現状把握

 現在の時刻は10時を回る。爽やかな風にどこまでも広がる青空、のんびりな雲。


 前世ならばトンビが鳴いていそうだが、こちらの世界ではもっと別の鳥が鳴いていた。



 …………あれから一ヶ月経った。


 あれ以降、森に人間が近寄ることは見られない。また国境付近にエルフの兵が置かれ、少し状況の変化は起こったが、ルビー村はまたかつてのように普段の暮らしを取り戻し、穏やかな日常が戻ってきた。


 今日やることは特にない。エルフは気ままな種族なのだ。ライルはメモ帳に記したことを確認するようにめくっていく。


 そこに書かれているのはこの世界に来てからわかった情報などだ。まず国関係でわかったことなどを説明すると、


 現在、ライルはセードラ妖精国に住んでいる。一人の強大な妖精王、ジアルートというエルフが君臨し、国土の80%がセレスレット大森林という森に覆われた大国だ。ちなみにルビー村は国の極東にある。


 そしてその東部にあるのは人間の国、グレイズ王国。例の不届な連中を輩出した国だ。人間の国とは不仲のためあまり情報は入ってこないが、どうやら君主制で、最近勇者が誕生したらしい。ライルはその勇者が転生者だと睨んでいるが、真相は不明だ。


 もしかしたら今後エルフと人間の間で大きな戦争が起きるかもしれない。その時はライルと代表者が戦う、なんてこともあり得るだろう。


 またセードラ王国の西部にはダークエルフがおさめる国、エルドリア帝国がある。国王はいないが女将軍が国を仕切っているようだ。またセードラとは不仲で世界樹、カウヌ・ウィア=セードラの領有権を巡って争っている。


「この弓もその木から出来てるしな」


 ライルは座った椅子に立てかけられた弓を撫でる。


 ちなみにライルは帝国に転生者、代表者がいる可能性は少ないと見ている。なぜならこの国は元々セードラ王国領だったと聞いたことがあるからだ。それに選ばれし者は5人なのにわざわざエルフとダークエルフとで分けるだろうか。それらを一纏めに"エルフ"という代表者にしているんではなかろうか。


 それ意外は情報が足りず、不確定な要素としてまとめてあるが、グレイズ帝国の東には魔人の国があるようだ。こればかりは名前が分からず、どのような特徴があるかもわからないが、少なくとも魔人がいることは確からしい。


 それとこれまた不確定要素だが、どこかの海を渡った先に竜人がいるようだ。今のところは国も位置も誰がトップかも分からない。半ば御伽話の世界に片足突っ込んでいるが、それでも本や口伝えでそう聞いた。


 もし、の話だが今述べた人間、魔人、竜人に1人ずつ代表者がいるならば、4人の種族は確定したことになる。となると、気になってくるのは残りの1種族は何なのだろうか、ということ。


 ドラゴンなのかドワーフなのかヴァンパイアなのか亜人なのか、はたまたライルじゃわからない別の種族なのだろうか。


 …‥全くわからんな。


 ライルはメモ帳を置いた。


 ただ一つわかることは自分が分からないように、相手もまた何の種族か分かってないということだ。もしかして今この瞬間も一体誰だ?と、同じく頭を悩ませている代表者がいると想像すると、面白いことこの上ない。


 とりあえず今のライルにできることと言えば国の王になれるように努力することと、来たるべき代表者との戦いに備えて特訓することくらいか。


 そのためライルは日々弓の能力向上のために励んでいる。また転生により得た"極める力"で作用したのは弓だけじゃない。とある武器も超人レベルに到達したと自負している。


 それがなんなのかは今後のお楽しみだ。ライル的にはあまり見せる瞬間がこないと良いなと思っているが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る