33. ネオ鳳改
特訓を開始して6日が経った日の夜。
「とうとう明日か……」
薄暗い部屋の中で、僕は半裸でつぶやいた。
これが漫画なら『コオオオオオオオ』という描き文字でオーラが演出されているだろう。
そのくらい僕は――いや、俺は変わった。
この一週間で、俺は見違えるほど強くなった。心なしか顔つきさえ変わったように見える。なんかこうしゅっとした感じで目力も強くなった。一週間前の自分が相手なら三秒でひねり潰せる自信がある。
偉人の言葉も、哲学も、教養も、なんもいらねぇ。
立ちはだかる物は全て力でねじ伏せちまえばいいのだから。なるほど、強いってこんなに気持ちいいんだな。努力した甲斐があったってもんだ。最強主人公が人気の理由が分かったぜ。みんな強くなっていきがりてぇんだな。
脳内でパピーとの闘いをシミュレートする。圧勝。百ぜロでボコボコにする未来しか見えない。
「たのしみだぜ……」
生まれ変わった俺の力をみせてやる。
ネオ鳳改の誕生だ。
◇◆◇◆◇
翌日。
俺はいつものように学校へ向かった。
放課後にパピーとの決闘があるとは思えないほど、心は凪いでいた。
教室へ入ると、彩奈が話しかけてくる。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
挨拶をしながら俺は教室を見渡し、ニィっと笑った。なぜかって? クラス全員が雑魚に見えたからだ。やろうと思えばいつでも殺せる。そんな自信が精神までもを屈強に仕立て上げていた。
首の骨をぽきぽきと鳴らしながら自分の席へ。セシルさんと目が合う。
「おはよう……って、どうしたんだい?」
「んあっ? なにが?」
「いや、なんだかいつもと雰囲気が違う気がしてね」
ほう、流石は吸血鬼といったところか。強者の気配に敏感なようだな。
「ちょっと心境の変化があってね」
「そうか。もっと緊張していると思っていたよ」
「むしろ楽しみなくらいさ。特訓の成果を試せるのがね」
「すごい自信だね」
「まぁね」
ふと、半熟ギャル共が目に入る。
この際だ、ちょいとケジメつけておくか。
俺は机にカバンを置いて、彼女らの元へ。
「おはよう、高宮さん」
「は? 鳳? なに? 何の用?」
高宮たちは露骨に嫌そうな顔をした。彩奈と仲がいい俺とあまり関わりたくないのだろう。
「いや、この前のこと謝っておきたくてな。たしかにお前らがいう通り、あの時の俺はダサかったかもしれない。認めよう。俺は間違っていた」
「はぁ?」
「俺に対して腹が立つ気持ちも分かる。だが、今の俺はあの時とは違う。だからこれからは対等だ。そうだろ?」
「そうだろ? っ何がだよ。意味わかんねぇし。てかなんでそんな強気なの? イメチェン?」
「イメチェン……変わったのはイメージだけじゃないぜ? 試してみるか?」
鋭く高宮を見据える。
「いや、別にいいし。興味ないから。てか話しかけないでくんない? キモイんだけど」
「なんだよ。つれないじゃねぇか。改めてお前たちとも仲良くしたいと思ってるんだけどな」
「なんであーしらがアンタと仲良くすんだっての」
「俺はもうそっち側と渡り合える人間だからだ」
高宮が口を半開きにしたまま固まった。おっと、俺のオーラにあてられちまったかな? あんまりビビらせちゃ可哀想だし、もう少し友好的に接してあげるとしよう。
「俺、結構お前たちのこと気に入ってるんだよね。みんな結構可愛いしさ、高宮さんも、その金髪すごい似合ってるよ」
「はっ、はぁっ!? なによ急に!?」
高宮が声を荒げた。その拍子に開いた胸元から見えるおっぱいがぷるんと揺れる。雅かな。後ろの二人も揺れる。ぷるん、ぷるん。はは、寒天工場かな?笑
「事実をいっただけだが? 高宮さんってさ、実は結構いい人なんじゃないかと思ってさ。気に入らない相手に文句は言っても、嫌がらせとかはしないしさ。なんだかんだで、本当は仲良くしたいだけなんじゃないかなって。じゃなきゃ普通わざわざ俺にあんなこと言わないだろ?」
「いやホントどうしちゃったの? ねぇセシルさん。あんたの彼氏おかしくなっちゃってるけど大丈夫?」
「今日は大事な日なんだ。調子に乗らせておいてくれ」
「よく分かんないけど、とりあえず無視していいってことね」
「うむ」
「オイオイひどいな。俺だって傷つくんだぜ? いくら最強でもな」
と言った僕を華麗にスルーし半熟三銃士と話し始める高宮。やれやれだぜ。
俺tueee型やれやれ系主人公にならざるを得ない対応に肩をすくめる。
すると、半熟三銃士のマチ子がぷっと噴き出した。
「あはは! なんか鳳おもしろいじゃん! あたしは結構好きだよ」
「わかるー。ウチも嫌いじゃないかも~」
真由美までもが同調し、高宮が戸惑うように聞いた。
「あんた達それ本気で言ってんの?」
「高宮だってホントは嬉しいんじゃないの?」
「はぁ!? なんで私が!! 普通にキモイっての!」
高宮が大仰な仕草で否定する。真由美が悪戯っぽく笑った。
「えーほんとかなぁ? だって高宮、1年のときは鳳のこと結構気になってたじゃん」
「真由美っ!! なんでそれっ……!!!!」
「高宮って意外と分かりやすいからねぇ。中身が終わってたから冷めてただけで、実はタイプなんでしょ?」
「ちっ……ちがっ!」
高宮の顔が体温計のように真っ赤に染まる。
半熟三銃士の絆は一度こわされた。だがそのおかげで遠慮のない関係を再構築することができたのかも知れない。やっぱりすべては最善だってこと。
てか中身終わってたってなんだよ。失礼すぎだろ。けどまぁ許そう。確かに旧鳳は終わっていた。逆に言えばネオ鳳改は始まっているのだ。
「うがー!! 鳳お前真に受けんじゃねぇぞ!! 勘違いしたらマジで殺すからな!!」
高宮がマチ子と真由美にとびかかり口をふさぐのを眺めながら、俺は内心でほくそ笑む。
なんだ。結構可愛いとこあるじゃないか。
でも残念。俺にはセシルっつーマイBooがいるもんで好きになっても構わんがあんまり困らせないでくれよプッシーキャット。どうやら”風”はまだ吹いてるみたいだ。神様のじゃなく、俺自身が起こした風がな。ふはは。
「なによその透かした笑みうっざ! マジでもうどっかいけし! しねし!」
「はいはい分かりましたよっと」
「だからその感じやめろ!」
「はは、やっぱり可愛いね高宮さん」
「……っ!」
俺は再度、やれやれとジェスチャーをしながら、自分の席に戻ったのであった。
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