狙撃手
ロイネは男たちが武器を落としたのを視界に入れた。それは男たちが武器を滑らせたからでも、ロイネが何か手を打ったからでもない。
この場にはいなかったはずの第三者が現れたからだ。そんな第三者は建物の屋上から何かを放った。
それがなんだったのかは分からない。ただそれが放たれ、風を穿つような凄まじい音と同時に男たちの武器を貫通して、更には石造の頑丈なはずの道路にさえ穴を開けていた。
恐ろしいほどの貫通力。見ればまるで後光のように背中に日差しを浴びた男性が屋上から飛び降りた。
その男性にロイネは見覚えがあった。
……ライル・アーケス?私と同じクラスの彼がなんでこんなところに……。
そんな彼は機嫌が良さそうに口を開く。
「彼女をつけ回し……いや、お前たちの後をついて行って正解だったな」
「…………」
「ストーキングするんだったら、自分たちもストーキングされてないか注意した方がいいぞ」
そんなことを言う彼は新たな矢を取り出し、いつでも射てるように備える。対して暗殺者たちもまだまだやる気なのかナイフを構えた。
「俺としてはお前たちとやる意味がない。さっさと引いて欲しいんだが……やるか?」
そう言った彼は睨みつける。
得体の知れない怖気が走った。それは彼の敵意の対象ではないロイネでさえ感じとるほど。
まだ20前後の青年が放っていいものではない。
そしてもちろんロイネだけが騙されるようなハッタリの類ではない。現に数々の相手を葬り去ってきたであろう暗殺者が身構えているし、何より道路に残された傷跡がその証拠だ。
彼らのプレッシャーは相当なものだろう。だが流石は暗殺者。
そんな威圧を受けても若干の鈍りはあるが、1人の男が彼に接近する。
するとあろうことか彼は笑った。
「バカが」
冷徹にそう一言。途端に男の右腕が弾ける。当の本人は腕を失ったことにすら気づいていないのか、彼にナイフを振おうと、そこで腕がないことに気がつき慌てて後ろへ下がった。
ポタポタと鮮血が滴る。常人なら激痛でのたうち回るが、鍛え抜かれた精神力か魔法の力で男は耐えている。が、隠しきれない動揺が男たちの中で充満していた。
……いつ弓を放った?それに腕を弾き飛ばすなんてありえない……。
ロイネは唖然とする。
彼を見た時の最初の印象は、どこにでもいる初々しい学生のうちの1人だと思っていた。そんな彼が血生臭い経験や壮絶な過去を歩んできただろうとは当然思ってもみなかった。いや、それどころか彼に興味さえなかった。
しかし全然違う。
これほどの実力者が、右も左も分からないような顔をして他の新入生に紛れていたかと思うとロイネはゾッとする。そして何より彼のことが気になった。
ほぼ全ての者が困惑する中、唯一の例外である彼は口を開く。
「それで……どうする?次は足がお望みか?それとも頭、心臓?さっさと引かねえと大変なことになるぞ?」
どうやら彼の言葉は届いたのか、暗殺者たちはアイコンタクトをして後退りを始める。そのまま都会の闇へと消えて行った。
残ったのはロイネと彼、ライル・アーケス。
「…………………………」
急に現実に帰ったような空間は、面識はあっても話したことがない2人には気まずくもあった。そんな彼が近づいてくる。
「覚えてるかわからないが、同じクラスのライル・アーケスだ。あなたのことはわかる。クラスで人気のルバールさんだろ?ってまぁ、そんなことより傷口を見せてくれ」
「んっ……」
ロイネは素直に出血した肩口を見せる。するとちょっと失礼……と言った彼が、プニプニと触ってきた。
痛いのはもちろん、それ以上に恥ずかしくてムズムズする。
「ちょうど回復薬と解毒薬があるから掛けるぞ」
そう言って彼は二つを順番にふりかけてきた。すると途端に痛みが引いて、傷口が塞がっていく。そしてそのままテーピングまでされていった。
「なんでこんな場所にいたの?」
「えっ、それはまぁ、近くに俺の住む学生寮があるからだけど。べ、別に誰かの後をつけてきたとか、そんなんじゃない……ぞ、うん。たまたま脇道を歩いてたら遭遇したんだ」
「そうなんだ」
「そ、そうだ」
なぜか彼は少し挙動不審になった。
「どうだ、このぐらい巻けばいいか……」
そうしてテーピングを完了する。
「助けてくれてありがとう」
「えっ、あぁ別に気にしないでくれ。同じクラスの仲だ、これからよろしくな」
そう言った彼は立ち上がった。
「一応ポーション使ったから傷は治ってるはずだけど、今日は念の為テーピングしたままにしてくれ。明日学校行く前に外せばいい。じゃあ俺はこの辺で……」
「ちょっと待って」
素早く立ち去ろうとするライルを逃さないとばかりにロイネは彼の袖を掴んでいた。
「えっ?」
「私がさっきの連中に狙われてたのは分かるでしょ?多分あいつらはまだ諦めてない。また狙われたら危険。それに今度はライルも標的に入った」
ライル……初対面だがやけに馴れ馴れしい呼び方。しかしライルはそのまま話を促すように無言を貫いた。
「だからどうせだったら一緒にいた方が安全。私も連れてって」
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