二章:厳しい試練(お使い)をあなたに!

「ーーーハッ!?」

「目覚めました?良かったぁ...」

目が覚めると私の部屋だった。どうやら運んでくれたらしい。

「見苦しいとこを見せて申し訳ない...」

あたふたしながら謝った。

「いえいえ、店長さんが無事で良かったです!」

寝坊したことより心配をしてくれる、なんて良い娘なんだ。

「あなたがイニティカさん?」

「はい!本日採用試験を受けに来ました、イニティカ・コルです!よろしくお願いします!」

大きな帽子の鍔の合間から覗く琥珀のような瞳。

白いワンピースを着こなす姿はまるで絵画のようだ。

ちょっとこんな美人なんて聞いてないが...

「何故にワンピースでお越しで?」

「ワンピースってフリフリしてて可愛くないですか?」

「うん?確かに可愛いと思うけど…」

「それじゃあ、スーツじゃないことは気にしないでもらいたいなぁ、なんて...」

イニティカが不安げな眼差しでこちらを見た。

なるほど、カワイイ!!

「スーツなんてどうでも良いよ。むしろそっちの方が良い。いやまじで」

「いいんですか!?ありがとうございます!」

そう言って彼女はぴょんぴょん跳ねた。なんだか彼女からしか得られない栄養がある気がする。

「マスター。まずは彼女に挨拶すべきでは?」

「ハッ!そうだった!」

半ば咎めるような声が私を現実に戻した。エプロンの皺を伸ばし埃を払う。

「『ネモフィラ書庫』店長のマキナだ。分からないことがあればなんでも言ってくれ」

「はい!...ちなみに、採用試験って何するんですか?」

先刻とは別種の不安が彼女の目に宿る。当然だ。募集要項にはがあるとのみ記載した。

「あ〜ちょっと待った...もうすぐ『上』からの指示が来る。たぶん」

プルルルル......

ちょうど、電話が鳴った。

「はい、こちら『ネモフィラ書庫』です」

「あ〜人材が来たようですね」

魔導大臣の間延びした声が聞こえた。

「表面上の仕事のみさせる感じで?」

「元よりそのつもりだけど....」

「なんかその子面白そうだから『裏』の仕事もさせません?」

「は?」

「せっかくの機会ですから、こちらで『試験』準備させてもらいますね」

「ちょっと待て。お前らが試験したら...」

「よし、準備完了です!『モリス』までパン買いに行って下さいね。では」

プツッ...

電話が切れる音が無常に響いた。

「どちら様でしょうか?」

「いや、『上』なんだが......」

マキナはイニティカの方を見て悩む。イニティカの顔とあのアホの顔がブレて重なる。マキナはかぶりを振り、覚悟を決めたようにイニティカを見た。

「これから私達はパンを買いに行く。クレラ三丁目のパン屋『モリス』だ。この買い物から帰ることができたら、試験は合格だ」

「え?それだけですか?」

「ああ、それだけだ」

「何かの暗号だったりします?」

「.....いや、ただパンを買いに行くだけだ」

「どうしましょう...私の手持ちで足りるかどうか...

ちょっとお金取ってきていいですか...?」

「いやすまん!パシリじゃない!」

困惑する彼女を他所に考える。何が最善か...

「今から起こることを端的に言うなら『お使いゲリラ戦』だ。差し当たって私は手持ちを共有する」

「...『お使いゲリラ戦』?」

「ああ、意味分からないこと言ってるのは承知だし、信じられないかもしれない。ただ信じてほしい。頼む」

「...分かりました。とりあえずその服、着替えましょう」

イニティカはパジャマの上からエプロンを着ている店主を指差した。

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