旅立ち
「……ラ……ライ……ライル」
目を覚ますと、優しげな表情をしたフィアーネがゆすっていた。
「ふふっ、やっと起きた。ライルおはよう♪」
「おはようフィアーネ」
「もう起きるつもりだったのかも知れないけど起こしちゃった。私はもう先に食べちゃったけど、リビング行って朝ごはん食べてね」
「あぁ分かった」
今日は特別な日だから機嫌がいいのか。彼女はルンルンで部屋を出ていく。そんな姿を見てライルもベッドから降りた。
そして何気なく部屋を見渡す。
今日は特別な日と言ったが、村を出て学園に行く日なのだ。なので狩に使う狩猟道具も日常品も、今この部屋にはない。一ヶ月前よりかなりこざっぱりとした部屋がそこにはあった。
もうすでに生活に必要な道具や狩猟道具はほとんど学生寮へと運び込んでいる。あとはこの部屋を出るだけ。
思えばこの部屋とも長い付き合いだった。両親が行方不明となってから今まで15年住んできたのだ。しかし別れがあれば出会いもある。今度は学生寮が慣れ親しむべき部屋へとなるのだろう。
そんなことを思いつつリビングへとライルは向かった。
「おじさんおばさん、おはよう」
2人に挨拶を返され、ライルはテーブルに着く。これが最後の朝食。最後の朝食はパン、スープ、サラダと、いつも通りのものだった。
しかしいつも通りなのがいいものだ。変に特別感を出されてもしょうがないし、それに帰ってくることはいつでもできる。
そんな朝食を記憶に刻みつけるように堪能しているとお茶を飲むおじさんが話しかけてきた。
「これで、しばらくはこの家ともお別れなのだろう?ライル」
その顔はどこか寂しそうな顔をしている。
「そうだね。でもいつでも帰ってくることはできるし、俺の故郷はこの村とこの家だよ」
「そう言ってもらえると嬉しい。お前が学園に行っても幸せで充実した生活を送れることを願ってる。それと、
おじさんはにっこりと笑った。
それと同時に彼の言いたいことをライルは悟る。おそらくそれはフィアーネを頼む、ではなくて娘を頼むという意味なのだろう。それは決してライルを家族ではないと除け者にしているのではなくて、男として娘を頼んだ、という意味だ。
そんなおじさんに真剣に頷いたライルは朝食を食べ終わり、規定の時間まで村を見ていた。
最後の村の景色はなんだか不思議な光景に見えた。
時間になり、村の入り口に向かう。そこには大勢の人がお見送りのために集合してくれていた。お世話になった近所の人や弓を教えてもらった師匠、副村長、人間との戦いで隣にいたエルフの男性、村長の家族。
ほとんどの人が集まってくれていたようだった。その先頭にはおじさんとおばさんの姿がある。
「お父さん、お母さん、ありがとう!!」
「フィアーネ、元気でな」
「いつでも帰って来なさいね」
「うん!!」
三人は涙を流して抱き合っている。そんな光景にライルは微笑んでいると、
「俺の教えた弓、忘れるなよ?」
師匠がポンと肩を叩いてきた。
「ええ。ありがとう師匠。もっと鍛えて、次会う時は驚かせますよ」
「も、もう既に驚いてるんだけどな……」
意外と引き気味の師匠。確かに弓の腕はすでにライルの方が圧倒的かもしれないが、それでも師匠の弓の扱いは洗練されている。そういう面では、まだ師匠に及んでないと言って良いだろう。
そんな師匠と固い握手をし、フィアーネの元へ行く。
「よし、そろそろ行くか」
「え、ええ。そうね」
彼女は瞳に残った涙を手で拭い、笑顔になった。そんな彼女と共に歩いていく。
歩くごとに遠くなっていく彼ら。そんな彼らに最後に腕を振り、目に焼き付けると、ライルはもうそれ以上振り返らなかった。
そして魔法を起動させる。
するとふわりとライルの体が浮く。続いてフィアーネも上昇した。
これは飛行の魔法。エルフは魔法が得意で、中でも汎用性のある移動魔法を習得する者は少なくない。当然ながら2人もできた。
それを使ってまずは最寄りの街へと向かうのだった。
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