昼食

 翌朝。


 校門をくぐったライルはロイネと腕を組みながら、いや強制的に組まされながら歩いていた。


 すれ違う多くの人が彼女の美しさに目を奪わて振り返るように見ている。そしてその後、羨望と嫉妬の眼差しをライルに向けてきた。


「こんなに人に見られるってことはやっぱり私たちの相性は良いってことだね」


「それは違うと思うぞ……」


 ……こりゃあクラスで話の種にされちまうな。


 そんなことを考えながら多くの視線に耐えつつ校舎を目指していると、


「おいおいおい、こ、これはどういうことだっ!?」


 後ろから頭を抱えたリオンがやってきた。


「おう、リオンか」


「説明してくれライルっ!なんでお前がクラスのマドンナのロイネちゃんと腕を組んで歩いてやがるっ!?」


「いやまぁこれには深い事情があって……」


「ロイネちゃん、今俺が、イケメンで紳士でたくましいこの俺が助けてやるからな!!」


 ライルの腕を掴んでは2人を離そうとするリオン。彼女に触らないのは確かに紳士だ。しかしそうは思わなかったのか、ロイネは彼を軽く突き飛ばした。


「私たちの仲は何人たりとも離せない。あなたは邪魔」


「トホホ……そ、そんなっ……!!」


 まるで塩をかけられたナメクジのように地面に座り込む。実に滑稽な姿だが、今後のことを考えると恐ろしい。ロイネと抜け駆けをするということは、クラスにいる彼女のファンクラブ、いや男子全員を敵に回したのだから。


「まさかロイネちゃんとライルがこんな関係だったなんて……」


「多分昨日の俺も驚きだったと思うぞ。お前にも詳しい話が必要だな。昼空いてるか?」


 ○□△×


 午前の授業が終わり、3人は食堂に向かった。コレスタニア学園は総勢1万を優に超える生徒数を誇り、食堂も数多く存在するのだが、今回3人が向かった食堂は普段利用している場所とはかなり離れた所だった。


 というのも、とある人物と待ち合わせをしていたためだ。食堂の一角のテーブルにとある人物を含めた4人は集結している。


「はじめまして僕はリオン・アルベルと申します。ライルの幼馴染と伺っておりましたが、とてもお美しくてびっくりしました。これからどうぞよろしくお願いします」


 猫を被るどころか普段じゃありえない改まったリオンがとある人物、フィアーネに対して頭を下げた。


「いつもライルと仲良くしてくれてありがとう。それよりも早速本題を話しましょう」


 彼女はたったそれだけ言うとすぐに視線を移す。まるで興味ないというように。


「グヘエッ……!!」


「振られたな」


「な、なんでだ……なんでお前はこんな可愛い幼馴染を持っておきながらロイネちゃんまでをも虜にするっ!許せない許せない……!!」


「さっき言った通りだ。仕方ねぇだろ。それよりも飯だ飯」


 4人はそのまま食事に移った。


「このサラダうめぇな。まぁそれと、話に入るが恐ろしい話だな。そんなよくわかんねぇ存在に命を狙われてるとは。聞いたところ学園の者ってわけじゃねぇし、ロイネちゃんの美貌に見惚れたストーカーってのも違うわけだし……怖かったろうロイネちゃん?俺が守って……」


「気持ち悪い、ムリ」


「グベエッ……!?」


 リオンは吐血したかのように錯覚するほど、清々しい倒れっぷりで椅子から転げ落ちる。

 

「い、いやぁ、ロイネちゃんの言葉の右ストレートが効いたぜ……。さすがクラスのマドンナ……」


「誰でもそう思うと……」


 そんな2人のイチャイチャを横目に流し、ライルはフィアーネに顔を向けた。


「俺らの担任が今日休みだった。今回の件とは関係ねぇと思うが、なんだか嫌な予感がするんだよな」


「そうなの?何もないといいわね」


 なぜ担任が休んだだけで話題に出すのか。それはこの世界の担任の欠席と前世での担任の欠席の重みが違うからだ。結論から言えばこちらの世界での欠席はかなり重い。


 病欠というのは魔法が発達したエルフの世界ではすぐに治るので、あまり考えられない。骨折やガンも治療魔法や専用のポーションで治るし、この都市にはそのような専門の魔法使いがいるので遅れはあっても欠席は中々にないだろう。


 治療魔法が効きにくい病気に罹って休んだという線もあり得なくはないが、その場合は集団感染などして話題になるはずだ。


 そして病欠以外の可能性、例えば親族が亡くなって忌引きという可能性もあるが、エルフは前も言ったように遥かに長寿なのでなかなか死ぬことはない。つまりは可能性として低い。


 となるとこの二つ以外の理由により欠席が最も可能性としては高い。例えば……例の集団に襲われたとか。


 ライルは視線を3人に戻す。


「それでこっからが本題なんだが、フィアーネとロイネに俺たちが入ってるサークル……というか同好会を紹介したい」


「へへっ、最初聞いた時はびっくりしたぜ。何せあんな寂れたサークル俺たちだけ入ってればいいって思ってたからな」


「確かにライルはサークルがサークルがって言ってたわね。でも今回の件とサークルにどんな繋がりが?」


「実は俺たちのサークルに生徒会副会長がいるんだ」


「えっ!?」


「…………」


 フィアーネにしては珍しくかなり驚いている。ロイネは相変わらずの無表情だが。


「その生徒会副会長なら何か知ってる、もしくは解決の糸口を知ってるんじゃないかと思ってな。それで今日の放課後、予定あるか?」


 頭を横に振る2人。


「よしじゃあ決定だな」


「ライルが思ってるように副会長は博識だしな。俺が行ってみればと提案したんだ。どうよ、かっこいいだろ?乗り換えも可能だぜ?」


 …………………………。


 カッコつけているところ悪いが2人の視線にリオンは映っていない。まさに眼中にない、だ。しかし可哀想なのとありがたい助言だったのでライルだけは見てあげることにした。


「まさかライルっ……お前、あっち系だったのか……!?」


「何がだよ」


「……ゴホン。まぁそれと悪いがお前ら3人で行ってくれ。俺はちっと野暮用ができたからな。フィアーネちゃん、ロイネちゃん。俺がいなくても悲しむなよ」


「むしろありがたい」


 冷静にロイネがそう一言。


「グビウォワッ……!!」


 弾け飛ぶリオンだった。

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