夜空
ライルたちは村長と、もう1人のエルフの男性の遺体を丁重に運んで村に帰った。
村には大勢の女性と子供達が出迎えてくれた。フィアーネも抱きついてきて、「よかったっ、よかったぁ」と言ってくれた。
一時期は村
犠牲者が2人で済んでよかったと思うのか、それとも犠牲者が2人も出たと嘆くのか。
感情論を無くせば村長という損失は痛いものの、2人で済んだことに感謝すべきだろう。しかし息をしていない村長に悲しむ遺族を見てライルはよく分からなくなった。
そんな複雑な感情を抱えつつ、我が家に帰る。
そして数時間経ち、夕方。
かつて住んでいた実家にライルの姿はあった。
「こっちが良い?いやこっちもありか?」
普段滅多に開けないクローゼットを開いて二つの服を手に取り、ライルは悩んでいる。
一つは白がベースで
今夜急遽、お通夜……エルフでいう還霊の儀が決まったのだ。そのために正装を着なくてはならない。
そしてこれらこそがエルフの正装だ。人間で言うところの喪服のようなものであり、また伝統衣装として冠婚葬祭によく着られている。あまりにも派手すぎるが、これには深い訳がある。
エルフにとってのお葬式とは死者の身体と魂を大森林に還すこと。母なる大地から産まれたものは母なる大地に還さなくてはならない。そう考えられている。
そのため火葬ではなく土葬が用いられる。そして死者の精神は自然に還されるのだが、森や川を青、緑、白、このような色で表すのだ。そのため、派手な色の服が使われる。
皆が思うようなエルフエルフした服など普段着ない。着るのは人間と大差ない地味な服だ。
ライルは試しに前者を着てみた。
「う〜〜ん、こっちの方がいいかなぁ?」
……なんかこれだと完全に魔法使いなんだよな。
鏡を見て思い悩む。
「良いじゃない。カッコいいよ……///」
フィアーネが後ろに手を組んで立っていた。見れば彼女も伝統衣装を着ており、いつもはツインテールなところ、ポニーテールにしている。そしてなぜか顔がほんのり紅潮していた。
伝統衣装というのは男女でかなり差があり、女性の場合は少々過激な服だ。何せX字のトーガのようなものを着ており、肌は露出してるし、ヘソは見えてるし、胸元は空いている。
胸が大きい人が着ればかなり暴力的な光景になる。これでは冠婚葬祭ではなく、祭祭祭祭だ。しかしこの世界のエルフはそれを見てもなんとも思わないのだから不思議である。
そして言わずもがな彼女の正装姿は……祭りだった。しかもかなり過激な祭り。股間が長岡大花火大会。
冗談はさておき、ライルは素面に対応する。
「じゃあこっちにするか。父さんの服でもあるし、この件を経て父さんも報われるしな」
「そうね。それで……どう?私の服///」
見て見てと言うくせに顔は真っ赤っかの彼女。
それは問いであって、問いでない。おそらくあれを言って欲しいのだろう。だからライルも空気を読んでみる。
「似合ってるよ。最高に可愛いぞ」
「そ、その……ありがとう///」
一方、フィアーネはムズムズしていた。
……ちゃんとした服なのに、ライルに見られと熱くなっちゃうっ。それに下半身も……。
いつからだろうか、分からない。ただいつしかライルに見られると身体の中が熱って、彼に抱きついてしまいたくなる。
なぜこんなにも胸が苦しいのか。彼にこの気持ちを打ち明けてしまいたい。
「……………………っ♡」
「……………………?」
………………熱か?
先ほどから観察していたのだが、あまりにも彼女の顔が赤い。急な精神的な負担で身体を壊した可能性もある。
だから彼女に、無理はするなよ?と、言っておいた。彼女は不思議そうな顔をしていたが。
すると、
「ライル〜〜フィアーネ、そろそろよ〜〜」
玄関からおばさんの声がした。
「じゃあ行こうか」
「え、えぇ……///」
だから2人も玄関に向かって歩いて行く。
そして夜の還霊の儀。
森を傷つけないため、普段は火遊びなど絶対やらないエルフだが、今日は多くの火が灯っていた。
これも死者を見送るため。
副村長が二つの棺に祈りを捧げ、後ろで村中の人々が頭を下げる。ライルも多くの人に混じって頭を下げていた。
還霊の儀はその後も続き、夜も更けたところで解散する。
暗い夜空に蒼い星々が光る中、ライルはおじさんと2人で歩いていた。するとおじさんが口を開く。
「これで彼と村長の魂も安らぐだろう」
「そうだね」
「なんであの時、人間たちを追撃したんだ?」
怒りでも呆れでもなく、それは純粋な疑問。
「別にあいつが殺したわけじゃない。でも、あいつだけは生かしちゃおけない気がした」
あいつとは命令をしたリーダー格の男のことだ。
「そうなのか。ありがとう、村長の仇を取ってくれて。もうすぐお前が旅立つことになっても私たちはずっと家族だ。そして覚えていて欲しい。ライルには帰る家があるということを」
「ありがとうおじさん、いや父さん」
綺麗や夜空はまるで誰かが見守ってくれているように優しく、2人を照らしていたのだった。
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