十章:私の居場所をココに!
「以上のことから、試験者は子供達を助けるために奮闘しておりました。その勇気と行動力を鑑みて彼女を合格とすべきです!」
「言われなくとも分かってますよ」
王城、再び応接間である。今は同室者はおらず、イニティカとアタシとケルレ大臣の3人だけだ。
あの後、意識を失っていたイニティカを背負ってネモフィラ書庫に帰った訳だが、大臣と例の賊共は縛り上げられ既に到着していた。禿げてさらにボコボコにされていたため、傍から見れば明らかにアタシ達の方が蛮族であったろう。少なくとも、道行く人の視線はそう語っていた。
大臣はパンをむしゃむしゃ食べながら答えていた。どうやら「魔合モジュール」についてはまだバレていないようだ。
「イニティカを採用にしてくれるということですか!?」
「ええ、文句無しです。イニティカさんもそれでよろしいでしょうか?」
問われたイニティカは黙って頷いた。今は帽子の鍔を深く下げている。
「では、よろしく頼みますね」
深く下げられた帽子の鍔から、表情は伺えなかった。
書庫へと帰ってきた時、イニティカは静かに言った。
「お気遣いして頂いて本当にありがとうございました。私は新しい職を、探します。本当にすみませんでした」
「いやなんで謝るんだよ」
イニティカの方を振り返る。未だ、表情は伺えない。
「...『角』のこと気にしてるのか?」
イニティカがビクッと反応した。
「...講義の続きだ。『魔素』は大変有用なエネルギー源だが、デメリットもある。他の物質を『変容』させる性質だ」
むしろこっちが魔素の本質だがな、と心の中で付け足す。
「これじゃあ原子力と大差ないように見えるが、変容度合いは調節出来る。なにせ源泉は己の体だからな。
ーーーが、時たま暴走してしまうこともある。
...『己の体』が。この変容を『魔化』という」
イニティカは悲しみを目に湛えていた。やがてその大きな帽子を取った。
「その通りです。私は『暴走個体』です。今まであなたのことを騙していました」
「あ?ナニを騙してたって言うんだよ?」
イニティカは大粒の涙を浮かべていたが、ぐっと堪え強く言った。
「私は!ただ『普通の人』のフリをして!あなたと過ごしていたんです!これが騙していなくて何なのですか!私はこんな『化物』なのに!!」
イニティカはそう言ってイニティカに食ってかかる。
「その『角』の何がいけねえんだよ」
マキナはイニティカを見据えてポツリと言った。そして彼女の「角」をむんずと掴んだ。
「!!??」
「あのな!最初見た時からオマエはかわいいなと思ったよ!一緒に過ごしてよりその思いが深まったわ!それが『角』の一つや二つで変わるか!」
イニティカは息を詰まらせ、下を向いた。その顔を無理やりグイと上げ、目を合わせる。
「でも、でも!私は!」
「でもでもうるさい!アタシはお前を雇うと決めたんだ!本当に嫌ならこの手を振り払え!」
マキナはそう言い、手を差し伸べる。
不安げな瞳が私を見つめる。様々なトラウマがあったことは容易に想像がつく。
だからこそ、私は彼女の不安を消し飛ばし安心できるような居場所を作らなければならない。いや、作る。そう誓う。
思いを込め、イニティカを見つめ返す。
「私は....ここにいてもいいんですか....?」
「むしろ大歓迎だ」
私はニカッと笑った。
イニティカの涙が溢れた。
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