暗殺者と彼女と俺

 コレスタニア学園近く、裏路地にて。


 1人の女子生徒が歩いていた。


 美しい銀髪に抜群のスタイル。それに似合わない無表情のような不貞腐れたような朴念仁さ。道端ですれ違えば十人中九人が振り返る彼女こそロイネ・ルバールだ。


 彼女はしばらく歩いた後、周囲に気付かれないほどさりげなく後ろに目をやる。


 こんな路地裏など誰もいないのでもっと堂々と振り返ればいいのだが、彼女は自分をつけ回す存在に気がついていた。


 ……数は2人。どっちもマントを着ている。


 そう、ロイネはストーカー被害を受けていた。


 学園から出た途端に始まったそのストーキングは、様子を伺っているのか付かず離れずの距離を維持して追跡してくる。


 このような場合、大通りにいた方が安全なのだろうが、安全な場所などどこにもないことをロイネは知っていたため、路地裏に入った。


 なぜならこれが初めてではないからだ。


 始まりは2週間ほど前、ロイネが通りを歩いていたところ怪しげな集団が市民を襲っていてそれを追い払ったのだ。それ以降ロイネはリストに入ったのか、襲われるようになった。


 そして今回も襲ってくるだろう、例えロイネが人前にいようとも。だから巻き添えが出ないようにあえて路地裏に入ったのだ。


 そんなロイネは先手をかけるように、


「いつまで隠れてるつもり?」


 そう問いかけた。すると、


 ヒュン!!!


 瞬時にナイフが飛んでくる。


 ロイネはそれを右手を突き出すことによって鉄の盾を出現させ、ガード。


 硬質な音がしてナイフは弾き返された。


 …………。


 現れたのは2人の存在。フードをつけているのでわからないが、おそらくは男だろうか。以前と同じ人物なのかは分からない。


「全く気持ちが悪い。何者なの?」


 しかし男たちは答えない。いや、答えとばかりに煌めきが生じる。それは一方の男が無数のナイフをローブ下から瞬時に取り出したからだ。そして飛びかかってくる。


 そんな男に対し、ロイネは再び盾を発生させることで正面衝突させた。


 男は少し後ろへふらつく。その隙を見逃さないとばかりにロイネは右手にレイピアを作り出す。


 魔法使いであるロイネは魔法によって瞬時に武器を作り出し、戦うことを得意としていた。魔法使いといえば魔法使いだが、一方で戦士ともいえる戦闘スタイルは相手の不意を付くのが得意な戦術。


 そんな魔法の武器で、すかさず男へと一閃。


「…………っ」


 男の苦痛が微かに漏れる。


 ローブ越しでわからないが肉の感触を得た。おそらく、右腕を突き刺したのだろう。


 そしてここぞとばかりに追撃を試みるが、もう1人の男が石の弾丸を放ってきたのでバックステップし、距離を取った。


 そしてお互いに見合う形となる。


「…………」


 そのままどちらも動こうとはしない。そのためロイネは逡巡する。


 ……前は魔法なんて使ってこなかったのに。1人は魔法使いってこと?


 エルフなら誰でも一つや二つ魔法は扱えるので確証はないが、少なくとも暗殺に使うくらいだ。1人は生粋の魔法使いという線が濃厚だろうか。


 となると前回とはメンバーが違うように感じる。それほど大きい組織なのか。


「なんで私を狙う?」


「…………」


 しかしというか、案の定というか、返事は返ってこない。


 時間の無駄と思ったロイネは攻守交代とばかりに攻めようとする。すると、


「……お前のような強者は邪魔だ。我らの計画の邪魔になる」


 ……喋った!?


 思ってもみない返答にロイネは咄嗟に下がった。


 ……お前のような強者は邪魔だってどういうこと?……我らの計画?


 言っていることが全くわからない。おそらくあちらも伝えるために言ったわけではないので仕方ないのだが、それよりも一つ気になったことがあった。


 ……あの男の声、どこかで聞き覚えがある。もしか……いや、違う、それより!!


 ロイネはハッとした。そして急いで振り返る。


 敵前だというのに呑気に思考していた自分はなんて愚かなのか。相手が暗殺者であれなんであれ、顔を隠しているのだ。それは当然バレたくないということ。それにもかかわらず喋ったということはロイネを確実に殺せる算段が整ったという訳で、


 しかし振り返ったところで遅かった。完全には避けきれなかったロイネの肩口にナイフが突き刺さる。


「くっ……!」


 後ろから現れた新たな刺客がナイフを放ってきたのだ。これで計三人。


「……その命、貰った」


 弱ったロイネに飛びかかってくる。


 まさに絶対絶命。


 そんな時、


「まさか4人目は想像できないよな」


 呑気な男の声が聞こえた。

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