぶら下がった籠のアクセサリーが夕陽に照り、金色を映していた。

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